理想のエンジンと言われる直列6気筒、意のままに操れるFR駆動、そしてディーゼルターボ+48Vマイルドハイブリッドや2.5LのPHEVを揃えた4種類のパワートレイン……。開発コンセプトは明確で「ドライビングエンターテイメントSUV」として、意のままに操れる、走りのいいSUVを謳っている。
しかしそもそもSUVは、走りを一番に押し出していいのだろうか、という疑問符も少し残る。いずれにしてもマツダ入魂の力作といっていいだろう。
はたして、このCX-60がマツダを救える存在なのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーweb編集部、マツダ
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■直6・後輪駆動の注目のSUV
マツダの新型車、CX-60は、クルマ好きにとって注目される存在だ。SUVのカテゴリーに属するので、外観の強いカッコよさと、快適な居住性や積載性を合わせ持つ。しかもプラットフォームを刷新して、エンジンは縦向きに搭載され、駆動方式は後輪駆動とこれをベースにした4WDになる。
かつてのクルマは後輪駆動が中心だったが、2000年以前に大半の車種が前輪駆動に切り替わった。海外を見ても、乗用車の分野で後輪駆動車を積極的に手掛けるメーカーは限られる。その意味で、CX-60から採用が開始された後輪駆動プラットフォームの開発は、大いに注目されるところだ。
CX-60が後輪駆動を採用した理由として、開発者は直列6気筒3.3Lクリーンディーゼルターボの搭載を挙げる。燃焼を効率良く制御するには3.3Lの排気量が必要で、そのために6気筒が求められ、後輪駆動の直列6気筒に至ったという。
CX-60に直列6気筒3.3Lディーゼルを搭載するXD・Lパッケージ・2WDのWLTCモード燃費は19.8km/Lだ。CX-5に直列4気筒2.2Lディーゼルを搭載するXD・Lパッケージ・2WDの17.4km/Lよりも優れている。CX-60のATは8速、CX-5は5速という違いもあるが、CX-60の効率は高い。
そして後輪駆動のメリットは、エンジンの効率に留まらない。最も注目される点は、後輪駆動だから可能になったボンネットの長い美しい外観だ。
2012年の初代(先代)CX-5から採用が開始された魂動デザインは、フロントピラー(柱)を室内側に引き寄せてボンネットを長く見せ、後輪に荷重が加わったように表現するものだった。
ただしこのデザインは、外観に躍動感を与えられる半面、後輪駆動でないと視覚的なバランスが良くない。CX-5を始めとする従来のマツダ車は、前輪駆動なのにボンネットを無理に伸ばしたから、フロントオーバーハング(ボディが前輪よりも前側に張り出した部分)が不自然に長くなっていた。
そこが後輪駆動のCX-60なら、エンジンを縦向きに搭載するため、前輪が前寄りに配置される。フロントピラーと前輪の間隔が大幅に広がり、フロントオーバーハングを伸ばさずにボンネットの長い外観にデザインできた。
つまり魂動デザインは、本来は後輪駆動で実現すべきデザインコンセプトだった。CX-5などは、それを前輪駆動に当てはめたから無理な印象が生じたが、CX-60は自然でスマートに見える。CX-5を真横から見た時のような違和感はない。
そして後輪駆動の採用は、魂動デザインに留まらず、スカイアクティブ技術の方針にも合っている。マツダの走りは人馬一体と表現され、具体的には、ドライバーの操作に対して忠実に走り、曲がり、止まることだ。
そのためには、操舵は前輪、駆動は後輪と役割を分けた方が目的を達成しやすい。今は前輪駆動でも機能的な問題は皆無だが、運転感覚の違いは依然として生じる。前後輪の荷重バランスを整える上でも、後輪駆動は有利だ。
従ってメルセデスベンツやレクサスといったプレミアムブランドの上級車種は、今でも後輪駆動にこだわる。
このようにマツダ車の柱とされる魂動デザインとスカイアクティブ技術の両方において、後輪駆動は親和性が高い。CX-60はマツダ車の決定版ともいえる。
■4種類のパワーユニットも注目
そしてCX-60には、メカニズムの注目点も多い。直列6気筒3.3Lディーゼルに加えて、ディーゼルをベースにしたマイルドハイブリッド、2.5Lガソリンを使ったプラグインハイブリッドのPHEVもある。
