2022年F1第9戦カナダGPの開幕に先駆けて、モントリオールでタイムアタック対決に挑んだ角田裕毅(アルファタウリ)とセルジオ・ペレス(レッドブル)。しかし、ふたりに与えられたのは『世界一遅い車両』だった。
「世界で最も遅いクルマは?」と聞かれると、答えるのは案外難しいかもしれない。しかし、アイスホッケーを愛するカナダの人々ならすぐに「それは整氷車だ」と言うだろう。
今回、角田とペレスに与えられた整氷車のスペックをみると、誰もがそれが『世界一遅い車両』だということに納得するはず。約3トンの車体に2.5リッターのエンジンを搭載し、最高速はわずか時速15キロ。スケートリンクを整備するためだけに生まれたこのマシンは、そもそも速く走る必要がまったくないのだ。
ペレスと角田は、まず案内役を務めるアイスホッケー選手のP.K.スバンとともに、今回の相棒となるザンボニー社製の整氷車をチェック。ペレスはシートベルトがないことに、角田は乗車位置の高さに若干不安げな様子だが、そもそも時速15キロしか出ないマシン。「安全性の問題なんてないんだ」とスバンが太鼓判を押したところで、いよいよ世界で最も速いドライバーたちによる、世界で最も遅いレースの始まりだ。
いざアタックが始まると、整氷車はスピード感にこそ欠けるものの、車体の大きさゆえになかなか迫力ある走りをみせてくれる。ただしそのハンドリングはかなりピーキーで、ふたりのF1ドライバーをもってしても、コースに留まるのがやっとの様子だ。
特にヘアピンコーナーでは角田がバリアに激突しかけ、ペレスもハーフスピン気味にコースアウト。数々のチャンピオンが餌食になったジル・ビルヌーブ・サーキットの最終コーナー『ウォール・オブ・チャンピオンズ』よろしく、ヘアピンがこのコースの鬼門となったようだ。
気になるふたりのタイムはというと、角田の1分50秒10に対しペレスは1分44秒15。結果的には角田に6秒もの大差をつけたペレスが、この世界で最も遅いレースを制した。
ちなみに、レッドブルによるとこの撮影が行われたのはカナダGPの走行が始まる金曜日の前日。角田とペレスは、24時間以内に世界一遅いクルマから世界一速いクルマに乗り換えるという、おそらく史上誰も成し遂げたことのない経験をしたようだ。