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 ハッチバックやSUV、あるいはステーションワゴンにはほぼ必ず付いていて、そしてセダンにも昔はけっこう装着されていた。だが最近のセダンには、ごく一部の例外を除いてまったく付いていないもの。

 それが「リアワイパー」だ。

 まぁ、普段はあまり使わないリアワイパーだが、豪雨の高速道路をステーションワゴンで走っている際などには、「リアワイパーがあって本当によかった……」としみじみ思うものだ。

 そんなしみじみするリアワイパーがなぜ、最近のセダンには付いていないのか? 今回はその根本的な理由を考えてみることにしよう!

文/伊達軍曹、写真/トヨタ、スバル、三菱自動車、日産自動車、マツダ

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■セダンには少数派となったリアワイパーだが……

「考えてみることにしよう!」と鼻息荒く言ったが、この件に関してはベストカーWebでも実は繰り返し取り上げられており、答えはもう有名すぎるほど有名であると言っていいだろう。

ランサーエボリューションⅧ MRのリアスタイル。巨大なリアスポイラーへ空気を流すために、なるべく平滑にしたい。その中間に位置するリアワイパーはいかにも邪魔っぽそうな気がする

 最近のセダンからリアワイパーが省略された理由は、主に以下の3つである。

 1:セダンのリアウィンドウはそもそも水滴が流れやすいため必要ない

 セダンのリアウィンドウというのは角度的に「寝ている」場合がほとんど。そのためちょっとした雨程度であれば、走行中は気流によって雨が吹き飛ばされ、水滴はガラス上に残りにくい。それゆえ「セダンのリアワイパーはなくても大丈夫」と考えられている。

 2:セダンにはトランクがあるから、そもそも泥汚れがリアウィンドウに付きにくい

 ハッチバックやSUV、ミニバンあたりはリアウィンドウが車両の後端あたりにあるため、走行中にタイヤが巻き上げた泥などでリアウィンドウが汚れやすい。

 それに対してセダンは独立したラゲッジスペースが泥の巻き上げを防いでくれるため、泥汚れはリアウィンドウに付着しにくいとされている。

 3:単純に空力特性が悪くなり、燃費が悪化するから

 せっかくリアウィンドウを寝かせて気流をきれいに車両後方に流し、「空気の渦」による負圧の発生を抑制しようとしているセダンなのに、そこにリアワイパーがあると気流が乱れて空気抵抗が増えるため=燃費が悪化するため、セダンにはリアワイパーが付かなくなったと言われている。

 「考えられている」「とされている」「と言われている」という自信なさげな表現3連発で恐縮ではあるが、以上3つの「最近のセダンにリアワイパーが付いてない理由」に文句があるわけではない。筆者も「まぁそのとおりなんだろうな」と思っている。

■なくてもよさげなクルマにも装着され、もはやリアワイパーはファッション?

 だが同時に、「でも、それだけが理由ではないのでは?」ともにらんでいるのだ。

 例えばトヨタ C-HRというSUVである。

C-HRのリアスタイル。クーペスタイルのボディに装着されるリアワイパーはいかにも申し訳程度だ

 ご存じのとおり、トヨタ C-HRはSUVのくせにリアウィンドウが非常に寝ていて、ほとんどクーペ的である。これだけ角度的に寝ていれば、上記1の理由に基づき、C-HRのリアウィンドウに付着した雨は走行中の気流によって後方に吹き飛ばされそうなものだ。

 まぁ2の「泥の巻き上げを防ぐトランクスペース」がC-HRにはないわけだが、それでもこれだけリアウィンドウが寝ていれば、そこもなんとかなってしまいそうな予感はある。あくまで予感だが。

 つまり、「C-HRはリアワイパーなしでも(たぶん)大丈夫」ということになるわけだが、それでも、トヨタ C-HRにはリアワイパーが全車に標準装備されている。

 これはいったいどういうことなのか?

■「セダンにもリアワイパー」という頑固一徹なスバルのクルマたち

 そしてスバルのセダンである。

スバルは運転視界にとことんこだわる会社だ。よって後方視界にも妥協は許されない。実用的なリアワイパーがセダンの先代レガシィB4にも受け継がれていた

 今やリアワイパーが全車標準装備となっているセダンはスバル インプレッサG4とWRX S4のみだが、この2車にしても前述1、すなわち「リアウィンドウが寝ている」ということと前述2の「トランクがあるから泥を巻き上げにくい」という事実はある。

 そうなれば前述3の「空力(燃費)が悪くなるからリアワイパーは付けません」という方策を取るほうが理にかなっているはず。燃費的には不利な水平対向エンジン搭載車だけに、空力にはこだわりまくるべきだが、それでもスバルのセダンはリアワイパーを標準装備する。

 これについては「スバルのクルマは積雪地帯で使われることが多いため、降雪時の視界確保には並々ならぬ力を入れているから」と説明される場合が多く、まさにそのとおりではあるのだろう。

 が、しかし「積雪地帯で乗られているセダンはすべてスバル車である」という事実はまったくないため、「スバルのクルマは積雪地帯で使われることが多いから」という説明も、現実の一部しか説明できていないのである。

 では結論として、最近の「スバル以外のセダン」にリアワイパーが装着されていない理由は何なのか? これは逆に言うと、なぜスバルのセダンにはいまだリアワイパーが付いているのか? という話でもある。

 もちろん、それは冒頭付近で示した「セダンのリアウィンドウはそもそも水滴が流れやすいから」「セダンにはトランクがあるゆえ、そもそも泥汚れがリアウィンドウに付きにくいから」「付けると空力特性が悪くなり、燃費が悪化するから」というのが、スバル以外の各社がセダンのリアワイパーを基本的には省略した理由だ。

■オシャレで付くクルマもあれば実用一辺倒で付くクルマもある

 しかしなぜ、スバルは省略しないのか?

 答えは、スバルは「おしゃれ」という概念を重要視はしていないからである。

 セダンは、繰り返してきたとおりの理由によりリアウィンドウが汚れにくい。そのため、リアワイパーがなくてもなんとかなる。

 だがそれは「なんとかなる」というだけの話で、大雨の高速道路や大雪が降る一般道を走るのであれば、セダンといえどもリアワイパーはやっぱりあったほうがいい。安全に寄与する。

 だが――シュッとしたなめらかなフォルムを備えるセダンのリアウィンドウ下部にリアワイパーがボコッと付いていると、繰り返してきた空力関係だけでなく「見栄え」も悪くなる。なんとなくダサくなるのだ。

 だがスバルは「ダサいダサくないうんぬんより、よく見えることのほうが大事でしょ!」と言ったかどうかは知らないが、まぁそのような意味合いで、意地でもセダンのリアワイパーを省略しないのである(たぶん)。

 このあたりのことをどう感じるかが、スバル車を好むかどうかの分かれ目なのだろう。ちなみに筆者はスバルのそのへんが好きで、スバル車に乗ってますけどね。

 なお、本稿の途中で登場したリアウィンドウが極度に寝ているSUV「トヨタ C-HR」にわざわざリアワイパーが付いている理由は、「そのほうがカッコいいから」というのもあるはずだ。

 全体的にややガンダム風デザインとなるC-HRのリアウィンドウ付近は、ワイパーなしでツルッとしているより、ワイパーありでギザっとしているほうが、なんとなく似合うのである。

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