クルマ好きの間ではそれほど流行していない「カーシェアリング」。気づけば巨大な市場になっています。レンタカーとどこが違うのか、どういう需要があるのか、どういう人たちが使っているのか。「クルマを所有すること」自体が贅沢な状況になりつつある昨今、「特に困らないならカーシェア利用でも…」と考えたことがある人も多いのでは。マイカー所有との維持費の違いなども含めて、現在の状況を調査しました。
文/松崎隆司(経済ジャーナリスト)
写真・グラフ/松崎隆司、AdobeStock(アイキャッチ写真は@metamorworks)
50人だった会員数がこの20年で263万人に
カーシェアリングが人気を呼んでいる。公益法人交通エコロジー・モビリティ財団によると2002年にはカーシェアリングの車両台数が21台、会員数が50人だったのが、2022年には車両台数は5万1745台、会員数は263万6121人にまで増加しているという(図表1参照)。
「ここ10年ぐらいは毎年2割ぐらいずつ増えています。最初はオリックスなどレンタカー事業者がやっていましたが、タイムズカーや三井不動産など駐車場運営会社が始めるようになってから急拡大しました」(交通エコロジー・モビリティー財団の熊井大調査役)
なぜこれほどカーシェアリングに人気が集まっているのか、その秘密に迫るために業界最大手「タイムズカー」を運営するパーク24に話を聞いた。
パーク24は1971年に駐車場関連機器の製造、設計施工・販売の会社として誕生、その後、24時間無人時間貸駐車場事業などで急成長。2009年にはレンタカーやカーシェアリング事業を展開していたマツダレンタカーを買収。2010年にカーシェアリングサービスのブランドをタイムズプラス(現タイムズカー)に変更し、本格的に事業を拡大していく。現在は47都道府県に1万3656か所のステーションを展開し、約3万6000台の車両を配備、会員数は187万人となっている(2022年5月末時点)。
「特にコロナで緊急事態宣言が発令されたころは会員が急増しています。通常1カ月で1万5000人くらい増えるのですが、2020年8月、9月は2万5000人ずつくらい増えています」(パーク24広報担当者)
レンタカーは引っ越しや出張、カーシェアは日常使用で
ここでまずカーシェアリングとはどのようなものなのか、簡単に説明しておこう。カーシェアリングとはいつでも使える無人レンタカーだ。ではこれまでのレンタカーといったい何が違うのか(図表3参照)。
「レンタカーは店舗にいって貸出や返却の手続きをやりますが、カーシェアリングの場合は無人のステーションと呼ばれる駐車場にクルマが置いてあり、WEBや駅構内・コンビニなどに設置してある無人入会機などで入会した会員が事前にネット予約をし、クルマにカードをかざせば自動的に扉が開錠され、出発することができるという点が大きな違いです。店舗に行く必要がないので、営業時間の制限も受けず、24時間365日、いつでも使いたいときに使っていただけるというのが大きな特徴です」(同)
さらにレンタカーは貸出時間の単位が6時間以上と長時間使用を前提としているのに対して、カーシェアリングは15分単位で借りることができるという。
「毎日のお買い物や、雨が突然降ってきたから使ってみようかといった、マイカーのような感覚で使っていただくことができます。当社の場合は利用開始前のキャンセルについてはキャンセル料がかからず、利用料金は実際に利用した時間だけ、予約時刻よりも早く返却した場合にはそのぶんの利用料金は発生しません」(同)
使われ方にも違いがある。
「レンタカーは旅行することが事前に決まっているようなときに予約することが多いのですが、カーシェアリングは普段使いの移動手段として使われることが多いです。言い方を変えるとレンタカーは非日常、カーシェアリングは日常使いにも向いているサービスといってもいいかもしれません」(同)
レンタカーは乗り捨てができ、車種も多種多様だから大型車両が必要な引っ越しや出張などに向いている。
一方でカーシェアリングはマンション内や都心にもたくさんステーションがあり、取り扱っているのは乗用車が中心。買い物やちょっとした家族旅行など日常使いに適している。パーク24の場合、ステーションは関東だけでも6846カ所あり、30車種、2万2066台が配備されているという(2022年4月末時点)。
