安倍晋三元首相襲撃事件を機に、統一教会(15年に世界平和統一家庭連合に改称。本稿では統一教会と記述する)への関心が高まっている。共産主義に抵抗する姿勢を見せる統一教会について、中国政府はどう見ているのだろうか。
中国では信教の自由は憲法によって保障されているが、条文には「但し書き」が多い。
・中華人民共和国憲法 三十六条
中華人民共和国公民は、宗教信仰の自由を有する。
(中略)
何人も、宗教を利用して社会秩序を破壊してはならない。公民の身体・健康に損失を与えたり、国家の教育制度を妨害する活動を行ってはならない。宗教団体及び宗教事務は、外国勢力の支配を受けない。
実態として、伝統的な宗教はおおむね認められているものの、伝統宗教から派生した新興宗教については、多くの活動が制限されているようだ。中国では歴史的に、王朝終焉期には新興宗教と農民反乱が結びついて政権を転覆することが多く、新興宗教への警戒はとりわけ強いと見られる。
政府のカルト対策サイトの中身
2017年には、国務院(内閣府に相当)の「カルト問題防止処理室」が「中国反邪教網(中国反カルトネット)」を創設。中国国内外のカルト教団について危険性を指摘し、啓発を行っている。
中国反邪教網を見ると、統一教会は2017年時点ですでに危険視されており、5つの危険性を指摘していた。
1 性的な乱交
文鮮明は「血分け」の儀式として女性信徒とセックスをすることで、「血液が浄化される」としている。男性信徒は、「浄化された女性(=文鮮明と性交経験のある女性)」とセックスをすることで、純潔を得られるという。
「合同結婚式」についても、表現がより辛辣だった。
2 めちゃくちゃな結婚
1960年から信徒のために「祝福」と称して教会が指定した相手と強引に結婚させている。彼らの協議によると、結婚の唯一の目的は原罪のない子供を産み育て、「神の世界」を拡大させることにあるという。
教会内で仲間として認められるためには、大変な労力が必要となるらしい。
3 信徒に求める「献身」
「統一原理」を聞き、「修練界」に参加し、7日間の断食を行うことで、「食口(シック、仲間)」と認められる。40日間の「開拓伝道」を行い、無一文の状態となって人々に「統一原理」を説き、3人の信者を新たに入会させることで、「献身者」と認められる。
山上容疑者の一家が苦しめられた「献金」についても触れていた。
4 信者の血と汗を騙し取る
信者は直近3年間の収入をすべて寄付し、その後も収入の10分の1を教会に納めなくてはならない。過去の「罪」を償うためだという。文鮮明は大量の財産をビジネスに投資しており、一家はボロ儲けをしている。アメリカ・日本・韓国で合計26億ドルを所有しているという。
脱会は容易ではないという。
5 信者への洗脳
統一教会はキリスト教を歪曲・改造するだけでなく、東洋の神秘主義信仰も織り交ぜている。文鮮明は幼少期から超視能力があると自称しており、神や霊魂と交流ができるという。信者が教会からの離脱を試みると、「サタンに呪われる」などと言われ、脱会を阻止される。
洗脳された人への対処法も指南
また、「中国反邪教網」では、カルト宗教に洗脳された人と接する際の注意点として、以下の点を挙げている。
- 平等・公平な態度で接する。
- 洗脳されるに至った原因を十分に理解する。
- 順を追って、一歩ずつ進める。焦ってはいけない。
- 感情の変化に注意し、機を捉えて問題点を説明する。
- 洗脳を解いたあとは、きちんとした教育により、心理的空白の穴埋めをする
中国政府は統一教会を「邪教(=カルト)」と断定しており、完全に対立する立場であるため説明が明快である。また、洗脳を解く際の心構えも合理的な内容と思われる。
中国のように信教の自由を強く制限するのが良いとは思わないが、宗教団体の活動が社会規範から大きく逸脱する場合には、合理的な範囲での規制や管理も必要かもしれない。