そのポスターや写真が多くの自動車愛好家&スーパーカーファン&子どもたちの部屋の壁を飾ったアイドルスーパーカー、フェラーリF40。過去のオークションでも大人気を博しているアイコンモデルの一台だ。そんなF40、1,315台のみ生産されたうちの1台がオークションに出品されて落札された。その落札価格、果たしてあなたのリアクションは、ひょえーすげえ、それとも、なーんだそんなものかのどっち?
フェラーリF40(1991)
シャーシNo.: ZFFGJ34B000089982
エンジンNo.: 27824
● 1,315台生産されたうちの1台
● シャーシ&エンジンナンバー適合
● 新車から約20,500km走行
● 2014年1月にフューエルタンクを交換
「次のギアへのシフトアップは完璧で、ターボが激しく回転する中、加速の爆発が再び起こり、距離、ギアシフト、ノイズを克服する時間の中でぼんやりとしているように見えます。F1エンジンのような獰猛さはないものの、その音色のよさには定評がある。外から耳をすませば、ターボが猛烈に駆動し始めるときの必死のシューという音が聞こえるだろう」。- 1988年5月、英Autocar誌より抜粋。
1988年、エンツォ フェラーリの自動車メーカーとしての40周年を記念して発表された象徴的な「F40」は、究極のスーパーカーであり、最高速度が時速200マイル(約322km/h)を超えた最初の量産乗用車として歴史的に重要な存在である。また、1988年に亡くなる前にエンツォ フェラーリが個人的に承認した最後のフェラーリでもある。
ミッドエンジン、2シーターのベルリネッタである「F40」は、限定生産された「288GTO」の発展型であり、「288GTO」同様、また先行する「308」シリーズとは異なり、パワーユニットを横置きではなく縦置きに搭載していた。「288GTO」の「エボルツィオーネ」バージョン(その後廃止されたグループB競技用)の開発から多くを学んだフェラーリは、「F40」をわずか13ヶ月の間に図面からディーラーのショールームに持ち込むことを可能にしたのだった。2,936ccのクアッドカムV8、4バルブシリンダー、ツインIHIターボチャージャーを採用し、478bhp@7,000rpmの出力を発揮する「F40」のエンジンは、スピード中毒者のためのものだった。加えて、さらに速さにこだわる人のために、ファクトリーチューニングキットで、200bhpのパワーアップが可能だった。
「F40」は、フェラーリのF1での経験を生かしたコンポジット技術によって、ボディとシャーシを一体成型している。プラスチック製の一体成型ボディを鋼管シャーシに接合し、軽量かつ高剛性な構造を実現した。ドア、ボンネット、トランクリッドなどの脱着可能なパネルはカーボンファイバー製である。ピニンファリーナが手がけた「F40」は、ダム状のノーズや高いリアエアロフォイルなど、最新のエアロダイナミクスを駆使したスタイリングが特徴だった。最高速度は323km/hと、多くの軽飛行機の離陸速度をも上回るため、ダウンフォースを発生させる必要があったが、その一方で、抗力係数(Cd値)はわずか0.34という見事な低さを実現した。
「F40」のインテリアは、ボディと一体化したシート、カーペットやトリムの排除、プレキシガラスのスライディングウインドウなど、レーシングカーとしてのイメージを強く打ち出している。実際のレースでは、レース用に準備された「F40」が強大な実力を発揮し、グローバルGTシリーズでは、マクラーレンの「F1 GTR」よりも多くのサーキットで速いことが証明された。
前述の英Autocar誌はそのテストを次のように結んでいる。「スムーズな路面では、目を見張るような速さでありながら、その性質はおとなしく、魅力的だ。運転は難しいが、決して難しくはない。市販車メーカーがいまだかつて経験したことのないレーシングカー並みのパフォーマンスを存分に発揮することができる。F40は、現在もなお、人々を感動させる力を持っている」。
当初400台の生産が計画され、1987年当時の希望小売価格は約40万ドル(先行する288GTOの5倍)だった。しかし、1980年代後半のスーパーカーブームでは、F40が定価の何倍もの値段で取引されるほど、需要があったのだ。1992年の生産終了時には、合計で1,315台が生産されたのみであった。
