6月末、アメリカ・テキサス州で40度近い酷暑の中、トレーラーの中から移民と見られる46人の遺体が見つかったという痛ましいニュースが報じられた。テキサス州は7月に入っても40度に近い気温が記録されているが、ここに来て新たな問題が浮上している。電力不足だ。
「風力」発電量が10分の1に
ブルームバーグは12日、「Texas Wind Power Is Failing Right When the State Needs It Most(テキサス州の風力発電は、州が最も必要とするときに失敗している)」という見出しの記事を配信した。記事によると、テキサス州の主要な電力源である風力発電が、熱波での電力需要の急増に対応できていないという。風力発電機の発電量が本来の能力の10分の1以下に低下、風力タービンは潜在的な出力のわずか8%にとどまっている。その理由は、風が吹かないことだ。
テキサス州では、このところ、高気圧の影響で無風状態が続いているという。そのため、風力発電の発電量が極端に落ちてしまい、テキサス州は今、電力危機に陥っている。
アメリカのバイデン大統領は、気候変動対策に精力的に取り組んでいることで知られる。バイデン大統領は、2030年の温室効果ガス排出量を2005年比で50~52%削減、2050年のカーボンニュートラルを目指すとしている。そんなバイデン大統領の政策実現のお手本ともいえるのが、テキサス州だ。
再エネ“優等生”だったテキサス
エクソンモービル、コノコフィリップスといった石油ガス大手企業が、テキサス州に本拠地を置いているが、実は、テキサス州は再生可能エネルギー発電が全米一盛んな州だ。風力、太陽光、太陽熱を合わせた再生可能エネルギーの発電量は23.9%で、全米1位。2位のカリフォルニア州の再生可能エネルギーの発電量は11.4%と、2倍以上の差をつけている。米国エネルギー情報局(EIA)の調査によると、テキサス州内の発電量の2割を占める風力発電は、この10年ほどで3倍以上に拡大したものだ。
これだけ急激な主力電力源の転換に、経済への影響を危惧する向きもあるだろう。しかし、今回のことが起こるまでは、再生可能エネルギー発電に短期間で大きく転換しているにもかかわらず、テキサス州の経済は好調だったようだ。米ニュースサイト「ビジネスインサイダー」は、昨年10月「3 reasons Texas’ economy will be just fine without oil and gas(テキサス州の経済が石油・ガスなしでもうまくいく3つの理由)」という記事を配信。
記事では、「2017年の発電量のうち、15.7%以上が風力発電によるものだったという。石油・ガス生産量の減少にもかかわらず、テキサス州はエネルギー生産をリードし続け、雇用を創出している」と指摘。同州の経済に占める石油・ガス生産の割合は1980年代以来、減少し続けているが、風力・太陽光エネルギーが台頭しているため、テキサス州の経済は好調に推移しているという。さらに、風力・太陽光エネルギーが普及しても、石油・ガスはさまざまな用途に使えるため、その分野での雇用創出も可能だとしている。
トヨタが生産調整を実施
なお、猛暑の中、電力不足に陥ったテキサス州の9割の電力系統運用を行うアーコットは、7月10日、州内の家庭や企業に対し節電要請を行った。ビジネスインサイダーは、昨年配信した記事で、石油・ガスなしでもテキサス州の経済が上手くいく理由を説明していたが、今回は経済への影響も大きいと予想される。
実際に、テキサス州の電力不足は、現地に生産拠点を置くトヨタ自動車など日本企業の生産にも既に影響を及ぼしている。トヨタの北米法人は14日、節電要請に応えるために同州の工場で生産調整を実施していると明らかにした。
言うまでもないが、風力発電は風が吹かなければ発電できない。太陽光発電にしたって、発電ができるのは日が照っている日中だけだ。しかも、今回、テキサス州を襲った40度を超えるような酷暑の場合、太陽光パネルの発電効率は極端に落ちる。
再生可能エネルギー発電の優等生と言えるテキサス州で、はからずも、再生可能エネルギー発電の最大の弱点があらわになった格好だ。