VWビートルのレストモッドなのだが、なんと57万ユーロ(約8,000万円)という驚異的な価格に。それは、オリジナルのVWビートル1303をベースに、22台が手作業で製作されるが、ミリヴィエ(Milivié)の価格は実に高額だ!
新しいレストモッド: クラシックカーに現代のテクノロジーを搭載するビジネスが活況を呈している。現在、ほとんどのアイコンモデルが、何らかの形でレストモッドとして新装版になっている。長い歴史を持つ「ポルシェ911」も、すでにレストモッドとして様々なバージョンが提供され、「ランチア037」のようなエキゾチックカーから、「トヨタ ランドクルーザー」のようなワークホースまで、現代のテクノロジーを搭載したバージョンが登場している。そんな中で、これまでレストモッドの対象として、どちらかというと軽視されてきたのが「VWビートル」である。そこでドイツのスタートアップ企業、「ミリヴィエ(Milivié)」は、今、そのトレンドを変えようとしている。
2023年から、「VWビートル」の生産台数100万台に対して約1台、つまり合計22台の「ミリヴィエ1」が製造される予定だ(ということはビートルは2,200万台も生産されたということか!!!)。「ミリヴィエ1」は、オリジナルの「1303ビートル」をベースに、手作業でボディを丁寧に解体して作られている。そして、変身が始まるのだ。
レストモッドは、最終的に「ビートル」であることは間違いないとしても、ボディとフロアアッセンブリーを除けば、ドナー車両との共通点はほとんどない。
VWビートルのプロポーションを変えるミリヴィエ
このレストモッドのデザインはすっきりしている。メッキパーツ、バンパー、レインガッターはもちろん、窓枠やベントウインドウもそのまま取り外すことができるようになっている。エクステリアミラーは現代的なものに交換され、クラシックなボウハンドルは埋め込み式のドアハンドルに変更されている。さらに一見しただけではわからないのは、プロポーションも見直されているのだった。
例えば、フロントボンネットは8cm前方に移動し、フラット化されている。そのボンネットにはダックテールスポイラーが内蔵されている。そして、ヘッドライトとリアライトは、ミニマルなLEDユニットに変更されている。
ビジュアル面では、オリジナルのタイヤと比較して巨大な19インチのホイールが「ミリヴィエ1」を丸くしている。最後に、VWのロゴはすべてミリヴィエのエンブレムに置き換えられている。
インテリアでは、さらに露骨な若返りが行われている。ジョナサン エングラーが設立したミリヴィエ社は、オリジナルの計器に代えて、「メルセデスMBUX」スタイルのXXLサイズのデジタルコックピットを装着した。12.3インチの2画面には、それぞれ自社開発のソフトウェアが搭載され、レトロなイメージで初代「ビートル」の計器類を模したディスプレイも予定されている。
インテリアのカーボン製バケットシート
それとは別に、インテリアも非常に整然としている。最大4人の乗員がカーボンのシングルシートに座り、ドアパネルの形状は「ポルシェ911」にインスパイアされたという。
色や素材の選択に関しては、購入者が自由に選択できることが前提となっている。ちょっとした特典として、生産される22台それぞれに、お揃いのラゲッジバックが付属している。
ここで紹介する写真はあくまでコンピューターグラフィックスによるイメージであり、最初の顧客車両は、2023年7月に完成する予定であることをお伝えしておく。
レストモッド「ビートル」のエンジンは、リアに排気量2.28リッターのタイプ1ボクサー、ウェーバーキャブレター2基、電子点火システムが搭載されている。ということは、つまり「1303 S(1.6リッター4気筒ボクサー)」の最高出力50馬力をかなり上回る予定だ。
ポルシェのティプトロニックを搭載
ミリヴィエが「ポルシェ911(964)カレラ2」のZF製オートマチックを使いたいと言っているが、このトランスミッションの選択はいささか意外に思われるかもしれない。4速ティプトロニックは「ミリヴィエ1」プロジェクト用に改良され、4気筒ボクサーに適合するようになる予定だ。また、レストモッドには、「ドライブ」、「スポーツ」、「マニュアル」の3つのドライビングモードが搭載されることも既に明らかになっている。
まだ具体的に言及されていないが、パワーアップのため、シャシーも適合する予定だ。ミリヴィエは、フロントとリアにダブルウィッシュボーンを採用し、スプリングは「KW V3」を特別に適合させ、シャシー全体をフルにアジャスタブルする。
ブレーキは、フロントに6ピストン、リアに4ピストンのキャリパーを備えた343mm径のディスクブレーキが全面に装備されている。
ミリヴィエ社は、順調にいけば、22台限定の顧客向け車両のうち、最初の1台を約1年後、つまり2023年半ばごろに納入し、2025年5月に22台の全生産を完了する予定だとする。
驚くのは、ミリヴィエ社が、ベーシックバージョンで57万ユーロ(約8,000万円)という価格を提示していることだ。この価格なら、もっと格調高いドリームカーやレストモッドが他にあるはずなのだが。しかし、その威光のなさこそが、名だたるレストモッズのメーカーが、これまで「VWビートル」を敬遠してきた理由のひとつなのかもしれない。
【ABJのコメント】
レストモッドの話題の場合、いつもその高価格に驚き、つい批判的なコメントをしてしまうが、欲しい人がいる限り、ああだこうだと文句を言うのもちょっと申し訳ないかなと思うようにも感じている。別にいくらであっても、それが欲しくて、購入できるのであれば「高い、高い」というのもお門違いかもしれないし、その内容を検証していくと、高価格もやむを得ないという場合も多い。これだけの素材を丁寧に加工していけば仕方ないかなとも思うし、きわめて少数の作品と考えればよいのではないか。レストモッドとはそういうものなのかもしれない。
しかしそれでも今回の「フォルクスワーゲン ビートル」が8,000万円というのはさすがにちょっと違うんじゃないかな、と言葉を失ってしまう。内燃機関のレストモッドではあるが、ミニ(もちろん昔の)が最近1,500万円くらいで販売されている。ビスポークで作られているそのオーダーミニを見た時も、その値段にちょっと驚いたものだが、今回のビートルの価格を見れば、なんだか適価に感じてしまう。せめてそれぐらいであったならば納得がいくが、8,000万円(しかも、それ以上になるはず)というのは、ちょっと常識を超えた価格なのではないだろうか。なにせ1938年に登場した時は「1000マルク以下で買える国民車」という条件で開発されていたのだから。
Text: Jan Götze
加筆: 大林晃平
Photo: Milivié