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吉野家ホールディングス(HD)が13日、2023年2月期第1四半期決算(3~5月)を発表した。

それによると売上高が前年同期比10.5%増の402億8200万円、前年同期は2憶600万円の赤字だった営業損益が4憶4000万円の黒字、経常利益が同13.9%減の21億7000万円、純利益は前年同期比4.8%減の14億6000万円だった。

tang90246/iStock

吉野家HDといえば、何といっても同社の執行役員で、子会社である吉野家の常務(当時)による不適切発言だろう。今年4月、早稲田大学の社会人向けプログラムで講師として登壇した元常務が「生娘をシャブ漬け戦略」と称し、「田舎から出てきた右も左もわからない女の子を無垢・生娘のうちに牛丼中毒にする」「男に高い飯を奢ってもらえるようになれば、(牛丼は)絶対に食べない」などと発言した問題だ。

この発言がメディアで報じられるや否や、またたく間に炎上。元常務のみならず、吉野家までもが人権やジェンダー問題への意識が低い会社として、世間から大バッシングを受けた。同社の株価も一時は前日比4.3%安の2309円を付けたほど。結局、元常務はあえなく解任の憂き目に遭ってしまった。今回の決算で気になるのは、世の中を騒がせた元常務の騒動がどれほど業績に影響を及ぼしたか、である。

元常務の不適切発言に、ツイッター上では「#吉野家不買」が拡散された。となると、売り上げに影響がありそうだが、前述したように売上高は10%増なのだから、不祥事が関係した形跡はなさそうだ。何より売上高のアップは、まん延防止等重点措置やそれに伴う時短営業の解除後、店内飲食が段階的に増加したことが大きい。特に牛丼部門はテイクアウトとデリバリーは減少したものの、店内飲食の増加分がカバーし売上増につながった。さらに3年ぶりの行動制限のないGW期間中の国内事業の売上高も、コロナ前の19年水準まで回復した

営業損益も本業の儲けを示す指標だけに、何らかの影響がありそうだが、こちらも不祥事をものともせず、前年の赤字から黒字に転換しているぐらいである。ちなみにこの場合、本業とは、お客が吉野家で飲食をしたり、テイクアウトを利用したりすることである。要は牛丼屋の本来業務。吉野家HDによると、営業損益の増加の要因は売上増及びコストコントロールの継続による利益改善だと説明する。

しかも、原材料価格や電気代・ガス代の上昇という“逆風”の中での増加なのだから、いかに牛丼の売り上げが好調だったかわかろうというもの。少なくとも不買によるダメージなどなさそうだ。一方、経常利益と純利益は前年比減となっているが、こちらは前者が営業外(本業以外)の損益であるし、後者の減少分も本業以外のものであるから、元常務の不適切発言によって多くの人が吉野家の牛丼を拒否した、なんてことはなさそう。

つまり結論づけると、「生娘をシャブ漬け戦略」発言は吉野家HDの業績には何も影響を及ぼさなかったということだ。日本人にとって、牛丼は国民食と言っていい。たかが1人の役員の不適切発言ぐらいでは食べるのを止められない、ということか。