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マツダCX-60に試乗! はたして意のままに操れる「人馬一体感」はあったのか? 現状では「澄んだ水」だった

 2022年6月24日から予約受注が始まったマツダのラージ商品群第一弾、CX-60。発売はガソリン、ディーゼルが9月、PHEVは12月を予定している。

 さて、CX-60の魅力を挙げていくと、魂動デザインや299.2万円からというコストパフォーマンスというウリもあるが、やはりマツダの開発陣が総力を結集した、“走りのよさ”にあるのではないだろうか。

 FR駆動+直6縦置きプラットフォームをはじめ、キネマティックポスチャーコントロール付きのフロント/ダブルウィッシュボーン、リア/マルチリンク、Mi-Drive(マツダインテリジェントドライブセレクト)、トルクコンバーターレスの8速ATと、これでもかというほどのマツダの走りのDNAが注入されている。

・時代をしなやかに生き抜く大人の情熱を解き放つ ドライビングエンターテイメントSUV
・“走る歓び”のど真ん中へ
・緻密に設計された意のままの加速
・さまざまなシーンでしなやかな動きが体感できる“人馬一体”の考え方をもとにつくり込んだ足回り

 これはCX-60の開発コンセプトとプレス向けの資料に書かれた見出しだが、これを読むだけでワクワクする。そこで気になるのはCX-60の走りはどうだったのか? ロードスターのように人馬一体感のある、意のままに操れる走りが楽しめるのだろうか?

 実際にCX-60のプロトタイプに試乗した自動車研究家の山本シンヤ氏はどう感じたのだろうか?

文/山本シンヤ
写真/ベストカーweb編集部、ベストカー編集部、マツダ

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■マツダのラージ商品群第一弾は期待できるか?

マツダのラージ商品群第一弾CX-60

 ついに日本でも予約がスタートしたCX-60。マツダのラージ商品群の皮切りとなるモデルだが、車両紹介に先駆けて「導入の狙い」についてシッカリとお伝えしておきたい。

 口の悪い人は「マツダのプレミアム化」、「調子に乗っている」、「直6など時代に逆行だ」などと揶揄するが、その本質は全く逆。実は世界の自動車メーカーの中ではスモールプレイヤーのマツダが生き残るための「効率化戦略」なのである。

 もう少し具体的に説明すると、ラージプラットフォームに求められているのは「地域で異なる要求の両立」、「電動化技術の展開容易性」、「商品力と価格競争力の両立」だが、これらをマツダの規模で上記の課題をバランスよく実現するには、「縦置きFRレイアウト」が最適……という判断によるものだ。

 世の中的には“攻め”の戦略に見えるかもしれないが、実際は鉄壁の“守り”の戦略なのである。

3.3L、直6+48マイルドハイブリッドのパワートレイン

 当然、既存のパワートレイン/プラットフォームはないので完全な新規開発だが、新規開発だからこそ可能な「マツダの理想」を反映させたクルマづくりが行なわれている。

 開発コンセプトは「ドライビングエンターテイメントSUV」。つまり、マツダが目指す「走る喜び/操る楽しさ」を、より高いレベルに引き上げた一台である。その強いこだわりは、クルマの全ての部位に及んでいる。

 エクステリアはマツダの魂動デザインを踏襲するが、新たなフェイズに進化。FRレイアウトを活かしたショートオーバーハング、フロントアクスルto Aピラーのバランス、ロングホイールベースなどにより、伸びやかさが更に強まったように感じる。

 かなり大柄に見えるが、全長4780×全幅1890×全高1685mm、ホイールベース2870mmと、サイズ的にはマツダ車で言えばCX-5以上CX-8、ライバルでいえば全幅以外はハリアーに近い。

 インテリアの基本レイアウトは他のマツダ車と共通で横基調のシンプルなレイアウトを踏襲するが、より高品質、よりスマートなデザインに仕上がっている。もちろん、フル液晶メーターやエアコン操作系、MX-30から採用の新シフトレバーなど先進性も高められている。

 ちなみにインテリアコーディネイトにもこだわり、日本を表現した「プレミアムモダン」、大胆なラグジュアリーを表現した「プレミアムスポーツ」を設定。

 自然で正しい運転姿勢へのこだわりは不変だが、新たに体格に合わせて最適なドライビングポジションを提供する「ドライバー・パーソナライゼーション・システム」も設定される。

 日本向けのパワートレインは4種類。ガソリンは2.5L、NA(188ps/250Nm)、ディーゼルは直列6気筒3.3Lターボ(231ps/500Nm)を設定。電動化モデルはディーゼル車が48Vマイルドハイブリッド(254ps/550Nm)、ガソリンにはマツダ初のPHEV(323ps/500Nm)を設定。

 ちなみにPHEVのシステム出力は歴代マツダ車最強のパフォーマンスだ。トランスミッションは全て8速ATだが、ダイレクト感とリズムある走りのために動力伝達はトルクコンバーターではなくクラッチ機構を採用。

FR駆動+直6縦置きプラットフォーム

 プラットフォームは新規開発の「縦置きレイアウト+後輪駆動ベースAWD」だ。

 ゼロから開発するメリットを活かした最適設計で、慣性質量配分(重量物をセンターに集約/曲がりやすさ)、エネルギーコントロールボディ(剛性の連続性/力の伝達/減衰構造など)、サスペンションの最適設計(作動軸を揃える/バウンス挙動/KPC効果を最大限発揮できるジオメトリー)などが盛り込まれる。

 そのこだわりは同じFRレイアウトを採用するロードスター以上といっても過言ではない。

 マツダが目指す「人間中心の走り」をピュアに実現するために、飛び道具に頼るのではなく基本に忠実な“オーガニック”なボディ/シャシーに仕上げたうえで、KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)や進化版i-ACTIV AWDといった制御デバイスを組み合せる。

 CX-5で採用された「Mi-Drive」は5モードへと拡大され、走行シーンに応じた最適制御が可能となっている。

■人馬一体感のある走りが味わえるか?