トランスミッションは前述の通り8速ATで、トルクコンバーターを使わないクラッチ方式だ。アクセル操作によって速度を調節しやすく、燃費効率も優れている。
カーブを曲がる時、内側に位置する後輪のブレーキを作動させ、ボディ後部の浮き上がりを抑えるキネマティック・ポスチャー・コントロールも採用した。CX-60は、マツダの最先端技術を多く投入した集大成だ。
そのためにCX-60に対するユーザーの関心も高く、インターネットや動画サイトの関係者からは「CX-60の情報を掲載すると閲覧数が伸びる」という話が聞かれる。そこでCX-60の人気について販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「CX-60に関心を持つお客様は多く、そこには2つのパターンがある。一番多いのはCX-5のお客様だ。ボディサイズが近く、2.5Lガソリンエンジン搭載車については価格帯も部分的に重複している。現行CX-5も発売してから5年以上を経過するから、CX-60への乗り替えを希望するお客様が増えた」。
2つ目のパターンはどのようなユーザーなのか。「意外に目立つのが輸入車のお客様だ。XDハイブリッド以上のグレードは、価格が500万円を超える。そしてプレミアムスポーツやプレミアムモダンは内装も上質だ。後輪駆動でもあるから、CX-60をBMW・X3のような感覚で捉えているお客様も多い」。
一方、マツダの開発者は「今まではCX-5から上級移行するお客様に対応できる商品が乏しかった。そのために輸入車に乗り替えられることも多かったが、CX-60ならば満足していただける。お客様の流出を防げる」と期待する。
このようにCX-60は、CX-5を始めとする既存のマツダ車からの上級移行と、輸入SUVを含めた他ブランドからの乗り替えに応じられる。マツダ車ユーザーの流出を抑えて、なおかつ他ブランドからの乗り替えも誘致できる戦略車だ。
■マツダを救う起死回生のヒット作となるか?
マツダの国内販売台数を振り返ると、2012年に初代(先代)CX-5が登場する前の2010年は22万3861台だった。この後、魂動デザイン+スカイアクティブ技術のマツダ車を次々と投入したが、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年が20万3576台だ。2021年は15万7261台になる。
このようにマツダの国内販売台数は、2010年の実績に達していない。ミニバンのプレマシーやビアンテ、背の高いコンパクトカーのベリーサなど、実用指向の車種を失った痛手は大きく、未だに回復できていない。
販売店からは「トヨタとの業務提携を生かしてヴォクシーのOEM車を導入するなど、ミニバンのお客様を繋ぎ止める対策を取っていれば、流出を防ぐことができた。この点は残念だ」という話も聞かれる。
マツダは実用指向の車種を廃止したことで、相当数の顧客を失っており、CX-60はそれを別のカテゴリーで取り戻す役割も担っている。
このような商品力を考慮すると、CX-60がマツダにとって起死回生に向けた商品になる可能性も高いが、販売店は注意点もこのように指摘する。
「CX-60は新しい直列6気筒のディーゼルを搭載して、駆動方式も後輪駆動がベースになる。お客様と販売店の両方にとって未知のクルマだが、試乗車が配車されるのは9月か10月だ。それまでは限られた資料だけで販売せねばならない。これは辛い。また納期は、7月上旬の契約で早くても12月、大半は2023年1月以降になる」。
CX-60は価格帯が25S・Sパッケージの299万2000円から、PHEVプレミアムモダン&プレミアムスポーツの626万4500円と幅広い。2倍の価格差がある。そのために内装の質感も異例と呼べるほどに大きく異なり、上級グレードを試乗してベーシックなSパッケージを購入すると、納車時に落胆する心配が伴う。
CX-60はマツダのイメージリーダーになり得る存在だが、購入するグレードの試乗チェックは不可欠だ。試乗車の配置など、販売関連のサービス次第で、CX-60に対するユーザーの評価も大きく変わる。起死回生を達成できるか否かは、今後の販売方法によっても左右されるのではないだろうか。
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