今日、F40の不朽の魅力の多くは、最後の偉大な「アナログ」スーパーカーの一台であるという事実である。ドライバーが完全にコントロールすることが期待されていた時代に設計・製造され、その後主流となったアンチロックブレーキ、トラクションコントロール、スタビリティコントロール、パドルシフト式自動ギアボックスなどの電子制御が導入される以前のものであること。ブレーキサーボ、エアコン、インテリアドアハンドル、パワーステアリングもない・・・。フェラーリのマーケティング担当役員、ジョバンニ ペルフェッティはこう説明する。「非常に速く、極限までスポーティで、スパルタンなクルマにしたかったんです。お客さまから『豪華で快適なクルマになりすぎた』と言われていました。F40は、パフォーマンスだけを求める、最も熱狂的なオーナーのためのものなのです」。それでも「F40」は、ABS、触媒コンバーター、アジャスタブルサスペンションなど、技術の進歩に影響を受けずにはいられなかった。
このマッチングナンバーの「F40」は、フェラーリの正規ディーラーである「ガレージ フライAG」を通じてスイスに納車され、1991年9月24日にブルーノ フライ氏の所有車として登録された。現在の売主は、1996年10月10日に「フライAG」からこのフェラーリを購入し、その時点では走行距離は8,100kmだった。車はこの数年間、走行することなく保管されたままで、最後の整備は2015年11月に行われ、燃料タンクは2014年1月に交換されている。G2レーシングのタンク交換の請求書(26,285スイスフラン)が保管されており、オリジナルのタンクも販売に含まれている。スピードメーターには、2015年のオドメーター測定値が20,089kmと記録されている。
新車から今までにわずか20,500kmしか走行しておらず、完璧なコンディションのこのエポックメイキングなフェラーリのスーパーカーは、すべての書類と工具が付属している。
英「オクタン」誌(2014年7月号)でF40、F50、エンツォ・フェラーリを再認識したレーシングドライバーのマーク ヘイルズは、こう宣言している。「F40は僕にとって、特別な存在です。F40で過ごした時間が長いからというだけでなく、登場した当時は爆発的で別世界のような創造物でしたし、今もその特徴をよく残しているからです」と述べている。
フェラーリF40(1991)
ボナズム オークション「THE GSTAAD SALE – COLLECTOR’S MOTOR CARS」
2022年7月3日
1,955,000スイスフラン(約2億7千265万円)にて落札
たったの2億7千万円。(笑)
【ABJのコメント】
「F40」、それはおそらく永遠に人気の一台である。このあとに発表された「F50」よりも、
「エンツォ」よりも、インパクトも魅力も強く感じ、「288GTO」と並ぶアイコンとして、これからも君臨する限定フェラーリモデルである。とはいっても本文中にも記されている通り、生産台数は1,315台と、なかなかの数である。数百台程度が普通のこの手のモデルの中では、この台数は大変多く、この1,315台という台数を語ると「へぇ~F40ってそんなに作られたの?」と、たいていの場合は驚かれる(比較してはフェラーリファンから怒られるかもしれないが、参考までに、ホンダNSX(2世代目)は4年間で2,558台であった)。
とはいっても、現存する「F40」は、1,315台よりも少ないことは言うまでもなく、希少な存在であることはもちろんだし、その生い立ちや車そのものの魅力を考えれば、これからも価格は下がることはほとんどないだろう。今回の一台は走行距離が2万km程度とのことで、かなり少ない・・・。とは、一瞬思ったが、もはやコレクターズアイテムであることや、「F40」の乗りこなしにくさ(?)などをよくよく考えてみれば「なかなかちゃんと乗ったねぇ」と、とも感じる距離数だとも思う。だがかえってこの距離数と履歴はちゃんと健康的に愛され続けてきた証拠ともいえよう。
この金額が高いのか安いのか、その感じ方はその人次第ではあるが、走行距離も少ないし、個人的にはなんだか妥当な金額ではないだろうか、と感じてしまうのは、昨今の高騰価格に感覚がマヒしてしまっているからだろうか・・・。(KO)
Text & photo: Bonhams
加筆: 大林晃平