「ステーションはもともとパーク24の無人駐車場などを活用していたのですが、最近ではマンションを建てる時にカーシェアのステーションがあることを売りにしているところも増えてきました。ひとつのステーションには1、2台の車が配備されているステーションが多く、予約していただければいつでも利用可能です」(同)
実は出張などの法人活用でも注目されるようになっているという。
「空港や駅の一部などでは乗り捨てサービスができるようになってきていますし、空港や駅の周辺にステーションがつくられていますから法人のニーズも増えています」(同)
カーシェアリングはレンタカーと違い、ガソリン代や保険料も利用料金に含まれる。特に昨今はガソリンが高騰していることからカーシェアリングのニーズを後押しする要因の一つになっているようだ。すでに法人会員の割合は41%と、個人会員の59%に肉薄している。法人での出張で活用するようなニーズは今後もどんどん高まっていくと言っていいだろう。
維持費はマイカーよりも年間14万円安いという試算も
ではマイカーとカーシェアリングではどちらがお得なのだろうか。カーシェリングはガソリン代、保険料がすべて料金に含まれているため、マイカーよりも節約につながるようなケースもある(図表3参照)。
別表を見てもらうとクルマを保有した場合の維持費は、駐車場代、ガソリン代、税金、自賠責保険、任意保険などがかかり、年間で合計30万2530円、月額費用は2万5210円。一方でカーシェアリングを活用する場合は月額基本料金、利用料金、無料利用分、カード発行料の合計16万50円で、月間費用は1万4850円になるという。つまり年間で14万2480円、月間では1万360円お得となるということだ。つまりマイカーを持つよりも半分くらいの維持費用で利用することができるということになる。
「自宅に駐車スペースがあり毎日通勤に使われるような方は、マイカーのほうが合っているとおもいます。しかし駐車スペースがなく、クルマの利用頻度が週に2、3回のような方は、費用面でカーシェアを有効に活用することができます。また、電車など他の交通機関と組み合わせて、長距離移動は電車で行い、旅行先での観光はカーシェアを活用する、なんていう使われ方もしています」(同)
カーシェアリングの場合はカーナビやドライブレコーダー、ETCなどはほぼすべての車両に装備されている。
「カーナビを使って現在空いている最寄りのタイムズパーキングを最大で4件表示したり、予約の延期、給油の自動検知をしたりすることなどもできます」(同)
しかしどんな車でも乗れるわけではない。パーク24では30車種を用意しているが、ひとつのステーションに置かれているクルマは1、2台が多い。最寄りのステーションを活用する場合は、メーカーや車種、グレードにこだわりのある人には向かない。
さらに先約があれば利用できない。だれもが旅行したという時期には早く予約しなければ乗れなくなってしまうのである。
「予約が多い週末には出来るだけ早めに予約することをおすすめしています。予約できるのは2週間前からですが、利用頻度などが高いお客様は獲得したポイントでステージが上がり、3週間前から予約いただけます」(同)
もちろんほかのステーションで予約をとることができるし、予約時に使いたいと思った車両の空き待ち設定をしておけば、キャンセルや早く返却されたときのお知らせメールのサービスを受けることもできる。また、返却時に車内に忘れ物をしても、カードをかざすだけでもう一度開錠できるサービスも。
このほか新しいサービスも次々に充実してきているという。
「最近では、ドアの解施錠時に会員カードをかざさなくてもスマホにアプリをいれていただけるとスマホで解施錠でき、カードがなくてもスマホだけで予約から返却まですべてできるようになりました」(同)
利便性がどんどん増してくる中で、カーシェアリングのニーズは今後も高まってくるのではないだろうか。
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