スイス製電気自動車イセッタは、こんなにも楽しいのだ。3年遅れで2022年夏に登場する「マイクロリーノ」。電気自動車で、かわいくて、手頃な価格、それが狙いだ。値段は? リーズナブル? 我々は、スイスのミニモービルの走りを試してみた。以下にレポート。
何度見ても楽しい
3年遅れで、ついに「マイクロリーノ」が発売される。とにかく。すでに予約している人には、2022年夏から車両デリバリーが開始される。これは、スイスのマイクロモビリティシステム社(Micro Mobility Systems AG)が、5月末にオンラインプレゼンテーションで発表したものだ。まずは、スイス、ドイツ、イタリアの「パイオニアシリーズ」の最初の999人の購入者に納車される。
「パイオニア」の価格? 価格は約12,500ユーロ(約172万円)からと、比較的リーズナブルな値段に設定されている。「パイオニアシリーズ」は、10.5kWhのバッテリー、177kmの航続距離、サンルーフを標準装備している。以前にもレポートした通り、我々は、すでにそのプロトタイプモデルに試乗し、その走りの楽しさを知っている。
マイクロリーノ マキシマム
実際にA地点からB地点まで自力で移動する場合、どのくらいのスペースが必要なのだろうか? コンパクトやエステート、あるいはSUVは必要なのか? 正直なところ、日常の短距離間での移動にはあまり向いていない。原則として、2つのシートといくつかの収納スペースがあれば、日常の移動には十分だ。そこで登場したのが「マイクロリーノ」だ。スイスのマイクロモビリティシステム社は、この小さな電気自動車で、ますます大型化する自動車の流れに逆らい、モビリティのあり方を示したいと考えている。そしてそれは本当に実用的で楽しいものなのだろうか? AUTO BILDが試してみた!
1950年代のキャビンスクーターがモデル
チューリッヒでのロケ。マイクロモビリティシステム社は大きな一戸建て住宅の最上階にあり、1階はボディショップになっている。そしてその手前には、「マイクロリーノ」と呼ばれるカラフルな電動ミニモービルがたくさん並んでいた。見ているだけでニヤニヤしてしまう。「1950年代のキャビンスクーターをベースに、時代を超えたデザインを目指しました」と、マイクロモビリティシステム社のCMO、マーリン オボター氏は説明する。フロントヒンジのドアは、当然ながらイセッタの記憶を呼び覚ます。しかし、「マイクロリーノ」は、決して「イセッタ」の100%コピーではない。フロントとリアの連続した光帯と、エクステリアミラーと一体化したLEDヘッドライトがモダンな印象を与えている。
試乗車はマットグレーで、まだプロトタイプだ。ドアを開けて、乗り込む。ステアリングホイールとステアリングコラムは固定式で、フルレングスのベンチシートに座る。プロトタイプらしく、パネルの一部がまだ欠けており、そのためコックピットの撮影はまだ許可されていない。ステアリングの後ろにはデジタルコックピットがあり、ドアのホルダーバーにも小型ディスプレイが設置されている。ヒーターやBluetooth、スマートフォンホルダー、シートヒーターまである。車検証上ではバイクに分類される「マイクロリーノ」でも、アメニティはすでに十分なレベルで整っているわけだ。
マイクロリーノは、20馬力でも運転が楽しい
そして、ハンドブレーキを解除し、ギアセレクターを「D」にセットして、いざ出発だ。15kWの電気モーター(20馬力)が、約450kgの乾燥重量に何の問題もないことはすぐにわかる。2人乗っても、時速50kmの上り坂は問題ない。最高速度は90km/hで、この球体ではかなり速く感じる。カーブ? 楽しい! 比較的広いリアのトレッドと独立懸架式サスペンションのおかげで、「マイクロリーノ」はコーナーリングも、そこそここなせるし、ステアリングもサーボレスでダイレクト感がいい。我々が運転した試作機では、やはり断熱材が不足しているため、かなり大きな音がした。この点は、高すぎる着座位置と同様、量産時に改善される予定だ。
