現在、海外から輸入されていないモデルが欲しいと思うと、利用するのが並行輸入だ。しかし、純内燃機関のモデルでも何かと課題の多い制度だが、エンジンがなく排ガス規制を気に気にしなくていいEVになると、使いやすくなるものなのだろうか?
海外には日本では発売されていない新興メーカーが発売する格安EVから、メジャーブランドが投入した海外専用車までさまざまなモデルがある。そんな海外のEVが欲しいと考えている読者もいることだろう。
今回は、そんな海外製のEVを並行輸入する際に発生する、ガソリン車以上に複雑で高い壁についてと、では格安EVは日本で手に入らないのか? その現状について解説していきたい。
文/加藤久美子
写真/HONDA、常力電動車、ELECTRIC IMPORT MOTORS
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■EV並行輸入には、排ガス検査よりも厳しいテストの通過を求められる!
世界規模でクルマの電動化が進む昨今だが、日本においてはまだまだEV/PHEVの販売台数はわずかで、車種の選択肢も少ないのが実情だ。
2021年グローバルでEV/PHEVは649万5388台が販売された。地域別にみると、
中国 ⇒ 340万台
アメリカ ⇒ 48万7560台
ドイツ ⇒ 68万1410台
欧州全体 ⇒ 227万2666台
日本 ⇒ 4万3916 台
日本の販売台数の少なさに驚くが、4万3916台の内訳はBEV(バッテリーEV、純電動車) 2万1139台+PHEV(プラグインハイブリッド) 2万2777台となる(※自販連調べ)
2021年はPHEVがBEVを上回ったが、世界屈指の自動車生産国でありながら、BEV/PHEVの合計が4万台レベルと異常に低い数字であることは間違いない。2010年にデビューした日産 リーフでさえ日本では年間1万台販売がやっとなのである。
では、世界ではどんなEV/PHEVが売れているのだろうか? グローバルでの販売台数1~10位までは以下となる。
●世界全体 販売台数(2021年)
1位 テスラ モデル3 50万0713台
2位 上汽通用五菱 宏光 MINIEV 42万4138台
3位 テスラ モデルY 41万517台
4位 フォルクスワーゲン ID.4 12万1631台
5位 BYD 秦 Plus PHEV 11万1553台
6位 理想 ONE 9万491台
7位 BYD 漢 EV 8万6901台
8位 BYD 宋 Pro/Plus PHEV 7万8973台
9位 長安 奔奔 E-Star 7万6454台
10位 フォルクスワーゲン ID.3 7万6278台
世界トップ10のうち日本で販売されているのは1位のテスラモデル3のみ(フォルクスワーゲン ID.4など、2022年中に日本での販売が予定されているモデルもある)。また、トップ10のうち6台が中国メーカーの乗用車であることにも要注目だ。これも日本で販売されるEVの選択肢が少ないことに大きく関係している。
中国は国連協定規則(UN/ECE)「58協定」のメンバーではないため、日本に輸入して登録をする(=日本の保安基準を満たしてナンバープレートを取得する)際、非常な困難を伴う。
ちなみにアメリカも58協定の加盟国ではないが、アメリカの保安基準を満たすことを証明する『FMVSS』のステッカーが貼られたクルマなら日本の保安基準を満たしているとみなされるため、まるきりゼロの状態から登録する中国車よりかは幾分、ラクとは言える。
もちろん、第一汽車「紅旗」シリーズのように少数台数の輸入であってもメーカーである第一汽車が完璧にバックアップする体制が敷かれているなら、日本のナンバープレート取得はそれほど難しくない。
では、日本で販売されていない海外製のEV/PHEVを並行輸入で入れて、日本で乗る方法はあるのだろうか?
