東京と博多を結ぶ高速バス「はかた号」は西日本鉄道が運行しており、30年以上の歴史を持つ人気の深夜バスだ。その人気から“キングオブ深夜バス”と呼ばれるほどだが、客席の装備は何ともイマイチ……それでも長い間運行を続けられる秘訣に実際に乗車してレポートする。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
動画がご覧になれない場合はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBからご覧ください。
キングオブ深夜バス!
はかた号は北海道発のテレビ番組で有名になった路線だ。「深夜バスではなく夜行バスだろう」と指摘する向きもあるだろうが定義はともかく、キングオブ深夜バスという栄誉を授かったことが重要なので本稿でもそれを踏襲する。
はかた号は1990年に西日本鉄道(西鉄)と京王帝都電鉄(京王電鉄・現在の京王バス)がそれぞれ1往復を出す形で1日2往復が設定されていた。
記者は、はかた号に乗車するのは2度目だが、実は最初に乗車したのは開業間もない頃の上り西鉄便で、西工スーパーハイデッカーの独立3列シートに後部サロン付きという仕様だった。
当時は山陽自動車道はまだ全線開通しておらず、中国自動車道・中央自動車道経由で新宿西口に向かっていた。また運行途中で給油を行う珍しい路線でもあった。
山陽道が一部でも開通し陰陽連絡道路で中国道に戻れる場合は、順次経路をのせかえていく方式で、山陽道全通までは経路の変更が行われた。しかし、しばらくして京王が運行から撤退し、西鉄単独で1往復の運行路線になった。
当時の夜行高速バスはセルフサービスで給湯機によるお茶やコーヒーのサービスがあり、はかた号にはさらに軽食サービスもあった。では先に動画をご覧いただこう。バスマガジンWEBかベストカーWEBでは埋め込みプレーヤーで視聴できる。
バスタ新宿
記者が最初に乗車したのはもう30年ほど前になるので、今回はまったくの新規路線に乗りバスしたと考えて差し支えない。当時は北九州を経由しなかったので福岡市内を出ると新宿までノンストップだった。
現在は新宿西口ではなくバスタ新宿から発車する。なお続行便は西口発となる場合がある。バスタ新宿が新宿区にはなく渋谷区というどうでもいい知識は置いておいて、JR線利用者以外は難儀するバスターミナルだ。
キャリーケースを持つ旅客は各線の駅や路線バス停留所から相当歩かなければ、バス乗り場にたどり着けない構造になっている。
はかた号も例外ではなく、ターミナルの発券所がある入口に着いても、さらに歩いて乗り場に向かわなければならない。
隣には同時刻発の博多行きが!
はかた号ののりばに着いてもまだ時間が早くバスは入線していなかったが、となりを見ると、同時刻発の福岡行きの天領バスがすでに乗車扱いを行っていた。こちらはツアーバスの流れをくむ夜行高速バスで、はかた号とは違い新山口駅・小倉駅新幹線口に停車し博多に向かう。
JR系のバス事業者が運行するプレミアムドリーム号を西鉄が、青春エコドリーム号を天領バスが運行しているようなものと例えたらいいだろうか。
発車の10分くらい前にようやく西鉄のいわゆる「白夜行ゴールドロゴ」塗色のエアロクイーンが登場した。車両は運行開始当初から一貫して三菱ふそう製だが、車体は西工SDII、SDI、純正エアロクイーン、エアロキングと変遷し、現在では純正のスーパーハイデッカー、エアロクイーンが使用されている。
最近ではスーパーハイデッカーを採用する高速バスは減っているので、実際に乗ってみるとアイポイントの高さはダブルデッカーほどではないにしろ、実感することができる。
個室を設置
座席は前方に4室の個室(プレミアムシート)を設置し、それより後ろは3列独立シート(ビジネスシート)の2クラス制だ。今回は1番A席の個室をゲットした。
運賃はダイナミックプライシング制で19000円だった。お隣の天領バスは、はかた号よりもわずかに先に出発したが、はかた号の乗車は6名で21時に定刻で新宿を出発した。
東京側の乗車地はバスタ新宿だけなので、次の降車停留所は「小倉駅前」だ。首都高速に入り運転士の挨拶と案内が入る。約2時間走行後の静岡SAで1度目の降車休憩がある旨が案内される。
特に渋滞もなく東名高速道路に入りウトウトしていると静岡SA到着の案内が入る。停車時間は約15分。天領バスはすでに降車休憩をしていた。
次に降車できるのは山口県!
