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 チャイルドシートを使わなければいけないのは何歳までか。ジュニアシートは何歳までか。その年齢を超えればシートベルトだけでよいのか。否。一律に年齢で区切るのは大きな問題がある。そう指摘するのは自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏。国土交通省とJAFの皆さま、ぜひお聞き届けください。

文/加藤久美子、画像・写真/AdobeStock、国土交通省ほか

【画像ギャラリー】大変なのはわかるけど…チャイルドシート/ジュニアシートは「正しい使い方の知識」が必要な安全装備!!(9枚)画像ギャラリー

■一人だけ車外に投げ出された小学生

 2022年5月22日、札幌市内から約30kmに位置する北海道空知郡南幌(なんぽろ)町南17線西10番地の町道で、交通事故が発生した。トヨタ・エスティマが右折対向車を避ける際、路外に逸脱したことが原因とされている。

「路外」とは路肩にある農業用排水路のことで、エスティマはここに転落してしまった。

 この事故で助手席に乗っていた小学3年生の男児だけが車外に投げされて意識不明の重体となった。ドクターヘリで搬送される際、意識がない状態だったという。エスティマにはほかに男児の家族など合計4名の大人が乗っていたが命に別状はなかった。

 現場は田畑に囲まれた見通しのいい道路で交差点に信号機はない。グーグルマップのストリートビューで周囲を確認すると、碁盤の目のように区切られた周囲の道路にも信号らしきものが見当たらない。

チャイルドシートは最も大切な安全装備のひとつだが、「正しい使い方」の知識は驚くほど広まっていない実情がある(写真:AdobeStock@buritora)

 どんな場所なのか。SNSなどに投稿された地元の人々の書き込みをまとめると、以下となる。

「この場所はみんな、スピードを出して走る場所です。信号も少ないですし。速度が出やすい。事故多発区域です」
「千歳空港から札幌に向かうルートの一つでもあるので、道路に不案内なレンタカーもよく見ます。結構飛ばしていますね」
「事故が起こった交差点は一時停止の標識がありますが、ここを走るクルマの9割は一時停止しません。ここだけじゃなくて周囲も同様。この辺に住んでいる人は一時停止の標識なんてほとんど無視する。いつか重大な事故が起こるのではないかと思っていました」

 排水路への転落の衝撃で助手席に乗っていた男児が車外に放り出されたわけだが、報道によるとこの男児はシートベルトを着用していた。シートベルトをしていたのに、なぜ車外に放出されたのか。

 ニュースの中の警察のコメントには「シートベルトが体に合っていなかったのではないか」というものがあった。

■体に合わないシートベルトは危険

 男児は小学校3年生ということで、年齢は8-9歳と推測される。小学3年生男児の平均身長は文部科学省の学校保健統計調査結果によると(令和3年7月公開)8~9歳男児の平均身長は130cm前後である。

 シートベルトが安全に着用できるまであと20cm近くも身長が足らない。

 横転した際に肩ベルト(斜めのベルト)から体がすり抜け、衝撃で腰ベルトからもすり抜けて、車外に投げ出された可能性がある。シートベルトが安全に使用できるのはクルマのタイプにもよるが最低でも145cm以上。子どもの頭身を考えれば身長150cmを超えてからが望ましいとされる。

 エスティマの助手席にシートベルトの高さを調整するアジャスターがついていたかは定かではないが、最も低い状態にしていても身長130cmには対応できないだろう。

 ではどのようにシートベルトを使っていれば良かったのか。

 それは、「体に合ったジュニアシートを使ってシートベルトの高さを適正な位置にセットすること」である。

 日本では2000年4月1日以降、運転者に対して「6歳未満の幼児を乗せる場合には保安基準を満たしたチャイルドシートを使用する」ことが義務付けられるようになった。

 では6歳を過ぎたらチャイルドシートは不要なのか。もちろんそんなことはない。2008年6月1日には後席シートベルトの着用が義務付けられるようになり、クルマに乗る際は(配送業など一部の例外を除いて)全席でシートベルトが必須となった。妊娠中の女性のおいても2008年11月に「シートベルト教則」が改訂されてからは教習所の学科教習でも「妊娠中のシートベルト着用の重要性」を学んでいるはず。

 正しい着用方法とは、鎖骨と両側の腰骨を通すことで、おなかの丸みを避けて着用する。つまり腰ベルトがおなかの上にかからないようにつけるということである。

■シートベルトは身長何cm以上で安全に使用できるのか?

