安倍晋三元首相銃撃事件により、「政治と宗教」に注目が集まっている。政治家と宗教団体の関係をどう見たら良いのか。『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』の著者で北海道大学大学院の櫻井義秀教授(宗教社会学)に聞いた。
安倍元首相は21年9月、「統一教会」(15年に世界平和統一家庭連合に改称。本稿では統一教会と記述する)の関連団体である「UPF(天宙平和連合)」主催の「希望前進大会」にビデオメッセージを送り、
UPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します
などと語っていた。櫻井教授はこう言う。
統一教会と自民党の保守系議員が長年、一定の関係を保ってきたことは、間違いありません。その背景として、冷戦構造のなかで両者の利害関係が部分的に一致したことが挙げられます。
文鮮明氏が1954年に韓国で創設した統一教会は、1959年に日本支部を設立。1960年代には、各地の大学で関連組織である「原理研究会」が作られた。
岸信介首相(当時)は1968年、文鮮明氏が立ち上げた「国際勝共連合」の発足に尽力しました。学生運動や左翼運動がもっとも盛んな時期で、保守政権の自民党は、強い危機感を抱いていた。統一教会が共産主義に対抗するフロント団体を作ったことは、自民党にとって渡りに船だったのです。
だが、90年代に入って冷戦が終結すると、統一教会の姿勢に変化が出てきた。
文鮮明氏は91年、北朝鮮を訪問して自動車産業に投資すると発表した。統一教会は反共を隠れ蓑にしていますが、実体としては強烈な“韓国ナショナリズム”が中核にあり、韓国が第一という考えがある。日本の保守政治家の思想とは、本来はまったく相入れないわけです。
統一教会の内部でも、対立が生まれたという。
日本で反共運動をしていた信者たちからすれば、完全にハシゴを外されたことになる。「国際勝共連合」日本支部の初代会長だった久保木修己氏は冷戦後、統一教会の要職を外れるようになりました。。冷戦終結によって、反共運動という政治運動は使命を終えたと言えます。
カルト規制の高いハードル
だが、その後も統一教会と保守系政治家の持ちつ持たれつの関係は続いたという。
政治家にとって有難いのは、選挙応援に大量の人員を動員できること。選挙にはビラ配りや電話掛けなど多くのスタッフが必要になりますが、統一教会と関係を持つことで、ボランティアを大量に確保できる。また、当選後も信者たちは私設秘書として政治家のために働いた。こうした協力は多くの場合、無償で行われたと見られています。
タダ働きをしてくれるスタッフを大量に集められるのは、確かに政治家にとって有難い存在だろう。
80年代〜90年代にかけて統一教会の霊感商法が社会問題となり、他の政治家たちが統一教会と距離を取るようになっても、安倍氏は関係を続けていました。安倍氏の場合、元首相という立場があり、とりわけ目立つ立場でもあった。特別に深い関係があったとまでは言えませんが、互いに利用し合う関係にあったのは間違いありません。
今後は何らかの対策が必要になりそうだ。
政治家が宗教団体と関係を持つことは一概に否定すべきではないものの、公権力との癒着や汚職が疑われないよう、適切な距離を保つべきです。これまでの統一教会と自民党との関係には、大いに問題があったと言わざるを得ません。今回の事件はきっかけに、政治と宗教の関係について、十分に見直す必要があるでしょう。
何らかの制度を作ることも必要かもしれない。
社会的に問題が大きい宗教団体には、行政機関が「注意勧告」を行ったり、場合によっては宗教法人を取り消すなどの措置が必要でしょう。宗教は人を幸せにするものであって、不幸な人を作る存在であってはなりません。
だが、そのハードルは決して低くない。
多くの政治家がさまざまな新宗教と結びついているため、社会的相当性を欠くような行動を取る宗教への指導や宗教法人の調査について、積極的ではありません。政治家と宗教団体の関係を適切なものとするためには、メディアや市民がしっかり監視をしなければいけません。
折りしも自民党の片山さつき参議院議員は14日、自身のツイッターを更新し、事件について言及した。
警察庁長官に「奈良県警の情報の出し方等万般、警察庁本庁でしっかりチェックを」と慎重に要請致しました。これ以上の詳細は申せない点ご理解を。霞ヶ関を肌で理解する者同士の会話です。皆様の感じられた懸念は十分伝わっています。組織に完璧はありませんが、国益を損なう事はあってはなりません。
— 片山さつき (@katayama_s) July 13, 2022
闇の深そうな問題である。