岡山県美作市が導入を目指していた「太陽光パネル税」に、国から待ったがかかった。毎日新聞によれば、美作市は、発電施設周辺の環境保全や防災費用にあてるため、太陽光パネル1平方メートルあたり50円を課税する条例案を昨年12月に市議会で可決していた。
しかし、この条例案に同市内で「作東メガソーラー」を運営するパシフィコ・エナジー(東京都港区)が反発。「太陽光パネル税」は、自治体が独自に条例を定めて課すことができる「法定外税」だが、総務省は事前に大口納税者となる事業者の理解を得ることを求めている。
総務省は10日付けで、パシフィコ・エナジーと美作市が、再度協議をするよう通知した。このニュースにネット上では、「国が太陽光パネル税を妨害したのでは」「国は何が何でも太陽光発電を増やしたいんだな」「全国で導入されるべき」といった反応が目立った。
太陽光発電、急拡大の裏でリスク
東日本大震災やFIT制度(固定価格買取制度)を機に急速に普及が拡大した太陽光発電。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、2008年に太陽光発電システムの導入数はわずか2だったが、FIT制度が制定された2012年以降、急増。2014年は23、2018年が56、2020年には71にまで増えている。さらに、太陽光発電協会(JPEA)は、2030年は100、2050年には200に増えると予測している。
近年、急速に普及が拡大し、今後も増えていくと見られている太陽光発電だが、多くの懸念があることも事実だ。一番の問題点が、自然災害リスクが高まることだ。
太陽光エネルギーは、エネルギー密度が低いため、太陽光発電システムで大規模な発電量を得るためには、広大な土地が必要になる。日本は平野が少なく、国土の約67%が森林だ。大型の太陽光発電所を作るためには、森林を切り開く必要がある。場合によっては、山を切り開くケースもあるだろう。いずれにしても、大規模な自然破壊が伴う。
毎日新聞は、昨年6月「全国で公害化する太陽光発電 出現した黒い山、田んぼは埋まった」という特集記事を配信した。記事によれば、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の太陽光パネルを設置した斜面から土砂が崩落する事故が、2018年と2020年に相次いて発生した。山林には保水という役割もあるが、太陽光パネルによって保水機能が失われたためか、大雨時には水路の流水量が増えたという。
太陽光発電も「トイレなきマンション」
また、使用期限が切れた太陽光パネルをどこに廃棄するかという問題もある。現在のところ、寿命が切れた太陽光パネルの廃棄は本格化していない。それでも、施工不良や自然災害などでの破損により、2018年には年間約4400トンが廃棄されている。環境省の推計では、寿命切れの太陽光パネルが続出すると考えられている2039年には廃棄量は約78万トンに上る。ピーク時には、使用済み太陽光パネルの年間排出量が、産業廃棄物の最終処分量の6%におよぶという試算もある。
そもそも、太陽光パネルの大量廃棄がなくても、産業廃棄物の最終処分場は将来的な不足が指摘されている。経産省の試算によれば、2019年の段階で、最終処分場の残余年数は21.4年とされている。もう20年を切っているのだ。しかも、新たな最終処分場を探そうにも、周辺住民の同意が必要なため、簡単なことではない。
原発に対して、しばしば「トイレなきマンション」と揶揄されることがある。原発から排出される放射性廃棄物の処分方法が明確化されていないことから、こう言われているのだが、実は太陽光パネルも同じ状況と言える。
太陽光発電は無尽蔵でクリーンだが…
経産省は、太陽光発電のコストが2030年には原発より安くなるとして、太陽光発電を「主力電源」にしたいと考えている。しかし、コストの試算には供給不足に備えての火力発電や揚水発電といった、発電量が天候に大きく左右される太陽光発電に必須の、バックアップ電源の費用は含まれていない。
さらに、試算通りのコストが実現できたとしても、事業者が低コストで発電できるというわけではない。用地取得費用がかかり、発電場所が送電網と遠い場合、送電網との接続費用も重くなる。場合によっては、山間部を切り開くための費用が必要になることもあるだろう。これらの費用を乗せたうえで、事業者の採算が取れるかどうかは不透明だ。
確かに太陽光は無尽蔵で、太陽光発電は発電時に二酸化炭素が発生しない「クリーン」な発電方法ではある。しかし、リスクやデメリットがないわけではない。国は、結論ありきではなく、冷静で公平な態度で今後のエネルギー戦略を議論していくべきではないだろうか。