今年5月に登場した軽の電気自動車となる日産サクラ&三菱eKクロスEVは、国からの補助金を使うと実質的な価格が約180万円と既存の軽ハイトワゴンのターボ車の価格に近いのに加え、地方自治体からの補助金も使えるとさらに安くなるという非常に高い価格競争力を持つ。さらに1回の走行距離が短いケースが多い点など、いろいろな意味で電気自動車と軽自動車の相性のよさをはじめとした魅力も多く、大ヒットが期待されるモデルだ。
振り返ってみると、過去にヒットしたモデルのなかには「クルマ自体に魅力があったのに加え、リーズナブルな価格も後押しした」というものも多く、ここではそういったモデルをジャンルごとにピックアップしてみた。
文/永田恵一、写真/スズキ、ホンダ、トヨタ、日産、スバル、ダイハツ、三菱、ベストカー編集部
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■軽自動車
●初代アルト
1979年登場の初代アルトは「実用的で低価格な軽自動車」というコンセプトで開発されたモデルである。初代アルトが低価格化のため行った手法は装備品の簡素化に加え、「軽自動車はリアシートを使うことが少ない」という点に着目し、ボンバン(ボンネットバンの略)と呼ばれる商用車登録とすることだった。
商用車登録とすることでリアシートは最小限となるが、その代わりに当時軽自動車を含め乗用車に課せられていた物品税が非課税となり、初代アルトは47万円という低価格を実現。初代アルトは大ヒットし、それから10年近く3ドアの軽自動車では初代アルトにならったボンバンが主力となるほどのインパクトを初代アルトは残した。
●初代ミライース
2009年の東京モーターショーへのコンセプトカーの出展を経て、2011年に市販車が登場したミライースは不景気という当時の時代背景もあり、「低燃費という意味でのエコロジーと、低価格というエコノミー」を追求した軽自動車である。
燃費に関してはエンジンとCVTの改良、軽量化などによりそれまでのミラに対して40%向上となるJC08モードで30.0km/Lを達成。価格も軽量化により原材料の使用量を減らしたことや部品点数の削減などにより、主力グレードで100万円を切ることに成功した。
初代ミライースは決して面白みのあるモデルではなかったが、大ヒットし、実用車として割り切れば売れるのがよくわかるモデルだった。
■コンパクトカー
●初代フィット
2001年登場の初代フィットは、ホンダ独自のセンタータンクレイアウトを基盤にした広いキャビンとラゲッジスペースを持つなど「ファーストカーとして使えるコンパクトカー」を目指したモデルだった。
さらに、初代フィットは実用性だけでなく雰囲気の明るい内外装を持つなど、ユーザー自身の気持ちも豊かにするという魅力も備えていた。それでいて価格は必要な装備が揃うAグレードで114万5000円と、実用性の高さを持ちながら、ほかのコンパクトカーより安かったほどで、売れる要素しかなかった初代フィットは大ヒットした。
また、初代フィットの価格は当時のコンパクトカーに大きな影響を与え、初代フィットの大ヒット以来しばらく周りのコンパクトカーは初代フィットに価格を合わせざるを得なくなったほどだ。
■セダン
●初代セルシオ
1989年登場の初代セルシオは、当時の日米貿易摩擦により日本からアメリカへの輸出台数制限があったこともあり、「比較的安い価格帯のモデルは現地生産とし、日本から輸出するクルマは高額車とする」という背景のなかで誕生し、ベンツSクラスやBMW7シリーズをターゲットとした高級車である。
初代セルシオはオーソドックスな高級車ながら特に各部のクォリティ、静粛性をはじめとした快適性の高さ、動力性能と低燃費の両立などでは世界の名だたる高級車を凌駕し、初代セルシオだけの世界を持っていた。
さらにアメリカでの価格は当時のメルセデスベンツミディアムクラス(現Eクラス)やBMW5シリーズ程度で、日本での価格もベーシックグレードながらABS以外フル装備のA仕様/455万円から、エアサスでショーファーユースに対応するC仕様Fパッケージ/620万円と、C仕様Fパッケージでも当時のメルセデスベンツ230EやBMW525i並みと激安で、初代セルシオの日米での当然だった。
●初代ディアマンテ
1990年登場の初代ディアマンテはトラクションコントロールやカーナビといった当時の三菱自動車が得意としていたハイテク装備は目立っていたものの、クルマ自体はごく普通のFFラージセダンである。