 車両シートベルトが正しく着用できるのは身長145~150cmを超えてからである。筆者自身がこれまで自動車メーカー各社に確認しているが、「クルマのシートベルトが安全に使えるのは身長何センチ以上ですか?」という質問に対して、

「身長145cm以上で安全の確認をしています」
「現在、最も小さな人体ダミーは「AF05」(成人女性の5%に入る体格という意味)を使っています。AF05は身長150cmです」

などの回答がそろった。

 クルマにもよるが、後部座席のシートベルト(肩ベルトが出てくる位置)はピラーから出るものと、シート本体の肩部分から出てくるものの2種が主流だが、ピラーからとシート本体からでは当然、高さが異なる。スポーツカーやクーペタイプなど車高の低いクルマの中には身長140cm前後からでも後席ベルトが安全に使えるクルマもあるが、ミニバンなどピラーや天井から出るベルトの場合は145~150cm以上を想定しているといっていいだろう。

 その証拠に日本の自動車メーカーが設定する純正ジュニアシートは2016年の時点で全社が身長150㎝まで使えるジュニアシートを設定している。(※助手席でジュニアシートを使う際には万が一の際、エアバッグの衝撃を避けるためシートを最後部まで下げてから使用のこと)

 2016/1/25 交通政策審議会 第3回 技術安全WGの資料を見てみよう。

交通政策審議会 第3回 技術安全ワーキンググループ資料(2016/1/25)

 各社身長100cm~150cmまで使える学童用シート(ジュニアシート)を純正オプションとしてラインナップしている。これは言い換えれば、「身長150cmを超えるまではシートベルトだけでは危険、ジュニアシートを使ってください」というメーカーからのメッセージだ。

■座面だけのジュニアシート使用にも実は決まりがある

 学童用も幼児用もヘッドレストが干渉する取り付け方はNG この場合はクルマ側のヘッドレストを抜いて装着すべき

 ジュニアシートというと、多くの人は座面だけのブースター(かさ上げ)シートを思い浮かべるだろう。また近年は座面部分がなく、肩ベルトの高さを調整して(肩ベルトの支点を低くして子供の体に合わせる)使用するタイプも出てきている。いずれも、背もたれやヘッドレストが存在しないタイプだ。

 この「座面だけ」のジュニアシートは2017年2月9日以降にECE R44/04(日本が採択している国連欧州基準)の認証を受ける製品に関しては、身長125cm、体重22kgを超えてからの使用が義務付けられるようになった。

いわゆる「ジュニアシート」

 それ以前に認証を受けたものは、体重15kg~使用できるとされているが、なかには基準が変わる直前に滑り込みで認証を受けた製品も存在する。

 しかし、ここで考えてみてほしい。座面だけのシートに対する安全基準がなぜ厳しくなったのか。身長125cm、体重22kgという体格での使用を「新たに」追加して義務付けた理由は何か。

 それはチャイルドシートの安全性を審査する国際機関において、「身長125cm、体重22kg以下で背もたれのない座面だけのジュニアシートを使用するのは危険」という結論が出たからである。確かに背もたれなしのブースターシートは値段も2000円前後からありコンパクトで場所を取らない利点はある。しかしそれらは、身長125cmを超えてからの使用となる。

 なお、古い基準で認証を得ているブースターシートの中には「体重15kg以上、3歳以上で使用できます」と書いているものもある。本当に子どもの安全を考える良心的なメーカーなら、古い基準で認証を受けたブースターシートでも、「身長125cm、体重22kg以上で使用してください」と書いてある。

■ジュニアシートを使っていて亡くなった5歳男児の例

 ニュースでも報道されたが、昨年(2021年)8月末、福岡県で安全基準(ECE R44/04)に適合したジュニアシート(座面だけのブースターシート)を使用していたにも関わらず、助手席に乗っていた5歳男児が死亡する痛ましい事故が起きた。男児は助手席に乗っており、家族が運転する軽自動車が前車に追突した際の衝撃で腰ベルトがおなかに食い込み、結果的に亡くなってしまった。

