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 964型ポルシェ911カレラ2の中古車相場がついに1500万円を超えてきた。

 実走5万km以下の「良コンディションなMT車」は軒並み1500万円以上で、最高値は約1700万円。走行5万kmを超える個体でも1400万円台の値が付いており、10万kmを超える物件であっても、コンディションや整備履歴さえ良好であれば1200万円前後だ。

 ちなみにこの高騰はMTのカレラ2に限った話ではない。

 AT(ティプトロニック)のカレラ2でも低走行であれば1500万円超となり、状態が良い10万km超のカレラ2ティプトロニックも1000万円超が相場。さらに言えば、10年ぐらい前までは「やや故障が多い」ということで人気薄だった4WDの「カレラ4」も、どさくさにまぎれて(?)1000万円を超えてきた。

 ……筆者が12年前に購入した走行10万kmの964型カレラ2ティプトロニックはせいぜい「200万円ちょい」だったのだが、相場というか時代というものは、変われば変わるものである。

 964型ポルシェ911カレラ2または4の相場はこの12年間でおおむね5倍になってしまったわけで、ここまで高くなると、「魅力的なクルマなのはわかるけど、さすがにちょっと高すぎるでしょ?」という思いも猛烈に去来する。

 また、よくよく観察していると「強気の値付けをしているショップ」も多いようで、いわゆる長期在庫になってしまっている964型カレラ2および4も多い模様だ。

 964型ポルシェ911の中古車相場はなぜ、こんなにも高騰してしまったのか?

 そして高騰してしまったそれは、今なお「買う価値と意味」があるのだろうか? もろもろ考えてみることにしよう。

文/伊達軍曹
写真/ベストカーweb編集部、ポルシェAG

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■いくらポルシェとはいえ高過ぎ!

1989年にデビューした996カレラ4。遊星ギアによるセンターデフ方式、前39:61に固定されたフルタイム4WDを採用する。1992年以降のサイドミラー、アルミホイールに替える人が多い

 いまさら感はあるが、964型ポルシェ911というクルマの概略をまずは軽くおさらいしておこう。

 ポルシェ911タイプ964は、いわゆる3代目のポルシェ911として1989年に発売された、RRレイアウト+空冷水平対向6気筒エンジンとなるスポーツカー。ボディのフォルムとディテールは初代および2代目911にきわめて近いが、実は約85%の構成パーツが新設計されたものだった。

1990年式911カレラ2の透視図

 まずは4WDの「カレラ4」が1989年に登場し(964型の開発目的は「「超高速域での直進不安定性の完全解消」であったため、そもそも全輪駆動のカレラ4を想定して設計された」、その後、1990年に後輪駆動のカレラ2が登場。

 そのほかに「ターボ」や「RS」などもラインナップされたが、今回の主題であるカレラ系が搭載したエンジンは最高出力250psの3.6L空冷フラットシックス。従来からの5MTに加えて「ティプトロニック」という、任意のギアを手動で選択できる4速ATがカレラ2に採用された点も、964型911の大きなトピックだった。

1989年に4WDの964カレラ4、1990年にRRの964カレラ2がデビュー。エンジンは250ps/31.6kgmの3.6Lフラット6。クーペのボディサイズは全長4245×全幅1660×全高1310mm、車重は1350~1450kg
1992年式ポルシェ911カレラ2。エアロタイプミラーとカップデザインホイールが特徴。十数年前ならティプトロなら日本国内で300万円台後半から買えたが、欧州の空冷ポルシェブームで国内の在庫が減り相場が高騰

 さて、そんな964型ポルシェ911カレラ2または4も、筆者が購入した12年ほど前まではけっこう安いクルマだった。

 もちろん安いといっても激安だったわけではないが、コンディションの良いMT車の場合で350万円ぐらい、筆者が買ったような「10万km超のティプトロニック」なら200万円ちょいぐらいというのが、おおむねの相場だったのだ。

 それが妙に高騰しはじめたのは――記憶によれば――2012年頃で、まずはターボやRSなどの希少高性能モデルから相場は上がっていった。

 そしてそのビッグウェーブは2013年頃、ついに素のカレラにも到達してしまった。

 ベストカーWEBではない媒体に書いたものだが、2013年から2015年にかけて筆者が書いた原稿の一部を引用しよう。

*   *   *

【2013年5月24日】
(前略)ATであるティプトロニック仕様なら200万円ほどから狙えるが、走行距離少なめのMT仕様は400万円オーバーが当たり前で、ここ最近はさらに上昇傾向だ。

【2013年9月26日】
空冷ポルシェ 911の中古車相場が高騰している。(中略)93年までのタイプ964の、ティプトロニックではなく5MT仕様の、フルノーマルに近い物件の平均価格がここ半年ほど上がり続けている。

【2015年4月21日】
何年か前までは350万円前後だったタイプ964のカレラ2/4だが、今や500万、600万円は当たり前に。

*   *   *

 ……2013年春から2015年春までの間に、964の相場が一変してしまったことがおわかりになるかと思う。

 ちなみに2015年4月21日に「今や500万、600万円は当たり前に」と書いているが、そんな高騰は今にして思えばかわいいもので、7年後の今では「1500万、1600万円は当たり前に」という状況になってしまったわけである。ううむ。

10数年前は800万円以内で購入できた964カレラRS。現在、3000万円はくだらない。エンジンはカレラ2比10psアップの260ps/32.0kgm。専用のアルミボンネットフードをはじめ、軽量薄型サイドウインドウ&リアガラスなどによりカレラ2比120kgもの軽量化を果たした(1230kg)。またスポット溶接追加、17インチマグネシウムホイール、ピロアッパーマウントのサスペンション/40mmダウンのほか、アンダーコートが施された

