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 2022年3月期の自動車メーカー各社決算で、最も厳しい数字に直面したスバル。その販売台数は計画していた86万台に及ばない73万4000台、85.3%の台数にとどまった。来年3月までの今期見通しでは20万6000台増となる94万台と発表しているが、追い打ちをかけるように今年4月に1.8Lターボエンジンのリコール問題で国内主要3車種の生産停止が発表されている。

 メインの北米市場を含め、国内ではボリュームゾーンとなるCセグカテゴリーのインプレッサ&XVもモデル末期を迎えて販売面で厳しい状況のスバル。果たしてスバルの基幹技術と将来性は大丈夫なのか? 国沢光宏氏が分析する。

文/国沢光宏写真/スバル、ベストカー編集部、ベストカーWeb編集部

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■半導体不足は全メーカー同じだが、厳しい数字に終わったスバル

今年4月にレヴォーグやフォレスター、レガシィアウトバックに搭載されている1.8LのCB18型ターボエンジンがリコールで生産停止中に

 先日発表された2022年3月までの決算で最も厳しい数字を出すなど、スバルの業績に黄信号が点いている。スバルによれば、「最大の要因は半導体不足に代表される部品の供給問題です」。

 販売台数は当初計画の86万台に15%届かず、73万4000台。2023年3月までの今期見通しは20万6000台多い94万台としたものの、現在1.8Lターボエンジンのリコールを出し、工場は動いていない。

 加えて半導体不足はスバルにかぎったことじゃない。すべてのメーカーで大きな課題になっている。そんななか、トヨタは前年の107.6%。日産も95.7%。マツダ100.1%と堅調。決算もトヨタが過去最高の純利益を上げ、日産すら黒字転換した。販売台数もさることながら、円安による巨額の為替差益が大きく貢献している。繰り返す。そんななかでのスバルの厳しい決算はなぜだろう?

■これまで人気だった北米とオセアニアで落ち込んだワケとは?

北米専売の3列シートSUV、アセントはつい最近フェイスリフトを受けたばかり。燃費がネックとなり、フォレスターをはじめとした北米の主要モデルの販売も苦戦している

 そもそもスバルの世界販売台数は2017年の107万台をピークにジワジワ減少していた。2018年は102万台。2019年に100万台を割り込んで99万台に。そして2021年は74万台にまで落ちている。国内市場も2017年の14万4000台から2021年は8万3000台へ。

 さらに厳しいのが、欧州や大洋州(オセアニア)といった今までスバルが人気だった地域での落ち込みです。アメリカ一本足打法の影響だと思う。

 そんなアメリカの販売状況を詳しく調べてみた。アメリカにおけるスバルの主力モデルはXV(アメリカ名だとクロストレック)、フォレスター、アウトバックとなる。スバル全体で月販5万台だとすると、3モデルで1万3000台ずつの4万台といったイメージ。そのほかのモデルが1万台となる。直近で大きく販売台数を落としているのはフォレスター。なぜ伸び悩むかといえば燃費です。

 アメリカも昨年あたりからガソリン価格がジワジワ上昇し始めていた。アメリカの年間平均走行距離は日本の3倍程度の3万km。燃費の悪いクルマだとガソリン価格の高騰が直撃してしまう。当然ながらハイブリッドで燃費のいいRAV4などにユーザーが逃げていく。直近のガソリン高でスバルは一段と厳しい状況になっているようだ。売れないとインセンティブ(値引きなど)も負担になる。

 日本市場を見ると、主力エンジンである1.8Lターボのリコール問題が厳しい。4月中旬から出荷を停止しており、再開まで2カ月半くらいかかるとアナウンスされている。具体的な問題点も明らかにされておらず(センサーの不具合により、エンジンが止まることだけわかっている)、果たして7月からフル生産できるのか読みづらい。そんな日米の状況を受けての20万台増は厳しい気がします。

■依然としてブランドイメージは高いのだが……

北米版XVのクロストレック。日本では販売されていないプラグインハイブリッドモデルも用意されている

 ブランドイメージは依然として高いスバルに何が起きているのだろう。ふたつの要因を挙げておく。

 まず、ひとつ目は2017年まで車両開発のトップだった人物が、パワーユニット戦略を10年以上に渡って行わなかった点だと思う。当時、すでに環境の時代が足音を響かせて近づいてきていた。当時のスバルは絶好調の業績を上げており、新技術への投資だって可能な状況にあったと思う。なのにまったく投資せず。

 ふたつ目は当時の経営陣がアメリカ一本足打法を選んだこと。日本と欧州、大洋州向けのクルマ作りを止めている。燃費のいいコンパクトカーを作ったって利益率が低いという判断により、アメリカで売れるクルマばかりを作った。

 中島飛行機から連綿と続いてきた技術オリエンテッドから、利益率オリエンテッドに路線変更したのだ。かくして欧州市場はいつ撤退してもおかしくないほど低迷中となっている。

■スバルの希望は開発トップを務める藤貫哲郎氏の手腕?

藤貫哲郎SUBARU執行役員CTO(最高技術責任者)技術統括本部長兼技術研究所長。走りに一家言持つ生粋のCARガイだ!

 日本市場はアイサイトで存在感を示したものの、今やADAS技術は当たり前になってしまい、絶対的な性能で他社に並ばれた。アイサイトでスバルを選ぶ人も大幅に減少。燃費のいいパワーユニットはなく、WRCから撤退したことで高性能イメージすらなくなってきた。直近で見るとスバルのストロングポイントは見当たらない。販売台数が落ちるのも当然のことだろう。

 現状を打開する方法はあるのだろうか? 残念ながら電気自動車のソルテラを見ても、質感や性能で同級生の日産ARIYAに届いていない。世界市場を見ると、ヒョンデのアイオニック5に代表される強敵が多数。

 ソルテラそのものの販売も国内は年内900台という目標に対し、半分にも届いていないらしい。ソルテラをはじめ、現在のラインナップでは厳しいと考えてよかろう。

 そんなスバルの望みは、藤貫哲郎さんという3年前からスバル開発のトップになっているクルマ通だ。肩書きは執行役員/CTO(最高技術責任者)/技術統括本部長兼技術研究所長と長い(笑)。

 ここまで長いとむしろ何が担当なのかわからないです。以前からさまざまな機会に話を聞いてきたのだけれど、クルマに対する造詣の深さは現在すべての自動車メーカーの技術者のなかでナンバーワンだと思う。

 クルマの開発には時間がかかる。藤貫さんがゼロからスタートしたクルマは早くて来年あたりから出てくるだろう。スバルそのものの技術力は素晴らしく高い。アメリカ一本足打法(パワーユニットにお金をかけないのもアメリカメインという理由による)という今までのスバルの流れを変えてくれたら、低迷から上昇に転じる可能性があると思う。藤貫さんに頑張って欲しい。

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