 事故の数日後、対応した警察や救急隊員にその時の様子を聞くことができた。男児は救急車が到着した時には意識もしっかりしており、周囲の人たちによってクルマから降りて歩道に座っていたという。しかし、その後、救急搬送される間に容体が急変し病院に搬送2時間後に死亡が確認されることになった。

 福岡県警から聞いたその時の状況は以下。

「エアバッグによる受傷はなく腹部に内出血があった。内臓が傷ついて出血したと報告されている。使っていたジュニアシートは座面だけで背もたれのないブースタータイプ。着座状況やシートスライドの位置などは不明。ブースターシートの銘柄は非公表。原因は本来、両腰骨にかけるべきシートベルトの腰ベルトがおなかにかかっていたため、腹部が圧迫されて内蔵を損傷した。」

 亡くなった男児の身長は定かではないが、5歳男児の平均身長は110cm前後であり、座面だけのブースターシートが使用できる身長125cmに15cmも足らない。腰ベルトがおなかにかかっていたという事実から推測するにおそらく、シートをリクライニングしていたか、お尻が前にせり出したような状態で着座していた可能性もある。

 ベルト固定のジュニアシートは1本のシートベルトでジュニアシートと子どもの体を一緒に拘束する形となるため、子どもの姿勢が崩れると衝撃に耐えられる正しい着座位置を保てない場合も多々ある。

「座面だけのジュニアシートは身長125cm、体重22kgから使用」。

 この安全基準(国連協定規則ECE R44/04 S11)は日本も採択しているジュニアシートのルールで、これらはもっと周知されなくてはならないはずだが、国交省もJAFもこのルールには公式サイトなどでまったく触れていない。

 そればかりか国交省のチャイルドシートコーナーでは、学童用ジュニアシートは座面だけのブースターシートであり、「身長135cm以下」とわざわざ恐ろしい数字が書いてある。おそらく旧基準と思われるが、国交省がこのように書いてあればユーザーとしては「ジュニアシートは身長135cmまでしか使えない。それを超えたらシートベルトを使う」と考える可能性もあるのではないか。

 筆者は数年前からこの件を国交省の担当部署に何回も確認してきたが、結局直っていない。子どもの命をなんだと思っているのだろうか。

国土交通省公式サイト「チャイルドシートコーナー」より引用

 ちなみに上記画像の説明だが「乳児用」「幼児用」も最新の安全基準とは異なる記述がある。

 最新の安全基準であるECE R129(i-Size)に適合するチャイルドシートの場合、「乳児用」では身長76cmくらいまたは生後15か月までは後ろ向きで使用し、「幼児用」として前向きにするのは身長76cmを超えてからが必須条件となる。そして「学童用」は年齢にかかわらず身長150cmまで使用できるものが安全とされている。

 これから夏休みシーズンとなり、子どもや孫、親戚の子どもたちをクルマに乗せる機会も増えると思うが、事故はいつ起こるかわからない。子どもの体にあったチャイルドシートを装着させるのがドライバーの義務である。「取り締まりで捕まらないように」という理由ではなく、かけがえのない愛する我が子や孫をクルマに乗せるときには、年齢ではなく、体格に合った適正なチャイルドシートを使って子どもたちを守ってあげて欲しい。

【「安全に使用できる最新基準(UNECE R129/03)を満たしたジュニアシート」の例】

コンビ「ジョイトリップアドバンスISOFIX エッグショック SA」

◎コンビ・ジョイトリップアドバンスISOFIX エッグショック SA(2022年8月上旬発売予定)/日本メーカーとしては珍しく身長150cmまで安全に使える最新安全基準R129/03に適合したジュニアシート(幼児学童兼用)
使用期間:チャイルドモード/身長76cmかつ月齢15カ月以上~105cmまで
※チャイルドモードでは、体重20.0kgを超えるお子さまには使用できません。
ジュニアモード/身長100cm~150cm(参考:1才頃~11才頃)

BRITAX ROMER「ADVANSAFIX i-SIZE」

◎ADVANSAFIX i-SIZE 最新安全基準R129(i-Size)適合。月齢15ヶ月から12歳まで世界最高峰の安全性と快適性を提供するBRITAX ROMER最新作
対象身長:76cm〜150cm
対象年齢:月齢15ヶ月~12歳頃

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