最大航続距離200km
一方、好感度の高さは、もう抜群だ。道行く人々は首をかしげながら、スマートフォンを取り出して、懸命に撮影する。全長2.4mにもかかわらず、これほど道路で目立つ存在はない。大きさといえば、2人分のシートのほかに、荷物も積めるスペースがあることだ。トランクに2箱の飲み物を入れても問題ない。帰路につかなければならない時間になったが、バッテリーにはまだ十分な量の燃料があった。マイクロ社は、プロトタイプの8kWhバッテリーで、最大航続距離125km、14.4kWhで200kmとしている。家庭用コンセントで約4時間での充電が可能だ。
「マイクロリーノ」は、すでにトリノで生産が始まっている。そしてこの夏から、まず「パイオニアシリーズ」がデリバリー開始される。ただし、スイスに限る。その後、ドイツ、イタリアの購入客という順番になる。2022年の最終四半期、もしくは翌年の第1四半期までには「マイクロリーノ」を受け取れるという予定だ。さらに、レトロ好きには「ドルチェ」、未来派には「コンペティツィオーネ」というバリエーションも用意される。その他のヨーロッパ地域は、概ね2023年まで待つ必要がある。
6kWhバッテリーで航続距離91kmのベーシックな「アーバン」バージョンは、2023年夏までには発売される予定だ。価格は約12,500ユーロ(約172万円)からとなる予定だ。メーカーによれば、すでに3万人以上が購入に関心を寄せているという。しかし、納期や価格などはまだ曖昧なままだ。
【何度見ても楽しいフォトギャラリー】
結論:
マイクロリーノは、本格的なクルマにはなり得ないし、なってはいけないし、シリーズ生産モデルとなるには、まだ時間がかかるだろう。しかし、プロトタイプに乗った感想を率直に述べるなら、その将来的展望はとても期待できそうだし、運転するのも楽しい。このコンセプトは、ちょっとした移動や通勤の際のセカンドカー代わりにもなり得るので、シリーズ生産化にはより一層期待している。
【ABJのコメント】
現在ドイツで売れているEVは、「フォルクスワーゲンUP!(のEV)」なのだという。考えてみれば、アウトバーンをガンガン走ったり、長距離を一気に走ったりするような用途には、まだ今のEVでは不満足な部分も多いし、第一に価格の問題もあるだろう。
そういう意味では、街中を中心にしたコミューター的な使い方としての小さなEV、というのは「UP!」限らず、現時点では一番有用で、合目的的なカテゴリーなのではないだろうか。
今回の「マイクロリーノ(イセッタ)」も、もちろんそういうコミューターの一台であり、これで長距離を走ったりするような自動車ではないことは一目瞭然である。そういう目で見ると、このイセッタはなんとも魅了的に見える。何しろかわいいルックスだし、小さいことで駐車スペースの問題なども(かつてスマートがヨーロッパにおいて、路上に縦に置いてレストランなどに行ったような使い方をされていたように)、この「マイクロリーノ」も、ちょこまかと街中を走るための一台なのである。
ヨーロッパのように、路上駐車が合法的に許されている場所で、縦に置いた場合、フロントドアから降りられるのは便利だし、排気ガスを出さないことによって多くのヨーロッパの街では歓迎されるのではないだろうか。
フロントドアによる前面衝突の安全性や、やや頼りなく見えるシート構造、エアバックが付いているか、ABSだって装備されているかどうか不明である。だがヨーロッパで売られている小さなマイクロカーのように、濡れない程度のスクーター感覚で考えれば十分実用的だし、なにしろお洒落である。エアコンも短時間なら不要と割り切ればいいし、乗る場所を限定すればきっと弱者の足になりえると思う。
日本でも地方の都市や、過疎の村などで、こういう簡便なEVが気楽に購入できるようになったら、きっと魅力的なモビリティが成立すると思えるのだが・・・。(KO)
Text: Moritz Doka and Jakob Gierth
加筆: 大林晃平