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 大型トラックや長距離バスなどの電動化が進めば、乗用車用とは異なる充電インフラが必要となる。車両総重量や航続距離に見合ったメガワット級の大電力を要するからだ。そのためのインフラ投資も巨額になる。

 欧州では2021年12月に商用車大手の3グループ(ボルボ、ダイムラー、トレイトン)が、大型車用充電インフラの整備に関する合弁企業の設立で合意しているが、このたび当局の承認と最終手続きを終え、具体的に動き出した。

 自動車メーカーによる充電網というと、従来はユーザーの囲い込みという側面もあった。ただ、今回の合弁事業ではブランドやメーカーによるユーザーの囲い込みはせず、誰もが使えるオープンな充電網の整備を目指している。

 今回は欧州域内での合弁事業ということだが、この3グループはいずれも日本でも事業を展開する世界的な大手商用車グループだ。競合するトラックメーカーがインフラ整備で提携するという欧州のトレンドは、日本や世界にも波及するのだろうか?

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/AB Volvo, Daimler Truck AG, MAN SE, Scania CV AB, TRATON SE


巨額の投資が必要なBEVインフラ

 2022年7月8日、ボルボ・グループ、ダイムラー・トラック、トレイトン・グループの3社は、合弁企業の設立に向けた最終的な手続きを終えた。

 欧州の大手商用車メーカーによるこの合弁企業は、昨年末に公表されたとおり、欧州におけるバッテリーEV(BEV)大型車の充電インフラに関するもの。

 合弁企業のCEOに就任するアーニャ・ファン・ニールセンには、欧州連合が掲げるグリーン・ディール(2050年までに貨物輸送のカーボンニュートラルを実現する)を支える重要な役割が期待されている。

 ホームページなどによると、新しい合弁企業は5年以内に少なくと1700の高性能な充電設備を設置・運用する予定となっている。設置する場所は、高速道路上または高速道路の近くと、欧州各地にある物流拠点だ。

 現時点で投資額としてコミットしているのは5億ユーロ(およそ700億円)。欧州のBEV大型車用インフラ投資としては、過去最大規模となる。

競合メーカーが提携する意図

 欧州の大手トラックメーカー3社が合弁設立で合意したのは2021年12月だった。その後、関係当局の承認も得た。合弁事業では3社が均等に出資するが、それ以外の事業では競合関係を維持する。

 メーカーが共同で大型トラック・長距離バス用の充電ステーションを設置・運用することを通じて、BEV大型車の充電という事業を先導する役割を担うことを目的としている。

 この事業のブランド名などはまだ発表されていない。オランダのアムステルダムに本社を置く独立した法人となる予定で、2022年中により詳しい情報を発表する。

 新会社を率いることになるニールセン氏はエネルギーと充電産業における豊富な経験を持ち、直近では欧州の大手電気自動車充電ネットワークプロバイダーのCEOおよび会長を務めている。

 商用車メーカーによる合弁らしく、強力なカスタマー駆動型のアプローチにより、輸送業界に特有のニーズに焦点を当て、信頼性が高くアクセスしやすい充電ステーションを、BEV大型商用車を運用する事業者に提供する。

 この合弁企業を始動したのは、急拡大が見込まれる充電ネットワークの整備で提携することに加えて、ほかの産業や政府、政治家たちに対して欧州の環境目標達成のために再生可能エネルギーへの投資を増やすことを呼びかけるという目的もあるという。

「オープンな充電網」は欧州域外にも波及するのか?

競合するトラックメーカー3社がインフラ整備で提携!! 欧州で進むオープンな充電網の思惑は?
今のところ充電網の整備は欧州域内を対象としている

 ちなみに、この発表に先立ってスカニア(トレイトン・グループ)はEV用の充電システムを開発中であることを明らかにした。1.2メガワットでの充電に成功しており、最大で3.75メガワット(3000 A * 1.25 kV)のシステムをISO規格とすることを目指している。

 2024年の発売を予定する新システムは、自社のトラック用に加えて船舶用での活用を視野に入れる。

 いっぽう、グループの異なる3陣営の自動車メーカーにより開始する充電ネットワークは、完全に「オープン」であり自動車のブランドやメーカーに関わらず、欧州の大型商用車すべてが利用できるということを強調した。

 したがって、充電網はいわゆるパブリックな(誰でも使える)ネットワークを目指している。

 BEV大型トラック・バスなど、電動車両の台数は今後数年で大きく伸びると見られる。メーカーの枠を超えて、業界を横断する形で充電ステーションの設計・設置・運営を行なうことで、運送会社とドライバーの求めに応じる。

 なお、ボルボは日本市場に進出しているほか、ダイムラーは傘下の三菱ふそう、トレイトンはスカニアを日本で展開している。今回の合弁はあくまで欧州域内の充電ネットワークの整備ということだが、世界でも大手の商用車メーカーによる提携だけに、日本や世界への影響にも注目だ。

各社のコメント

 各社のコメントは次の通りだ。

 「これは待ちに待った大きな一歩です。バッテリー電気式の長距離トラック・バスが成功するためには充電インフラの整備が必要です。1社では不可能なことも3社の共同事業としてなら可能です。

 この強力なパートナーシップは、2050年までに輸送をカーボンニュートラルにするという欧州の目標に向けた重要なマイルストーンです」。
(ボルボ・グループCEOのマーティン・ルントシュテット氏)

 「パートナーと共に新たな合弁企業を開始できたことを感慨深く思っています。いま必要とされている充電ネットワークでイニシアチブをとることは非常に重要であり、他の産業にもこの取組に加わるように呼びかけています。

 長距離輸送の電動化は私たちのお客様にとって有望なソリューションであり、充電施設の数をできるだけ早く増やさなければなりません」。
(ダイムラー・トラックCEOのマーティン・ダウム氏)

 「気候変動に対する最適なソリューションを見つけることは、この業界にとっても、トレイトン・グループにとっても最優先の課題です。

 お客様と電気トラックの話をするたびに必ず聞かれるのが、充電設備についてです。できる限り早くBEV大型車をサポートするために私たちはチームを組みました。欧州の大型車用充電ネットワークは本日からスタートします。

 合弁会社のCEOとなるアーニャ・ファン・ニールセンは充電ネットワークの設立に豊富な経験を持っています。アーニャと彼女のチームは持続可能な輸送の実現を確実にサポートしてくれるでしょう」。
(トレイトン・グループCEOのクリスティアン・レビン氏)

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