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 最新のトレーラシャシー技術をご存じですか? トラクタ(トラック)と連結しなければ走ることができない被けん引車のトレーラですが、実はさまざまな「走行機能」「安全機能」「コネクティッド」を搭載できることはあまり知られていません。

 この知られざる技術が、5月12~14日に開催された「ジャパントラックョー2022」で紹介されました。

文/緒方五郎 写真トラックマガジン「フルロード」編集部


■とても珍しいプロの技術者用再現モデル

 最新トレーラ技術を出品したのが、ZFグループのワブコジャパンです。

 同社は世界最大手の大型商用車用ブレーキメーカーだったWABCO(ワブコ)の日本現地法人で、現在はティアワンサプライヤであるZFフリードリヒスハーフェン社に、WABCOとともに統合されています。

 「ジャパントラックショー2022」では、次世代電子制御ブレーキシステム(EBS)のモジュレータ(ただし実物ではなくモックアップ)や空気ブレーキ用整備機具、そして「模型のトレーラになにかがゴチャゴチャついたようなもの」を出品していました。

 実はこの「模型のトレーラになにかがゴチャゴチャついたようなもの」は、プロの技術者向け「実物再現モデル」で、日本国内には数台しかない珍しいものなのです。

 その正式な名称は「トレーラ・トレーニング・モデル(TTM)」といいます。

 これは、トレーラ・メーカーの技術者やメンテナンスに関わるサービスエンジニアなど「本職」の方たちが、トレーラに搭載されるシステムの構造と機能、そして新技術を理解するために使われているものです。

 そのため「ゴチャゴチャついているなにか」である、EBSモジュレータ、電子制御エアサスペンションシステム(ECAS)、駐車ブレーキ解除バルブ(PREV)、車速センサー、スマートボード(車載電子端末)、イモビライザー(盗難防止装置)、トレーラ・リモート・コントロール(運転席の表示装置)、TailGUARD(テールガード、障害物接近警報装置)、ブレーキチャンバー、リヤコンビネーションランプなどはすべて本物で、それらが実車同様に配置されています。

トレーラ用コンポーネントの実物をミニチュアシャシーに装着した「TTM」

 シャシーフレームやアクスル(車軸)、エアベローズなどはミニチュアですが、電制エアサスの車高調整機能やリフトアクスル機能は実車と同様に、圧縮エアで作動(外部電源コンプレッサを使う)するようになっています。

 ついでにいえば、TTMのシャシーフレームを受託生産しているのはヨーロッパのトレーラメーカーで、ミニチュアでも本格的な造りなのです。

■最先端トレーラ機能も実装

 実は、EBS付トレーラの場合、エアサスの車高調整やリフトアクスルなどの制御は、EBSの内部にあるECU(電子制御ユニット)で行なわれています。

 エンジンのないトレーラシャシーにおいて、その走りを唯一コントロールできるのがブレーキ制御のためのEBSであり、それゆえにエア系や電装系も集約されるため、ブレーキ以外の機能をコントロールするにも都合がよいのです。

 このEBSのさまざまな機能に、スマートフォンの専用アプリからアクセス可能としたのが、「OptiLink」(オプチリンク)と呼ばれる先進技術です。もちろんTTMにも実装されていて、会場で実際に披露されました。

 「OptiLink」には、エアサス操作以外にも、トレーラの軸重表示や車両の傾斜角、ブレーキパッドの摩耗状況(ディスクブレーキ装着車のみ)といった情報も取得できるので、日常点検に活用できるというメリットもあります。

 また、トレーラ専用テレマティクス「TX-トレーラパルス」と連携することで、トレーラ個々の車両状態管理やリアルタイム位置情報を、オフィスでも取得できるようになります。こちらも大画面モニターを用いてサンプル映像を紹介していました。

 リアルタイムの運行情報などは、牽引するトラクタ側のテレマティクスでも対応できるので、機能的にいらないように思われますが、大量のコンテナトレーラを保有している企業などでは、駐車位置が特定できる位置情報は有用でしょう。

 さらに、より高度なオプション技術(例えば、トラクタ駆動軸重をトレーラ側エアサスで最適化する機能、旋回時において左右輪をエアサス制御でコーナリングをサポートする機能など)を導入した場合でも、そのオン・オフをスマホで操作できるようになります。

■トレーラのバック時の障害物検知と自動停止

 TTMには、乗用車でもよく知られたバックソナーのトレーラ版も装着されています。これが「TailGUARD」(テールガード)と呼ばれるもので、リヤバンパーには超音波センサーが装着され、実際に作動させることもできます。

 超音波センサーが人などを検知すると、運転席用表示装置(前述のトレーラ・リモート・コントロール)の、相対距離レベルインジケータが点灯したり、アラームが鳴動します。この表示装置を「OptiLink」でスマホに代用させることも可能になっています。

 さらに「TailGUARD」には、バック速度上限を9km/hに制限したり、人や障害物の接近を検出した場合、自動ブレーキを作動させられるオプションが設けられています。つまり、バック時用の被害軽減ブレーキを実装することも可能なのです。

 トレーラのバック走行は、基本的にはごく限られたシチュエーション(事業所の構内など)でしか行なわれませんが、直接視界はもちろん間接視界もごく限られる上に、運転には操作技術も必要なので、「TailGUARD」は有益なドライバー支援機能だといえます。

 ちなみに、会場でもEUトレーラーズが出品した3軸セミトレーラ「ツインデッキ」が「TailGUARD」を装着していました。EUトレーラーズによると、メーカーのオランダ・ファンエック社では標準装備になっているとのことでした。

テールガードを装着したファンエック・トレーラーズの3軸セミトレーラ「ツインデッキ」

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