マツダの山口県美弥自動車試験場で行われたCX-60プロトタイプ試乗会にて

 その走りはどうか? プロトタイプに試乗してきた時の印象をお伝えしたい。

 まずは直列6気筒3.3Lディーゼルターボ+48Vマイルドハイブリッドだ。走りはじめスペックほどのトルク感はないものの、2000rpmを超える辺りからグッと力が湧き出る。そこから高回転まで軽快さはないが滑らかに回るフィーリング。

 ただ、4気筒ディーゼルのようなスポーティな印象はなく、あくまでも重厚でジェントルだ。サウンドはディーゼルのビートは感じない……と言えば嘘になるが、濁音が圧倒的に少ない音質のためノイジーではなく逆に心地よさも感じる。

 減速時のエンジン停止やEV走行(ごく僅かだが)も可能だが、肝心のモーターアシストの恩恵はあまり感じられず……。個人的には1000~2000rpm前後でもう少し積極的にアシストさせたほうが、実用域のドライバビリティはより高まると思うのだが!?

マツダ CX-60(PHEVモデル)

 続いて、直列4気筒2.5L、NA+プライグインハイブリッドに乗り換える。Miドライブ・ノーマルではバッテリー残量がある時は基本EV走行だが、ドーピング的な力強さはなくドライバーのペダル操作に合わせて必要なだけ力強さが増していく印象だ。

 この辺りはガソリンだろうがディーゼルだろうが、電動車だろうがマツダはブレていない。気になるEV航続距離は61~63km、欲を言えば100kmくらいは欲しいと思うものの、街中の走行が中心であれば不満はないと予想する。

 当然、アクセル開度が増えるとエンジンは始動するが、モーターとエンジンの連携は非常にスムーズで上手。ただ、システム出力327ps/500Nmを感じるかと言われると……あくまでもパワートレインは黒子で粛々と走ると言った印象だ。

 ただ、それは仮の姿でMiドライブ・スポーツを選ぶとキャラクターは激変する。PHEVにもかかわらずエンジンは常時始動、メーターも赤基調&専用表示(エネルギーメーター→タコメーター)に変更など、やる気満々だ。

 アクセルをグッと踏み込むと、思わず「おーっ、速い」と声が出るくらいの加速力で、システム出力を実感。ただ、電動車に多い瞬時に力が湧き出るような力強さとは違い、ラグが全くないターボのような伸びのある力強さで、かなり内燃機関寄りのフィーリングだ。

 どちらのパワートレインもトルクコンバーターレスで動力伝達にクラッチ機構を組み合わせた8速ATが組み合わされるが、共通しているのはアクセルを踏んだ時のダイレクト感、そしてシフト時の小気味よさは「DCT」と呼びたくなるフィーリング。

 現時点では渋滞時のようにゆっくりと走るシーンでは僅かに駆動の繋がりなどにギクシャク感が残るが、開発陣も認識しているので市販時までには解決してくれるに違いない。

■骨太なのに柔軟性が高い足回り

フロント/ダブルウィッシュボーン、リア/マルチリンクの足回り

 フットワークはどうか? 飛び道具に頼らず基本に忠実なオーガニックなボディ/シャシーだが、ノーズの素直な入り方、前後バランスの良さ、駆動のかかり方などは縦置きFRレイアウトの旨味がシッカリ出ているのはもちろん、足の動きやロールのさせ方、4つのタイヤの働かせ方といったコーナリング時の一連のクルマの動きがとにかく自然だ。

 例えるなら、骨太なのに柔軟性が高い……と言う、強靭さとしなやかさが上手にバランスされている。クルマの動き自体は決してシャープではなくむしろ穏やかな動きだが一体感が高い走りは、もはやクロスオーバーではなく背の低いセダンと比べてもいいレベルだ。

 今回乗った2台は、鼻先に若干重さを感じるが軽快で素直な動きの「ディーゼル+Mハイブリッド」、ドシッと構えるが意外とフットワークが軽いPHEVと、パワートレイン違いによる素性の差は若干存在するが、走り味/乗り味の方向性にはブレはない。

 乗り心地は比較的フラットな路面が多かったので断定はできないが、多くの人が快適に感じる乗り心地だと思う。印象的だったのはバネ上の姿勢変化……それも上下だけでなく左右方向が少ないことで、実用域から高G領域まで体がブレにくく、結果として硬い柔らかいだけで判断できない快適さを感じたこと。

 この辺りはハンドリングと同じで、より無理なく/より自然な足の動きが、クルマの様々な挙動にシッカリ表れていると感じた。

 このようにCX-60の基本素性の良さは、世界のクロスオーバーの中でもトップレベルに位置すると感じた。

 ただ、「完璧なのか?」と言われるとノー。現状は「澄んだ水」のような感じでマツダらしい「味」があるかと言われると……。栄養バランスが優れる健康食品でも“旨味”が伴わなければ積極的には食べたいと思わない理論と同じだろう。

素性の良さは世界でもトップレベルではあるが、マツダらしい「味」があるかと言われると……市販までにマツダらしい味付けがされることを期待したい

 市販までにもう少し時間があるので、澄んだ水を活かした「美味しい出汁」のようなクルマに仕上げてほしい。

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