2022年7月19日、日産自動車はコンパクトSUV「キックス」のマイナーチェンジを発表、e-POWERシステムをノートシリーズと同じ、第2世代e-POWERに刷新したほか、インテリアも刷新し安全性能も向上したほか、新たに4WDモデルを追加し、同日より発売開始した。
これまで、SUVでありながら2WDモデルしかないことが弱点とされてきたキックス。今回、満を持しての登場となったわけだが、その実力は如何ほどか!?? また、このマイナーチェンジで、大ヒットジャンルであるコンパクトSUV界において、キックスの立ち位置はどう変わるのか。
今回、日産追浜工場に隣接するGRANDRIVEにて行われた、事前試乗会に参加させていただくことができた。そこで筆者が感じた「キックスの今後」をお伝えしよう。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、ベストカーWEB編集部/撮影:池之平昌信
e-POWERと4WDの組み合わせは絶妙!!
冒頭でふれたように、今回のマイチェンで、キックスのe-POWERシステムは、ノートシリーズと同じ、第2世代e-POWERに。もちろん、追加となった4WDモデルも同様で、1.2リッター3気筒ガソリンエンジン(最高出力60kW、最大トルク103Nm)を発電用として使い、EM47フロントモーター(100kW、280Nm)にて駆動する。4WDモデルでは、ここにMM48リアモーター(50kW、100Nm)が組み合わされる。
車両重量は、FFモデルが1360㎏、4WDでは1480㎏と120kgの増加となるが、4WDの前後モーターを足したシステム出力は、150kW、380Nm。おおよそ2リッターのディーゼルターボエンジン並みの出力値だ。
その4WDモデルに試乗させていただいたが、時速30kmほどの低速では、車内の静粛性が高く、e-POWERのモーター電子音が少し聞こえる程度。この浮遊したようなe-POWERサウンドは、「未来の乗り物」を感じさせる雰囲気があり、心地良い。アクセルペダルを踏み増して、時速60kmまで加速すると、少し硬めの乗り心地が現れたのと同時に、余裕のある加速感で、速さの片鱗が感じられる。
そこからフル加速を仕掛けると、あっという間に時速100㎞に到達する。その際、3気筒エンジンは始動するのだが、音質が良いためか、ノイズはほぼ気にならない。大人2人の乗車でもスイスイと加速し、減速もしっかりと効く。回生ブレーキで一時的に電力チャージをし、再び加速したときのレスポンスは格別だ。
e-POWER 4WDの(ドライ路面で)効果が最も分かりやすいのは、コーナーでの踏み増しシーンだ。旋回中に、それほど強くはない緩加速をすると、コーナーにそってグイグイと旋回をしていく。2WDだとコーナー外側へと流れて行ってしまっていたはずだ。ただステアリングを保持さえしていれば、ライントレースをしてくれるので、抜群に運転がラク。この効果は、どなたでもすぐにわかるはずだ。
パワートレインEV技術開発本部エキスパートリーダー(兼)企画・先行技術開発本部 技術企画部 担当部長の平工良三氏へ確認すると、e-POWER 4WDが得意とするシーンのひとつだという。下り坂を旋回するシーンでも、修正操舵が少なくコーナーをトレースするので、恐怖感がない。これは大いにアリだ。
目指すのは「コンフィデンス・ドライブ」
車両計画・車両要素技術開発本部 車両計画・性能計画部 操安乗心地性能計画グループ主管の富樫寛之氏によると、日産が動性能で目指すのは「コンフィデンス・ドライブ(信頼のある運転)」であり、アリアでもキックスでも、他のクルマでもそれは同じで、パワーソースがバッテリーか、e-POWERかの違いだという。どんなシーンでも加速しながら曲がっていける、特にスノー、ウェットでも信頼できるクルマを目指したそう。限界性能ではなく、一般的なドライ路面でも「上質な運転感覚」が分かるように、普段の運転時にある0.2G程度の加減速をするシーンで使いやすい、そういった価値を提供しかったそうだ。
