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元陸上自衛隊幹部自衛官という経歴を持ち、いまは民間企業に勤務しながらツイッターなどで心を楽にするコツやライフハックを発信している「わび」さんと「ぱやぱやくん」。“バズる”ツイートを連発している2人に、自衛隊にいたからこそ気付けた弱った心との向き合い方について、同じく元自衛官である筆者が聞いた。

共に人気ツイッタラーのわびさん(左)、ぱやぱやくん

自衛隊でメンタルは鍛えられない

--お2人は陸上自衛隊で幹部自衛官として勤務された経験をお持ちですが、自衛隊でメンタルを鍛えられたと思いますか。

わび   大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。激務と上司によるパワハラが重なり、メンタルダウンで休職した。復帰後、第一線からの異動を機に視野を広げ、市役所に転職。現在は外資系企業で危機管理を担当している。著書に「この世を生き抜く最強の技術(ダイヤモンド社)」。Twitterフォロワー数は14万人を突破。アカウントは@Japanese_hare

【わび】うーん、鍛えられていないと思います。

【ぱやぱやくん】私もそう思います。

【わび】体力的に強くなっても、精神的に強くなるのは別なんですよ。逆に強くなったと我慢をするとよくありません。私がそうでした……。自分をエリートだと思っていましたが、パワハラなどによりメンタルダウンしてしまい、3カ月休職することになりました。

【ぱやぱやくん】自衛隊に入隊すると肉体は間違いなく鍛えられますし、自信もつきます。しかしメンタルはそこまで鍛えられないので要注意ですね。厳しい訓練には慣れても、業務変更や家庭内不和といった方向性の違う厳しさが原因で休職される方も珍しくありません。

--私自身、「山で寝袋を敷いて寝るのに比べれば、屋根のある家で寝られるだけ幸せだ」と幸せレベルが下がった実感はありますが、メンタル自体はいまも弱いままです。

【わび】メンタルを強くするってかなり難しいんです。なので、メンタルがやられないためには「こまめに回復する」「ヤバいときは逃げる」が正解だと思います。

【ぱやぱやくん】「強さ」とは「自分の弱さを知っていること」。自衛隊は「人間の弱さ」を教えてくれました。自分のネガティブさをうまく活用する術を覚えると、つらいときでも生き抜いていけます。

-- 一般的に自衛官には心身ともに「強い」イメージがあるかと思いますが、厳しい環境に身を置いても精神的に強くなれるというわけではないんですね。

ぱやぱやくん(右)防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊の幹部自衛官としての勤務経験を持つ会社員。名前の由来は幹部候補生学校でよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に「陸上自衛隊ますらお日記(KADOKAWA)」「飯は食えるきに食っておく、寝れるときは寝る(育鵬社)」。Twitterフォロワー数は19万人を超える。アカウントは @paya_paya_kun。

【ぱやぱやくん】自衛隊には、メンタルが強い人はそんなにいないと思います。我慢強さが評価に直結しやすい組織なので、我慢強さをアピールする人や生まれつきメンタルが強い人が目立つだけであって、メンタルの強さは普通の人が多いと思います。

【わび】そうですね。強い人ばかりの集団ではないと思います。時々、一般社会で見かけないようなずば抜けて強い人もいますが。

【ぱやぱやくん】そういう方、いますね。メンタルおばけみたいな人(笑)

【わび】離婚しようが数千万円の借金があろうが、から揚げライスをぺろりと平らげるような人もいますからね。

メンタルが弱るとき

--メンタルが強い人はむしろ「特別」なんですね。お2人のメンタルが弱ったのはどのようなときでしたか。

【わび】食事をしていないとき、寝ていないときですね。疲労度が高くなるとメンタルが弱くなります。自分がメンタルダウンする直前は、ほとんど睡眠時間がありませんでした。経験上、どんなにしんどくても、眠れてさえいればなんとかなります。

【ぱやぱやくん】陸自の演習でも、身体的につらい状況が続くと、普段すごくいい人が自己中心的になってしまうことがありましたね。それに加えて希望が見えないとき、ゴールが見えない時もメンタルに来ます。自衛隊時代の業務でも、「いつ終わるかわからない」という状況はキツかったです。

--確かに強いストレスがかかると眠れなくなったり、人格がゆがんだりしますよね。結果として業務遂行や人間関係にも影響を及ぼします。

【わび】仕事の調整が上手くいかない、人間関係にかけるコストが大きい状況はつらいです。

【ぱやぱやくん】あー、わかります。なかなか身動きが取れない泥沼の中にいるような感じがしますよね。

【わび】民間企業に転職してからは人によって仕事のやり方が大きく変わることに戸惑いました。普通の会社では、仕事のしんどさの9割は人間関係にある気がします。

【ぱやぱやくん】ほかに現実的な話として、お金がない時も弱りますね。最低限の生活費はないと心を苦しめることになります。最低3か月無職でも大丈夫くらいの貯金はあった方がよいと思います。

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とにかく寝る。そして食べる

--とはいえ、そう簡単には自分でコントロールできない要因もあります。そのような中で弱ってしまったメンタルを回復させるには、どのような方法が効果的なのでしょうか。

【わび】ご飯を食べられるときは食べて、寝られるときは寝るのが一番だと思います。ものすごく疲れたときにお勧めするのは、「何もしない」ことです。誰とも会わず、夜になったら電気を消し、家でひたすら寝る。実践してみるとわかりますが、意外と「何もしない」って難しいんですよ。

【ぱやぱやくん】気持ちよく仕事をするためにも、他人に優しくするためにも、食事と睡眠は必要です。あとは集中できる趣味もいいですね。集中できればストレスの原因を忘れることができるので。

【わび】仕事や家庭以外の趣味を持つことは大切ですね。私は畑を借りて野菜を作っていますが、ストレス解消に役立っています。野外活動はいいですよ。

【ぱやぱやくん】私はサウナをおすすめしています。運動と同じぐらいスッキリしますよ。

--ご自身を含め、つらさを感じている人を大勢見てこられたかと思います。今まさに「つらい」と感じている人は、まず何をすべきでしょうか。

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【わび】つらいと思っているときは、ジタバタしないのがいいと思います。必要であればカウンセラーや医師などの専門家に相談してみるのもいいですね。

【ぱやぱやくん】じっと体力の回復を待つしかないと思います。自分が「弱ってるなぁ」と認めた上で、いつかは浮き上がると信じるしかありません。

【わび】繰り返しになりますが、ぱやぱやくんの新刊のタイトルにもあるように、つらいときは「飯は食えるときは食え、寝れるときは寝ろ」です。意識して身体を休めるべきだと思います。

【ぱやぱやくん】自衛隊で一番役に立つ教えはそこに尽きるかもしれないですね。つらいときは結果を出すというアクションよりも、まず生き延びるという方向性にシフトした方が良さそうです。生きていればチャンスはまた必ず来ますから。