7月14日、BMWは2023年にデビュー予定の新型LMDh車両『BMW M ハイブリッドV8』に搭載されるエンジン『P66/3』の画像を公開、合わせて開発状況を明らかにした。
6月6日にその外観などが正式発表されているBMW M ハイブリッドV8は7月末にヨーロッパで走行テストを開始し、その後アメリカに移ってデビュー戦となるIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦のデイトナ24時間に向けて準備を重ねることになる。
■クラス1エンジンの流用は“耐久性”で断念
既報のとおり、BMW MハイブリッドV8には、2017〜2018年にDTM車両『BMW M4 DTM』で使用されていた4リッターV8エンジン『P66/1』をターボ化したものが搭載される。これが、新たに『P66/3』というコードネームで呼ばれることとなったLMDh用エンジンだ。
BMWモータースポーツのチーフ・ドライブトレーン・エンジニアであるウルリッヒ・シュルツは、このエンジンが選定されるに至った理由を以下のように述べている。
「評価段階では、(2019年以降のクラス1車両である)BMW M4 DTMのP48 4気筒ターボエンジンやBMW M8 GTEのP63 8気筒ターボエンジンも検討したが、P48は耐久性、P63は重量がネックとなった」
「BMWがF1で使っていたスチールやアルミニウムなどの既存素材を、エンジンの土台やシャフト、ハウジング、小部品などの個々の部品に利用できたことは、大きなプラスだった。その結果、時間とコストを大幅に削減することができ、効率的かつ持続可能なものとなった」
「このプロジェクトでは、着手から2023年のデイトナでの初戦までの期間が非常に短いので、効率は非常に重要な要素だ」
![BMW MハイブリッドV8に搭載される『P66/3』エンジン。バンク角90度、外側排気となり、最大許容回転数は8200回転と発表されている](https://cdn-image.as-web.jp/2022/07/15095241/asimg_01_P90472424_highRes_munich-ger-14-july-2_cd62d0ba58e98d0-660x440.jpg)
![2017、2018年のDTMで仕様されたNA版の『P66/1』エンジン](https://cdn-image.as-web.jp/2022/07/15095325/asimg_03_P90472420_highRes_munich-ger-14-july-2_ee62d0ba84c2e83-660x440.jpg)
このエンジンはすでにベンチでのテストが進められたのち、シャシーパートナーであるダラーラの拠点であるイタリア・ヴァラーノでマシンに搭載されている。
シュルツは、最初のベンチテストを経ての信頼性には期待できそうだとしながらも、BMWは厳しい開発スケジュールのなかでさらなる改良を進めようとしている、と語った。
「現在、信頼性をチェックしている。それは現段階でもかなり有望に見えるが、まだ完了していない」とシュルツは語っている。
「パワー効率の開発、アプリケーションなど、まだまだやるべきことは多い。時間はあまりないが、やり遂げられると思う」
DTMでは車両のフロントに搭載されていたP66/1は、ミッドシップとなるLMDh車両に転用するために広範囲にわたってモディファイされたことを、シュルツは指摘する。レイアウトの変更に対応するため、クラッチとそのアクチュエーターを新しくし、さらに共通ハイブリッドシステムを組み合わせるために高電圧システムを搭載するなど、多くのモディファイが行われたという。
BMWがとくにエンジン内の潜在的な問題を特定し、それに対処するために作業をしているため、このプログラムにとっては時間の制約が困難なものであることを、シュルツは認めている。
「すべてが最初からうまくいくはずで、それはプログラム上は故障ゼロのはずだが、私の経験では通常、そうはならない」とシュルツ。
「なぜなら、毎回何かが起こるからだ。内部には、新しいものがいくつかある。ターボやインジェクションのシステムなどだ」
「我々はいままで、完成したエンジンが車両のなかで機能するのに充分な剛性について、多くの計算をしてきた」
「モノコックとギヤボックスの間にエンジンがあることは想像できるだろう。シャシーの荷重は、すべてエンジンで受け止めなければならない。エンジンにねじれの力が加わることもあるし、運が悪ければクランクシャフトを壊してしまうこともあり得る」
「我々はそれらを調査し、計算した。これについては、我々はとくにF1時代における多くの経験を持っているが、これはサーキットテストで確認しなければならない種類のことだ」
![BMW MハイブリッドV8に搭載される『P66/3』エンジン開発風景](https://cdn-image.as-web.jp/2022/07/15095443/asimg_02_P90472421_highRes_munich-ger-14-july-2_8262d0bad293574-660x440.jpg)
注目すべきは、BMWもLMDhでの共通ユニットであるボッシュ製MGUに異常が発生しているとシュルツが認めたことだ。
ポルシェのLMDh車両『963』においては、スペインのモーターランド・アラゴンで行われた耐久テストでこのユニットに問題が発生したことが報告されており、今週、アメリカのセブリング・インターナショナル・レースウェイで行われているテストでは、MGUのアップデート版が検証される予定である。
「ポルシェが過去に経験したことを、我々はいま経験しているのだ。彼らはもう、長い間走っているからね」とシュルツは言う。
「チャレンジングだ。そう言っておくことにしよう。MGUの、そしてソフトウェアの異なる仕様が存在し、ボッシュはこの点についても常に開発を続けている」
これまで、MGUの信頼性の問題はサーキットテストのみで発生し、ベンチで内燃機関と組み合わされた場合には、発生しないものと考えられてきた。
だがシュルツは、その異常はベンチテストで生じた、と述べている。
「これまではベンチ上で回してきて、たしかにMGUにもいくつかの異常が見られた」
「だが、少なくともボッシュとは良好な連携が取れているので、すべてを克服できるものと確信している」
![6月6日、BMWが発表した新型LMDhマシン、『BMW MハイブリッドV8』](https://cdn-image.as-web.jp/2022/06/06162949/asimg_00_P90467311_highRes_munich-ger-6-june-20_7e629dacecac798-660x440.jpg)