日本で並行輸入車にナンバーをつけるには、世界で最も厳しいレベルの「排ガス検査」をクリアすることから始まる。排ガスをまったく出さないBEVなら、厳しい日本の排ガス規制も当然ながら楽勝じゃん? と思ってしまいそうだが……実は排ガス検査の代わりに電動車に対しては排ガス検査よりもはるかに厳しいテストをクリアする必要がある。
なお、ここでいう「電動車」にはBEV/PHEV/HEVのこと。HEV(一般的なハイブリッド車)は電池の認証と排ガステストの両方が必要となる。
電池の認証は公的機関や民間の試験機関で認証を行うわけだが、費用は高額で1000万円を超えることもある。
ガソリンエンジンのような排ガステストはなくても、排ガステストよりもはるかに高額な費用が掛かる電池のテスト(国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(UNECE/WP29)において採択されたバッテリー式電気自動車に係る協定規則100号第2部(R100-02))で認定を得なくてはならない。
並行輸入のEVを日本で登録する際には当然、電池以外にも莫大な数の安全基準をクリアしなくてはならないわけで、例えば中国製EVを日本で自動車として登録するのはほぼ不可能に近い……。筆者はそう思っていた。
■激安10万円の中国製EV 実はヨドバシカメラで販売されていた?
2020年7月、中国の自動車メーカー『常力電動車』から「世界最安」をうたう小型EV『Chang Li』が発売されており、さまざまなタイプをラインナップしている。4輪の最安値モデルは日本円にして1台約10万円(930~1045ドル)。激安EVとして日本でも話題になった。
そしてこの激安EVと同じ(多分)シリーズが、ヨドバシカメラで販売されていたことがわかった。現在も公式サイトに残る小型EV「ヴィークルファンVF4」がこのChang Liとウリふたつだったのだ。実際にヨドバシで販売されていたVF4はアリババにて2000ドル前後で販売されているモデルである(日本での販売価格は88万円)。
写真を見比べると非常によく似ているが取り扱い会社に聞いても「常力電動車という会社ではない」との返事。
中国車の事情通によると「中国ではOEMが盛んでヨドバシで売っているものが常力電動車でもともと製造されていても別会社のブランドとして販売することもあるし、同じ設計者が別会社の設計を担当することも珍しくないのでよく似たクルマがでることもある」とのことなので真相は不明だ。
なお、この「VF4」は2021年12月28日に販売開始されたが2022年モデルは完売、2023年モデルの予約受付中としていたが、現在サイトは「工事中」となっている。ヨドバシに確認したところ「メーカーのほうで生産を終了したと聞いています」とのことだった。
そして本題。ではこの中国製の小型EV。いったいどのようにして日本の公道を走れる仕様となったのだろうか? 協定規則100号第2部(R100-02)に基づく、電池の認定制度を実施している一般社団法人 JIMA(ジーマ)に確認したところ、意外な回答をいただいた。
「R100(2輪の場合はR136)の要件について『軽二輪』扱いのEVは必要で軽自動車検査協会にて確認しますが、『原付』は自治体がナンバー発行するので検査不要のため、不担保となります。
また、『ミニカー』(1人乗り)登録の車両は道路運送車両法で『四輪の原付』扱いになります。運転するには普通自動車免許が必要ですが、原付と同等になるので電池の認定は不要となります。
さらに60V未満の低電圧動力用バッテリーは道路運送車両法の解釈によってR100/R136の取得が不要となっています」(一般社団法人JIMA 代表理事 村島政彦氏)
ヨドバシで販売されていた小型EV(ミニカー登録の1名乗車四輪原付)は、要するに「原付扱いでさらに電池そのものも60V未満の低電圧バッテリーであるため、電池の認証は不要だった」ということになる。
ちなみに、常力電動車の小型EVは『THE GRUNT』というブランド名でアメリカでも2021年4月頃から販売されている。好調な売れ行きだという。4人乗車が可能で最高速度は40km/h。1充電で約32km走行可能である。
ヒーターやラジオ、バックモニターも付いている。輸送費や関税など諸費用を入れて現在は8000ドル(約100万円)からの販売だ。アメリカでも通常の四輪自動車ではなく、40km/h以上出せない「低速自動車」としての登録となる。
中国製小型電気自動車は自動車として登録される日本のEVとは姿、形、衝突安全性や乗車定員など大きく異なるものの、100万円以下で購入ができるならデリバリー用車両としてのニーズは今後増えていくかもしれない。
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