静岡SAを出ると次の休憩は山口県の佐波川SAなので、約750kmは外に出ることはできない。よって静岡での停車時間の短さから必要な糧食は基本的には新宿で購入するべきだが、当地では不足分を買い足す程度だろう。また喫煙者は明朝まで喫煙できないのでSA内の喫煙所で吸いだめをしておく必要がある。
静岡SAを出ると消灯されるが、個室は電灯をつけていても構わない。途中2時間または200kmおきに乗務員交代と車両点検のために停車するが乗客は降車できない。快適な車内で爆睡してしまったため、静岡SA以降で覚えているのは、広島県の福山SAのみで伊勢湾岸道も新名神もまったく記憶にない。
そして午前8時過ぎに佐波川SA到着のおはよう放送が入り、2回目の15分程度の休憩。そこには先着の天領バスの姿があり、新山口駅に寄るのでここまで並走してきたがお別れだ。はかた号が先に発車して山陽道から山口JCTを介して中国道に入る。
九州上陸!
壇之浦PAを通過すると関門橋を渡り九州に上陸する。門司ICから北九州都市高速道路に入り冨野ランプで降り、小倉駅前を目指す。小倉駅前高速バス降車停留所で2名の降車扱いをすると、次の停車は砂津だ。
西鉄バス北九州の本社と小倉営業所がある砂津では降車はなく通過。足立ランプから再度、北九州高速に入り黒崎ランプまで走る。
黒崎ランプを出ると、黒崎インター引野口に停車。ここは北九州市西部の高速バスの要衝で、1つの停留所で全方向の高速バスに対応できる便利なバス停だ。それゆえに高速バスがたまりやすく、よく渋滞する。
前を走る天神行きの「いとうづ号」が、引野口へ入線するはかた号に道を譲るために一般路線バスの停留所に入り待避。はかた号は先に引野口につけて1名の降車扱い後にすぐに発車、再度北九州高速に入る。 そのまま北九州高速を走り続けると、やがて八幡ICを介して九州道に入る。
いよいよ福岡市に入る!
九州道を福岡ICまで走り、福岡都市高速道路で天神北ランプを目指す。 天神北ランプを出れば、すぐそこは福岡市の中心地である天神地区だ。都市間高速バスで西鉄天神高速バスターミナルに入れるのは、基本的に西鉄が運行に噛んでいる路線のみで、同社の強みでもある。
西鉄福岡駅の上にバスターミナルがある構造で、路上停車の市内路線バスや西鉄電車とは垂直移動だけで済む。しかし天神では降車はなく、ターミナルの降車場でドアを開けるもののすぐに発車し通過した。
天神を出ると次は終点の博多バスターミナルだ。博多バスターミナルは民間会社の運営で、西鉄も出資しているが西鉄だけのものではないので、博多に路線を持つ他社でも入ることができる。蛇足ながら昨今、ウィラーの高速バスが博多バスターミナルに入ることができたのは、運行会社の祐徳自動車の関係だと思われる。
2階の高速降車場にほぼ定刻で到着したはかた号は最後の3名を降ろして、目と鼻の先にある博多営業所に回送していった。
乗って育てる「はかた号」!
はかた号は30年以上の歴史を持ち、西鉄が試行錯誤を重ねて育ててきた路線だ。個室でもACコンセントはなくUSB2ポートのみで、リクライニング角度も大したことはないが、西鉄がこれを最終形態にするとは思えない。
最近は個室を設ける高速バスが出てきているので、車両更新の際には工夫を凝らした新たな仕様が誕生するかもしれない。
「キングオブ深夜バス」の名にふさわしい「はかた号」は、プレミアムシートを選択しても夜行のサンライズ+新幹線よりも安く、睡眠時間を有効に使い翌日も楽に行動できる移動手段としてはアリだと思う。
コロナで減便や運休または廃止された路線もある中で、西鉄のフラッグ路線として走り続ける「はかた号」に一度乗車してみてはいかがだろうか。
投稿 日本最長バス路線!! その距離1000km超の大冒険 伝説の存在「はかた号」に乗ってみた は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。