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こんにちは、ファイナンシャルプランナー/キャリアコンサルタントの八木陽子です。

先日、リビングで、中学生の娘とお友達がお菓子を食べながら話している会話が聞こえてきて、思わず吹き出してしまいました。

metamorworks /iStock

「なんかさぁ、このチョコ、前より小さくなったと思わない?」

「だよねー。値上げだよねー。ポテトチップスだって、量少なくなってるっていうじゃん」

「そういえば、中学生になって、おこづかい上げてもらった?」

「それが、うちの親は、あんまり上げてくれなくてさ…」

中学生女子のぼやきは、そのまま大人たちの悩み、マネー相談の現場にも吹き替えられます。物価は上がっているのに、お給料は上がらない。なんだかなぁ。どうすればいい? 物価高や世の中の流れに対して、もはや自分一人の力ではどうにもならない脱力感があります。

そんな矢先に、先日の、日銀黒田総裁の発言です。

家計の値上げ許容度も高まっている。

庶民の心を逆なでして、謝罪にまで追い込まれました。

値上げは、「許容した」というよりも「あきらめた」「我慢している」という感覚の人がいる中、やはり配慮がない言葉だったと感じます。経済学用語の延長線上で使用した言葉だったのかもしれませんが、受け入れがたいものがあり、SNSでも非難が集中しました。

とはいえ、黒田総裁が、ただ「値上げOK」と発言したイメージだけで語られている側面もあるように思います。黒田総裁は一体何を言いたかったのでしょうか。

写真:AFP/アフロ

黒田総裁の「真意」は?

黒田総裁の講演録の全文が、下記の日銀のサイトから閲覧できます。

金融政策の考え方 ──「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて──〔きさらぎ会における講演〕

問題になったくだりを読むと、黒田総裁は次のように述べています。

家計の値上げ許容度も高まってきているのは、重要な変化と捉えられる。日本の家計が値上げを受け容れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持し、来年度以降のベースアップも含めた賃金の本格上昇にいかにつなげていけるかが当面のポイントだ。

講演録では、今の日本で一番重要なことは、「日本人全体の賃金の本格上昇」と述べられています。繰り返し繰り返し賃金の上昇が言われています。そして、今がその時だと言っています。その理由として、

  • コロナ禍で外出できなかったり我慢したりの結果ではあるが、日本の貯蓄残高が増加している。
  • 東京大学の渡辺努教授によると「価格を上がっても、その店で買う」という考えが以前より増加している。

つまり、私がこの文章から読み取ったポイントは、ざっくりと「値上げを受け入れる準備ができたと判断した今、各企業の賃金を上げて、日本全体の給料を上げないといけないと考えている」ということです。

これまでは、価格を上げると消費者が受け入れられないことが明白だったため、価格は据えおきの会社が多かったのは事実です。ただ、本当に今が、「値上げを受け入れる準備ができた」かどうかは、私にも分かりません。多くの人の怒りも誘いました。

しかしながら…です。

各企業の賃金を上げて、日本全体の給料を上げないといけない」…これは、とても重要なことではないでしょうか?

日本の未来のためにも、子供たちや若者たちのために、私たち大人が真剣に考えなくてはいけない問題だと思います。

子どもにどう伝える?

景気がよくなるためには、物価の上昇が必要です。商品の値段の上昇あればこそ、企業の収入も増加し、それによって、人件費等に使用できるお金が増加し、お給料を上げる会社が出ます。

recep-bg /iStock

今のままの日本なら、OECDが発表した平均賃金の国別ランキングで22位に転落した貧乏な国です。もし優秀な人であったら、海外企業にオファーされる年収のほうが魅力的に感じるでしょう。どんどん優秀な若者が海外に流出していくことも止めることができません。そのため、「お給料を上げて、日本全体が豊かになろう」というそもそものメッセージ自体はとても重要だと思っています。

夜、娘と話をしました。

「前に、アメリカのサンフランシスコ行って楽しかったよね。でも、ハンバーガ―すごく高かったの覚えている?」

「覚えてないよ…ワタシ、小さかったもん。」

「そうだよね。ママは、あんまり何も買わないで帰ってきたの覚えている。

もし、これから、日本にもたくさんの外国の会社が入ってきたりして、もっといろんなものが高くなったら、どうする?買わないでがまんする?」

「え、がまんはやだなぁ。必要だと困るもん。どうすればいいの?」

さて、大人の私たちはこの問いにどのように答えればいいのでしょうか?

世界の国々と対等になれるスキルを身につけること。自分の得意なことを活かして稼ぐ力を身につけること。お金に働いてもらう発想も持つこと。今何をすればいいのか、世の中はどういうしくみになっているのかアンテナを張っていくこと。

肝心なことは、日銀も教えてくれません。そして、正解は一つでもないと思います。