ちなみに、アリアのe-4ORCEとキックスのe-POWER 4WDは、制御ロジックの根幹は同じだという。キックスはリア側のモーターパワーが小さく、フロントのモーター出力とのバランスが50:50まで至らないため(51:49まではいく)、線を引いているだけで、ポテンシャルの中で最大限の駆動制御を行っているのだという。つまり、e-POWER 4WDはe-4ORCEに劣る、というわけではまったくない。
インテリアはアリアやノートのように、一部変更
インテリアの変更点は、ノートシリーズと同じく、フローティングタイプのセンターコンソールを採用し、電制シフターとなったことだ。従来型はフロアからシフトノブが生えた標準的なタイプであったので、新生日産を象徴するこの更新は非常に好ましい。また、フローティングされたセンターコンソールの下側にはポケットが用意されており、小さなバッグなどを格納することができる。
また、ブラウンの内装と主要メーカーオプションが標準装備された「スタイルエディション」という最上位グレードを、2WDと4WD、どちらにも追加している。「ツートンエディション」に用意されている明るいオレンジタンの内装とは趣が異なり、シックなブラウンカラーは、引き締まった大人のインテリア、といった印象だ。
また、前方衝突予測警報の「インテリジェントFCW」も搭載。高速道路で2台前の車両が突然減速したとき、あるいは、急に先行車が車線変更した際に、前方に遅い車両が走っていたとき、ドライバーに注意を促す機能だ。キックスを除くほとんどの日産車には搭載されていたので、ようやくキャッチアップされた、といったところだ。
もうちょっと早く欲しかった!!
車両本体価格(税込)は、2WDが279万円~301万円、4WDは306万円~328万円。2WDと4WDの差は約25万円だ。従来型キックスは、275万円からだったので、2WDの場合は、改良型で約4万円、さらっと価格アップしてきたことになる。
WLTCモード燃費は、FFが23.0km/L、4WDが19.2km/L。ライバルのヴェゼルe:HEV(2WD:25.0km/L、4WD:22.0km/L)、カローラクロスハイブリッド(2WD:26.2km/L、4WD:24.2km/L)と比べるとやや落ちる。実燃費では、この差が大きく現れることはないだろうが、シリーズハイブリッドと、パラレルハイブリッドの埋めがたい差は、どうしてもあるようだ。
とはいえ、キックスは全グレードでプロパイロットが標準搭載、17インチタイヤホイール、6スピーカー、本革巻きステアリングホイールも標準装備と、(ベーシックなグレードでも)つけたい装備はおおむね含まれている。また、コンパクトSUVの中で、最もEVに近いフィーリングを持っているのは、このキックスだ。
ただ、今回の4WD追加で、コンパクトSUV界におけるキックスの立ち位置が変わるほどの効果は得られない、と筆者は考える。これまで「SUVなのに4WDがない」と、さんざん指摘をされてきたキックスだが、デビューから2年も経過した、すでに定着してしまったモデルだけに、今回の「4WDの追加とインテリアの変更」だけでは、巻き返しのための起爆剤としてはインパクトが足りていない。
本気で巻き返しを図るなら、走行時の安定感と静粛性が段違いで高い新世代のCMF-Bプラットフォームへの刷新も不可欠だ(※キックスは古いVプラットフォームの改良版)。
新世代のインテリアを手に入れ、追加された4WDの実力も十分なキックスではあるが、残念ながら今回のマイチェンでの巻き返しは期待できない。次期型でどう巻き返すのか、に期待をしていたほうがいいだろう。
【画像ギャラリー】マイチェンでどう変わった!?? 4WDが追加され、インテリアも刷新された、日産「キックス」(20枚)画像ギャラリー投稿 日産キックス新型登場!! ついに! ついに!! マイチェンで待望の4WD設定!! いざその実力を全力テスト!!(ちょっと辛口でお届け) は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。