 そして相場がこうなってしまった後に正味の部分で気になることをまとめるとしたら、以下の3点に集約されるだろう。

「964型ポルシェ911の相場はなぜ、こんなに上がってしまったのか?」

「その相場は今後どうなるのか?(まだ上がり続けるのか? それとも横ばいや下落に転じるのか?)」

「上がってしまった今も、それを買う価値はあるのか?」

 まず「相場はなぜ上がったのか?」という話であるが、これはもう「世界的な“ちょっと古いクルマブーム”を背景に、海外バイヤーたちが、さまざまな目的で日本の964を買い漁ったから」ということである。

 空冷ポルシェ911に限らず「その手のクルマ」が欧米や新興国の富裕層の間で人気になりはじめた頃、日本の空冷911は、まだのんきに昔ながらのプライスで販売されていた。そして筆者も、昔ながらの値段でティプトロのカレラ2を買った。

 そんなのんきな、そして状態の良いブツがたくさんあった日本の市場は、海外のバイヤーから見れば天国であった。ある種のアービトラージ(裁定取引)を狙った欧州富裕層(の代理人)が日本に大挙押し寄せ、札びらで顔をはたくぐらいの勢いで、良質な中古964を買っていった。

 これがきっかけとなり、また「札びら攻勢」がその後もけっこう長く続いたため、964型ポルシェ911の相場はガンと上がり、そして市場での滞留数はガツンと減った。

 しかしそれでも世界的な人気(需要)は続いたものだから、数(供給)が減るにしたがって、その相場は自動的にさらにガンガン上がっていった――というメカニズムである。ううむ。

もはや手が届かなくなってしまった911ターボ3.6

●964型ポルシェ911カレラ2の中古車相場はこちら!

■ポルシェの中古相場は今後どうなる?

10数年前は600万円台で買えた964型911スピードスターも今では2500万円超え

 となると、お次の疑問は「相場は今後どうなるのか? まだ上がり続けるのか? それとも横ばいや下落に転じるのか?」ということになるわけだが、これについての正確な答えは「わかりません」ということになる。未来の出来事を100%正確に当てることなど、誰にもできないからだ。

 しかし理屈で考えるならば、「相場はまだまだ上がり続けるでしょう」というのが“予想”になる。

 その理屈はカンタンで、964型911の人気(需要)が低下したり飽和するということは考えにくい。「人気がさらに沸騰!」という状態になるかどうかはわからないが、この手のクラシカルなアナログ名車というのはいつだって一定数の需要がある。

 そのため、需要がいきなり低下したり、極端な場合はゼロになったりするとは考えにくいのだ。

 そんな需要に対して「供給」は、どうだろうか。

「新車の供給」は当然ながらゼロであり、「今後、ポルシェAGが964型を再生産して再発売する」なんてことが起こる可能性もゼロだろう。

 そして「中古車の供給」は、ゼロではないが「徐々に減少していく」というのが当然となる。まぁどこかの国の巨大な納屋で1000台ぐらいのデッドストックが発見される可能性も決してゼロではないが、まぁ実質的には限りなくゼロに近い。

 このように「まだまだ続く需要」に「しかし供給が増えることはない」という事実をかけ合わせれば、答えは「相場上昇」にしかならないのである。その上昇ペースがどのぐらいのものになるかは、もちろん筆者にはわからないが。

 そして「どこまで上がるか?」というのもわからないわけだが、仮に素の低走行カレラ2が将来的に「3000万円級」になったとしても、筆者は驚かない。

 2015年の4月には「今や500万、600万円は当たり前!」などとかかわいいことを言って驚いていた筆者だったが、その後の7年間でまさかの1000万円上昇を経験した今となっては、何があっても驚きはしないだろう。

「誰がそんな金出してまで964を買うんだよwww」と笑う人もいるだろうが、世の中、お金というのはあるところにはいくらでもあるものだ。

■タイプ964に買う価値はあるのか?

もはや964型のMTは1000万円以下で買えなくなってしまった。1500万円オーバーとなってしまった今、価格対価値はあるのか?

 そして最後の問題として「上がってしまった今も、それを買う価値はあるのか?」という点について考えてみたい。

 結論から申し上げると、「はい。もちろん買う価値はあります」というのが答えになる。

 良質なポルシェ911タイプ964を買うということは、ザ・ビートルズやジミ・ヘンドリックスなどが、つまりは「本当であればもう二度と絶対に生演奏は聴くことができない、死んでしまった偉大な音楽家」がなぜか生き返り、自分の目の前でミニライブをやってくれるようなものだ。

 あり得ないことであり、音楽の場合はCDやレコード、配信、動画配信などでしか、過去の偉大な音楽家に触れることはできない。

 しかしクルマであれば――もちろん現役時代よりも多少くたびれてはいるだろうが――普通に生きている姿を眺めることができ、そして眺めるだけでなく、それを自分で“運転”することができる。

「その経験がもたらす価値を1500万円で買えるなら安いものだ」と考える人は、世の中にけっこうたくさんいるものだ。

 そしてゲスい話ではあるが投資または投機の対象として見た場合も、空冷ポルシェ911の良質個体というのは「大きな利回りが期待できる優良な金融商品」となるのである。

 金銭的に「無理」をするのは人生の破滅に直結するため、その場合は決しておすすめしない。

 だが、もしもあなたが「……1500万円ぐらいならまぁ普通に払えるけど?」という人であるならば――1500万円級の964型ポルシェ911カレラ2(5MT)は、どうしたって「おすすめの一台」という結論になってしまうのだ。

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