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岸田首相は14日夜、首相官邸で記者会見を行い、新型コロナ第7波への対応や、物価高、電力危機をはじめとする「国民の生命や暮らしに直結する足元の喫緊の課題」(首相)について政府の対策を発表した。

エネルギーの安定供給確保では、萩生田経産相に対し、「日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保する原発9基の稼働を進めるよう」支持したことを表明。発言の直後は原発再稼働を求めていた人たちが「キッシー覚醒か!」などと色めきたったが、その約1時間後、朝日新聞が政府関係者の話として、対象となる9基が「一度は再稼働した」原発であると報じたことで、ネット民の間で瞬く間に失望の色が濃くなった。

さらに首相発言の解釈を巡って、与野党の政治家の間で“場外論戦”に発展するなど、微妙な雲行きとなっている。

記者会見する岸田首相(14日夜、官邸サイト)

朝日新聞の報道では、再稼働の9基は、関西電力の大飯3、4号機、美浜3号機、高浜3、4号機(いずれも福井県)、四国電力の伊方3号機(愛媛県)、九州電力の玄海3号機(佐賀県)と川内1、2号機(鹿児島県)。

資源エネルギー庁が13日時点で示す各地の稼働マップを見ると、9基のいずれも安倍政権時代の2015年8月から菅政権時代の21年6月にかけて一度は再稼働したものの、その後、いわゆるテロ対策の特重施設(特定重大事故等対処施設)の設置が新たに義務付けられたことなどから、工事のために再停止を余儀なくされた。現在は9基のうち、大飯3、伊方3、川内1、2の4基にとどまっている。

マップのオレンジ部分が対象の9基

資源エネルギー庁サイトより

岸田首相の発言直後、報道各社が「岸田総理『今冬に最大9基の原発稼働』表明」(TBSニュース)などと速報。複数の自民党議員がツイッターで即応し、「エネルギーの安定供給と安価な供給は、国民生活と産業競争力の基盤」(小林経済安保相)などと側面支援したが、エネルギー問題に詳しい元経産省の石川和男氏がツイッターの投稿で「これ、現状の追認に過ぎない。既に10基が再稼働済み。 現存する全36基の再稼働を政治的に容認しなければ原子力正常化とは到底言えない」とたしなめたのが実情と言える。

国民民主党玉木代表も「追加で9基の原発を再稼働させるとは言っておらず、既に再稼働している10基中9基を今冬に稼働させると言っているだけ。何ら新しい情報があるわけではない。メディアも正確に情報を伝えてほしい」と注文。「このプレゼン(会見)は問題。既に再稼働が認められた原発のうち、定期検査などで止まっているものが稼働するだけの話だし、それも全て西日本。肝心の東電管内で新たに動く原発はゼロ。電力危機の回避にはつながらない。パフォーマンスではなく電力の安定供給にもっとリーダーシップを発揮してほしい」と厳しく指摘した。

これに対し、民主党政権時代に原子力行政・防災担当相を務めた自民の細野豪志衆院議員は「この玉木代表の指摘は不正確」と反論。「3.11後に一旦再稼働した原発の中で、半分は特定重大事故対処施設の設置が条件になったこと等で現在は動いていない。これらを再稼働することは政治決断に基づく新しい情報」と指摘した上で、「これらを再稼働することは政治決断に基づく新しい情報。プラスされる数百万kWは現在の電力供給不足を考えると相当大きい」と意義を強調した。

玉木氏は細野氏に対し「特重施設の期限を迎えたものも政治決断で動かすのですか?」などと疑問を投げかけ、すでに運転開始が決まっている大飯4などの例をあげて「政治決断ではなく予定通りかと」と再反論した。細野氏は「政府は規制委に再稼働許可を指示することはできませんが、行政組織法15条に基づく意見(例えば特重設置期限の延長検討、審査の迅速化)を出す余地があると思います」などと補足した。

いずれにせよ、玉木氏が指摘するように、東電が対象に入っておらず、最大の電力消費地である首都圏の安定供給については、東電の柏崎刈羽(新潟)などを再稼働させない限り、不透明な状況が続く。