では何が新鮮だったかというと、平成に入って前出の初代アルトのところで書いたように物品税が消費税に変わったのと、昭和の時代まで3ナンバー車は5ナンバー車の倍となっていた自動車税が排気量500cc刻みを基本に段階的に上がるというものになり、3ナンバー車が買いやすい環境となったことだ。というタイミングで見栄えがよくてキャビンも広い3ナンバーボディと2.5LV6エンジンを中心とした初代ディアマンテは登場した。
クルマ自体の商品的な魅力に加え、2.5LV6を搭載した初代ディアマンテの価格は、量販グレードの25Vで245万2000円(FF車)と、当時のマークII三兄弟やローレルの2L直6DOHC搭載車と同等と激安だった。初代ディアマンテがヒットしたのはよくわかるというものだった。
■ステーションワゴン
●4代目レガシィ
2003年登場の4代目レガシィは、3代目モデルからBMW3シリーズのようなプレミアムカーとしての魅力を持ち始めたレガシィをさらに進化させたモデルだった。
具体的には3ナンバー化により若干全幅は広がったものの、タイヤの切れ角が増えたことによる総合的な取り回しの向上に加え、2Lターボと3L6気筒のATが4速から5速化されたこと、アルミパーツの多用による軽量化、塗装をはじめとした各部のクォリティの劇的な向上などが施された。
結果、4代目レガシィは欧州のプレミアムカーには及んでいなかったものの、プレミアムカー日本代表として高い将来性を感じさせるモデルに仕上がっていた。
それでいて4代目レガシィツーリングワゴンの価格は全グレード4WDでベーシックな2.0iが218万円、2Lターボを搭載する2.0GTが295万円(それぞれAT)と周りの日本車とそれほど変わらなかったのだから、当時のクルマ好きがレガシィに熱狂したのは当然だった。
■SUV
●初代エクストレイル
2000年登場の初代エクストレイルは「ガシガシ使えるミドルSUV」というコンセプトで開発されたモデルである。
初代エクストレイルはコンセプトに従って現行エクストレイルにも通じる撥水シートや、ラゲッジスペースには外して水洗いできるウォッシャブルラゲッジボードを装備するなど、SUVらしい楽しい雰囲気に溢れていた。
さらに価格はコンセプトに「4WDで200万円を切る」という目標があったこともあり、2LNAエンジンを搭載したベーシックグレードのSでFFが185万円、4WDが200万円に抑えられた。結果、エクストレイルは世界中で堅調に売れる国際戦略車に成長し、当時リバイバルプランが行われていた日産の復活に大きく貢献した。
■ミニバン
●初代オデッセイ
日本車初の乗用車ベースのミニバンとなる初代オデッセイは1994年に登場した。5代目アコードをベースとした初代オデッセイは生産工場への投資を抑えるため、全高を極端には上げられない、スライドドアにできないという不利もあったが、充分なスペースを備えていたのに加え、このことが乗用車的な雰囲気につながったという幸運もあった。
また、価格は標準的なSグレードのFF車で205万5000円と、初代オデッセイと同じ2.2Lエンジンを搭載した当時のアコードよりも安いほどだった。成功したホンダ車に共通する「リーズナブルな価格」も備えていた初代オデッセイは、今思うとそれほど出来のいいモデルではなかったが大ヒットし、当時ピンチに陥っていたホンダをCR-Vとステップワゴンの初代モデルとともに救う存在となった。
■スポーツモデル
●歴代スイフトスポーツ
スポーツモデルはそう売れる物でないだけに、価格が「すごく安い」と感じるモデルはないが、スイフトスポーツだけは別格だ。
スイフトスポーツの歴代モデルの価格は、軽自動車ベースだけど1.5LDOHCを搭載し、レカロシートも付いていた初代モデルが119万円、全面的に小型車となり1.6LDOHCを搭載した2代目モデルが156万4500円、正常進化した3代目モデルが168万円、軽量化されて1.4Lターボを搭載し、自動ブレーキ&運転支援システムも付く現行型4代目モデルが201万7400円(各々MT車)と、歴代普通のコンパクトカーかと思うほど激安だ。
もちろん、スイフトスポーツの走行性能は歴代定評あるものなのに加え、オプションカラーとなってもよさそうなイメージカラーのイエローも追加料金なしで選択でき、アフターパーツも多数揃うスイフトスポーツは日本の宝と言わざるを得ない。
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