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 前戦アゼルバイジャンGPのレース直後、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が背中のあまりの激痛にコクピットからなかなか出られなかった映像は、かなり衝撃的だった。

 数日後のカナダGP金曜会見に出席したハミルトンは、いつもと変わらず元気そうに見えた。しかし実際にはかなりのダメージを受けていたようだ。

Q:ルイス、昨年と比べて、今年はレース週末の回復にどれくらい時間がかかっていますか?
ハミルトン:今年はポーパシングで、身体の打撲が多くなっている。一般的には回復に1週間はかかるし、今年は今まで以上にいろいろなケアが必要だ。バンプでするとなると10G。実は前回のレースでは、最大で10Gを経験した。背中や腰だけではなく、首の下と上にも大きな負荷がかかったよ

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 F1マシン運転時に高速コーナーやブレーキングの際にかかる4〜5Gも相当の数値であり、10Gは想像の域を超える。体重70kgの場合、700kgの荷重が背中や腰を、レース中おそらく数百回も襲っていたことになる。FIA(国際自動車連盟)が緊急に技術指令書を出して、激しい縦揺れ現象への対策に動き出したのも当然と言えた。

 しかし今回のFIAの対策に対して、ドライバーからはさまざまな意見が出た。メルセデスのふたりは、当然ながらポーパシング規制に全面的に賛成だ。

ハミルトン:結局のところ、安全が一番大事だと思う。もちろんやるべきことはたくさんあるし、FIAが改善に向けて取り組んでいるのはポジティブなことだ。今後4年間は単純にポーパシングに対処するのではなく、完全にそれをなくす。未来のドライバーたち、つまり僕たち全員が将来にわたって、背中の問題を抱えることがないように修正することが重要だ

ジョージ・ラッセル:今週末の措置は解決策というより、まだ応急処置の側面が強い。とはいえ最も苦しんでいないチームにとっても、今のマシンはすごくアグレッシブでバンピーな乗り心地だ。僕たちが経験しているすべての垂直Gによる負荷は、安全だと予想されるものをはるかに超えている

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2022年F1第9戦カナダGP金曜会見 ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 フェラーリもストレートでかなり縦揺れを起こすマシンだ。にもかかわらずシャルル・ルクレールは、はっきりと反対の意思を表明した。

ルクレール:僕としては、完全には同意できない。運転しても大丈夫なクルマを与えてくれるのは、チームの責任だからね。そして今のところ、僕は特に問題は感じていない。昨年のクルマより硬い(乗り心地)なのは確かだ。でもそれで全然運転できないとか、自分にとってすごくつらいとか、そういうことは個人的にはない。少なくとも僕らは、どうすればよくなるかという解決策を見いだしたということだ

 縦揺れ問題にほとんど悩まされていないマックス・フェルスタッペン(レッドブル)も、反対の立場だった。

フェルスタッペン:僕らの助けになるか不利になるかは別として、シーズン途中のこういったルール変更は正しくないと思う。もちろん、安全性の面は理解しているけど、マシン開発が進めば問題は少なくなるはずなんだ。それでもダメなら、車高を上げるしかない。そんなところにまでFIAが介入してくるのは、正しいとは思えない

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2022年F1第9戦カナダGP金曜会見 マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 しかしフェルスタッペンのチームメイトであるセルジオ・ペレスを含め、大部分のドライバーはFIAの介入に基本的には賛同していた。

Q:ポーパシング問題の解決のため、FIAが介入すべきなのか。それともそれはむしろ、チーム側の責任なのでしょうか?
ペレス:どのチームもバランスを追い求め、ダウンフォースを追い求め、そのために可能な限り車高を低くしようとする。でも確かに低さには、限界がある。その限界にぶつかってしまうと、ドライバーにとって不健康な事態が起きる。だからFIAが介入して沈静化させようとするのは、いいことだと思う。

フェルナンド・アロンソ:ほぼ同意見だ。僕らドライバーは痛みがあるからといって、チームに対してパフォーマンスを落とせというのは難しいからね。FIAが代わりにやってくれるなら、その方がいい

セバスチャン・ベッテル:いいことだと思う。全員が満足できる解決策を見いだすのは、非常に難しい。全チームの合意も、おそらく不可能だろう。でもドライバーが短期的あるいは長期的なケガに苦しむなんてことは、あってはいけない。今のような状態が、これから何年も続くなんてことはありえないよ

フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)
2022年F1第9戦カナダGP金曜会見 フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)

 ベッテルが言うように、全員が満足すべき解決策を見つけるのは、おそらく非常に困難な作業になるのだろう。ドライバーたちの意見も、大きく割れている。しかしそれは不協和音というものではなく、金曜会見も和やかな雰囲気に終始。ハミルトンとフェルスタッペンは、こんな楽しいやり取りをしていた。

Q:ルイス、モントリオールでレトロゲームショップを見つけたそうですね。
ハミルトン:そうなんだ。ちょうど古いゲームをやりたくて、うずうずしていたところだった。最近、古いニンテンドー64を見つけたばかりでね。それでモントリオールに着いてすぐにマリオカートを買いに行ったんだけど、ニンテンドー64は置いてなかった。でもセナのゲームがあってね。「これは完璧だ」と、ここ2、3日は夜な夜なセナのゲームをドライブしている。そんなに速くはないけどね。

フェルスタッペン:ポーパシングの問題は大丈夫(笑)?

ハミルトン:いや、それはないよ(笑)