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 関係者はあまり驚かなかったのではないだろうか。それくらい、ごく自然に下田紗弥加は女性ドライバー初のD1グランプリ(D1GP)ベスト8進出を果たした。そこにもうガラスの天井はなかった。

 2001年に始まったD1GPの歴史で、初めて追走に勝ち上がった女性選手は味元美智恵だ。それが2014年(ただしこのときは追走予選)。D1GPにおいて、女性ドライバーが追走進出というガラスの天井を破るまでに8年かかったのだ。なお味元は2015年第1戦の追走予選で勝利し、16位という成績を残したが、これが女性選手の最高順位だった。

 それから7年、奥伊吹モーターパークで行われた2022年第3戦で下田が8位に入り、その記録を破った。下田はそのことについて「とても光栄でございます」と喜びつつも、「D1は正直男女関係ないスポーツじゃないですか。なので、女性だからとか女性でといわず、あのトップドライバーの方たちと、いつかバッチバチな戦いができるように頑張ろうと思いました」と続けた。

 とはいえ、下部カテゴリーであるD1ストリートリーガル、D1ライツには何人もの女性ドライバーが参戦してきたが、D1GPとなると極端に少ない。下田を入れて、おそらく4人くらいだ。実際D1ストリートリーガルやD1ライツで下田より実績のある高木美紀や久保川澄花でさえD1GP参戦歴はない。やはり女性ドライバーの参戦を難しくする“ガラスの天井”があったのだ。

 しかし、下田にはその“ガラスの天井”をあっけなくブチ破る勢いがあった。そもそも「ドリフトを始めて、上達してきたから大会に出てみました」というドライバーではなく、「D1GPに出たくてクルマを買ってドリフトを始めました」というドライバーなのだ。目指しているところが最初から高かった。

2022年はD1ライツと並行してトップカテゴリーのD1GPにも参戦する下田紗弥加
2022年はD1ライツと並行してトップカテゴリーのD1GPにも参戦する下田紗弥加

 D1ライツに数年間参戦し(現在もD1GPと平行して参戦中)一定の成績を残して、2022年からD1GPに参戦してきたが、近年のD1ライツでの下田の走りも、荒削りながら迷いや萎縮といったものがなく、思い切りの良いバツグンのスピードを持っていた。

 そして6月11日に開催されたD1GP第2戦。下田はいまひとつ得点が伸ばせず単走で敗退したが、12日に同じコースで開催された第3戦ではクイックな振り出しと振り返しで得点を稼ぎ、単走を13位通過。D1GP参戦3戦目にして追走進出を果たした。

 幸運もあった。ベスト16の対戦相手は、チャンピオン経験者でも優勝経験者でもなく、同じくD1GP追走初進出の増田和之。しかも、D1ライツでは追走で勝ったことがある相手だった。下田を見てきたファンや関係者なら、勝てる可能性も十分にあると思ったのではないだろうか。

 1本目後追いとなった下田は、ドリフトの角度が浅くなり相手にアドバンテージをとられたものの、2本目は後追いの増田にドリフトが大きく戻るミスが出て逆転。下田の追走初勝利となった。

 なお、ベスト8ではベテラン末永正雄と対戦したが、先行時にコースアウトするミスもあって敗退し、最終順位は8位だった。結果的に女性ドライバー最高順位を更新したが、ここが下田のピークではないことは明らかだ。

「決勝とかを見ていて、私もこんなカッコいい走りができるようになりたいなとすごく思いました」と本人も語っているが、今年製作したマシンもまだ乗り慣れている状態ではなく、熟成の余地があるというし、若い下田には、この先もっと上の順位に行けるだけの意欲も時間も可能性もたっぷりある。

 腕力も体格も必要ないドリフトは女性も戦いやすいジャンルのはずだ。下田はドリフトの世界も時代が進んでいることを我々に見せてくれた。これからのD1GPでは下田だけでなく、女性ドライバーの活躍がもっと見られるようになっていくだろう。

2022D1GP第3戦奥伊吹 下田紗弥加(Mercury 車楽人 VALINO)
2022D1GP第3戦奥伊吹 下田紗弥加(Mercury 車楽人 VALINO)
ベスト16で対戦することになった下田紗弥加(左)と増田和之(右)
ベスト16で対戦することになった下田紗弥加(左)と増田和之(右)
ベテラン末永正雄(#46)と対戦する下田紗弥加(#38)
ベテラン末永正雄(#46)と対戦する下田紗弥加(#38)
2022D1GP第3戦奥伊吹 下田紗弥加(Mercury 車楽人 VALINO)
2022D1GP第3戦奥伊吹 下田紗弥加(Mercury 車楽人 VALINO)