東京商工リサーチの調査によると、2022年3月期に1億円超の報酬を得た上場企業の役員が少なくとも285社の計656人に上り、過去最多になったことがわかった。要因としてはコロナ禍からの経済再開や円安進行によって業績が好調だった企業が多かったことが第一に挙げられるが、株価に連動した報酬体系の企業が増えたこともある。
役員報酬「リーマン後」は上昇
1億円超の役員が最多だったのは、日立製作所の18人。IT関連事業などが好調で、最終利益が2年連続で最高益を更新した。2位は三菱UFJフィナンシャル・グループと東芝で、それぞれ13人、4位は三井物産と大和証券グループ本社のそれぞれ9人だった。
国際的に見て「安い」と言われていた日本企業の役員報酬だが、リーマンショック後の09年以降は上昇傾向にある。10年3月期からは、有価証券報告書に報酬総額1億円以上の役員の氏名やその総額などを記載することが義務付けられている。企業統治に対する規制強化によるもので、役員報酬がどのように決まっているのかを説明する責任が求められているからだ。
日本企業に高額報酬で雇われた外国人役員の存在が日本人役員の報酬相場を引き上げたと言えるが、一方で従業員の報酬はほとんど増えていない。資本金10億円以上の企業における従業員の平均年収は06年には600万円あったが、20年は607万7000円と微増したにすぎない(国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」)。役員と一般従業員のこうした収入格差を見るにつけ考えさせられるのが、果たして1億円超の役員報酬に妥当性はあるのか、ということだ。
迷走続きの東芝も高額報酬続出
本来、役員報酬は業績と連動するべきだと思うのだが、必ずしもそうではなかったりする。赤字になったり、株主に配当金を支払っていないのに、1億円以上の役員報酬を支払ったりする企業もあるのだ。
今回、特に疑問に感じざるを得ないのが東芝で、経営再建中であるにもかかわらず1億円超の報酬を得た役員が13人も存在するのだ。周知の通り、東芝は15年に粉飾決算が発覚して以来、経営の混迷が続いている。
東芝の22年3月期の有価証券報告書によると、取締役と執行役の延べ33人の報酬総額が29億円と、21年3月期(延べ25人)の2.6倍に増えている。3月に社長兼最高経営責任者(CEO)を退任した綱川智氏などは、実に5億2300万円もの報酬を得ている。
東芝のようなゾンビ企業から“1億円プレーヤー”が続出したのは、株価の上昇に連動して報酬が上がる仕組みを導入したからだ。東芝の株価は15年の粉飾決算発覚で一時は1750円を割り込むところまで暴落したが、21年春に投資ファンドが買収提案をしたこともあり、上昇基調にある。7月15日時点では5330円と発覚前を上回る水準だ
もちろん規定に沿った報酬を得ているわけでだから、その高額所得に違法性はないだろう。だが、現経営陣が高収入を食む一方で粉飾決算の発覚以来、子会社や事業の売却、早期退職といったリストラによって多くの社員たちが東芝を去った。14年には20万人いた従業員は、22年3月には12万人と半減。経営再建は道半ばとも言える状況で、1億円以上もの役員報酬を得るのは庶民感情として理解し難いものがあるのだが……。