いすゞ自動車、デンソー、トヨタ自動車、日野自動車、Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)の5社は7月8日、水素を燃料とする大型商用車向け内燃エンジンの企画・基礎研究を開始すると発表しました。
水素は、燃料電池車(FCEV)の燃料として知られていますが、ガソリンや軽油と同様に、内燃エンジンで燃焼させて利用することも可能で、カーボンニュートラル社会実現に向けた選択肢の一つとして、国内外で研究が進められています。
今回の大型商用車での水素エンジン開発は、大型商用車による運送・物流領域におけるCO2削減ソリューションの一つとして取り組むもので、すでにレース競技車両を通じて水素ICE開発に取り組んでいるトヨタ、デンソーに加え、商用車メーカーのいすゞ、日野がその技術とノウハウを持ち寄ります。残る1社のCJPTは、トヨタ、いすゞ、日野、スズキ、ダイハツの5社協業による商用車版CASEの合弁会社です。
このプロジェクトの中で、大型車メーカーのいすゞは、ガス燃料エンジン技術とディーゼルエンジン技術に関する領域を担当することになっています。
また、同じく大型車メーカーの日野も、ディーゼルエンジン技術に関する領域を担当します。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部 写真/フルロード編集部・トヨタ自動車
トラックでメリット大の水素エンジン
水素エンジンは、燃料タンクが圧力容器となる以外のメカニズムが、従来の内燃エンジン車(特にガス燃料エンジン車)とよく似た構成で成立できるのが特徴です。
特にエンジンの燃焼方式がオットーサイクル式の場合は、排ガス対策(NOx浄化)もガソリン車・天然ガス車と同様の三元触媒を使うことで、十分にクリーン化できます。航続距離も、極低温の圧力容器で水素を液体化して貯蔵できれば、ディーゼル車に匹敵する航続距離の確保が可能になると考えられています。
そして、水素燃料は、ディーゼルサイクル(圧縮着火燃焼)式でも使うことができます。技術的なハードルが高いこと、排ガス後処理の課題はありますが、ディーゼルサイクルの特徴である低回転域での優れたトルク特性、良好な燃費を得ることができ、さらに筒内直接噴射を用いれば、オットーサイクル以上の高い熱効率、すなわち動力性能と燃費を得ることができます。
こういった特徴は、燃料電池と高電圧バッテリーを搭載しなければならないFCEVに対して、重量や積載スペースが制約されない長所につながります。とりわけ大型商用車においては、積載容積・積載量の確保で有利となり、さらに燃料電池の寿命がまだまだ短い現時点では、耐久性でも大きな優位性があるといえます。
水素エンジン開発の歴史
近年では、トヨタが2021年5月から、圧縮水素(気体)を燃料とする1.6L・直列3気筒インタークーラー付ターボエンジン(デンソーも開発に関与)を搭載した「ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」を、自動車レースであるスーパー耐久シリーズに参戦させ、水素ICEの技術開発と水素の活用拡大に向けた取り組みを進めていることが知られています。
実は、日本での水素エンジンの開発そのものは、自動車公害が深刻化した70年代から続けられてきました。有名なのは、東京都市大学(旧武蔵工業大学)での研究で、その一環として、乗用車、トラック、バスなど様々なベース車を用いた研究車両が開発されました。
特に1994年頃に開発された「武蔵9号」は、日野の中型トラック「レンジャーFD」をベースとした水素エンジン車ですが、燃料となる液体水素の極低温貯蔵システムを、なんと荷箱内の保冷にも活用するというユニークな研究車両で、箱根ターンパイクでの試走が公開されたこともありました。
また、2009年には、やはり日野の小型バス「リエッセ」をベースとした水素エンジンバスが、2010年には、小型トラック「デュトロハイブリッド」をべースに水素エンジンを搭載した水素ハイブリッドトラックが開発され、いずれも登録ナンバーを取得し、公道走行を実現しています。
水素エンジンは、排ガスを伴うことから、燃料電池技術・高電圧バッテリー技術が十分な完成度を有するまでの過渡的な技術ともいわれていますが、前述のようにトラックにとってはメリットが大きく、燃料インフラもFCEVと共用できることから、今後の研究開発の進展次第では非常に有力な技術となる可能性もあります。
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