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 ディーラーの営業マンが大切にしているのが、顧客との初対面の瞬間、つまり「ファーストタッチ」の印象だ。身なりや風貌、来店人数などで、おおよその検討車種が分かり、その後の商談をイメージすることができるからだ。

 しかし、中には営業マンの経験則を無視する、意外なお客さんもいるものだ。今回は、筆者が出会った、意外なクルマを選ぶお客さんたちを紹介していこう。

文/佐々木 亘、写真/TOYOTA、AdobeStock(トップ画像=hedgehog94@AdobeStock)

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■3人家族がサーフで来店! 希望のクルマはミニバン!?

ミニバンでありながら精悍でスポーティーな印象もあるトヨタ エスティマ

 ディーラーへ来店するお客さんの多くは「買い替え」の検討だ。現在保有しているクルマから、新しいクルマへ取り換えるため、ほとんどの場合、現保有車に乗ってくる。そのクルマの年式や程度を見れば、買い替え可能性の高低や、次に乗りたいクルマの候補は予想できるものだ。

 駐車場へ入ってきたのは、2代目のハイラックスサーフ。最終型で考えても15年以上前のクルマだ。買い替えの可能性は高く、次もSUV(ランクル・プラドなど)かなと予想し、接客に入った。

 クルマから出てきたのは夫婦と中学生くらいの子供が一人の合計3名。検討車種はほぼプラド、大穴でプリウスαだろうと当たりを付けてご用件を伺うと、指名を受けたのはエスティマだった。

 意外過ぎる選択に一瞬頭がフリーズするも、何とか持ち直しエスティマをご案内。3列目は常に格納したまま、2列目をロングスライドして、そこへ母と子が座る。2人は後席の広いクルマを希望し、ノア/ヴォクシーかエスティマが最終候補に挙がっているという。

 一方、運転をする父は、箱型のミニバンが嫌いで、流線形のクルマに乗りたいとエスティマを折衷案として出した模様だ。なんとかエスティマを買ってもらわないと、父の立場は完全に無くなりそうだった。

 さらに驚いたのが、ハイラックスサーフは手放さず、エスティマを増車するということ。ここまで初見の予想が外れるのも珍しいことで、そのお客さんはその3か月後に再訪しエスティマを購入していくのだが、1回目の応対内容は全て鮮明な記憶が残るほど、印象が強い商談体験だった。

■条件はAWD+セダン+ガソリンエンジン!

顧客の注文は時として難度が高くなることも。顧客とじっくり話し合い、少ない選択肢の中から選んでもらうことになる(AboutLife@AdobeStock)

 誰しも「こういうクルマが良い」「この仕様はダメ」というこだわりがあるものだが、買い替えを検討する時代や自分の年齢によって、その条件は変わることが多い。そうした中で、絶対に3つの条件が変わらないお客さんがいた。

 前任の担当がおり、筆者が異動してきて引き継いだお客さんだ。仕事柄、クルマでの移動が多く、愛車へのこだわりも強かった。

 年間走行距離は3万km程度、燃費の事を考えてハイブリッドを勧めたり、疲れにくく広い車内のSUVを提案したりしても、見向きもしない。

 そのお客さんが愛車に求める条件は、「AWD」で「純ガソリンエンジン」、そして重要なのが「セダン」であること。この条件ではSUVなら選択肢は多いが、セダンとなると選択肢は数台だけとなる。

 当時はハイブリッドを全面に押し出した時代。特に2~3Lクラスのセダンは、こぞってハイブリッド化されており、またセダンの多くは前後輪どちらかの二輪駆動が多い。

 同じ車種もできれば避けたいということで、Dセグメントセダンを所有していたがCセグメントに車格を下げて購入してもらった。燃費や居住性を重視する風潮が強かった時代に、珍しい条件が出てきた相談だったのを覚えている。

■王道ステーションワゴンから、まさかの観音開き車へ

ボルボV70から降りてきたのは子供が2人の4人家族。検討車種はトヨタ FJクルーザー。担当した筆者でさえV70に乗り続けたほうがいいと思っていたという

 駐車場に入ってきたのはボルボV70。ステーションワゴンの取り扱いが少ないトヨタディーラーへ、王道ステーションワゴン、それも輸入車が入ってくるのは珍しい。乗ってきたのは4人家族で子供は2人、小学校の低学年に見えた。

 ミニバンの検討か、プラドやランクルの線もあるかなと考えながらファーストタッチに入る。すると出てきた検討車種はFJクルーザーだった。

 明らかにファミリーユースとしてはV70の方が使いやすい。FJクルーザーのドアは観音開きで、フロントドアを開けなければリアドアを開けることはできないからだ。

 フロントシート用のシートベルトがリアドアに付随するBピラーに取り付けられており、後席を開けて乗り降りするには、フロントドアを開ける以外にも、フロントシートの人がシートベルトを取り外さなければならない。

 4人家族で確実にリアシートへ乗る機会が多い家族構成だが、買い替えの候補はFJクルーザー一本だという。本格クロカンに乗りたい父親の希望で選ばれたのだが、家族を納得させ、契約に至るまでにはかなり苦労した記憶がある。

 何しろクルマをおススメする営業マン(筆者)が、V70に乗り続けたほうがいいと思っている。意外過ぎる選択肢は、味方に引き入れたい営業マンをも戸惑わせてしまうことがあるだろう。

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 お客様のニーズをいち早く察知し、当たりを付けるのが営業マンの仕事だが、あえて読まずに自然体で聞き入れるというほうが、良策になることも多い。経験則が通用しない応対や商談の方が、意外性というエッセンスが加わる。だからこそ接客業は楽しい。

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