お誕生日である6月20日(月)に歌手のMay J.さんと結婚したばかりの尚玄さん。
2005年に主演映画『ハブと拳骨』(中井庸友監督)で本格的に俳優デビューを飾り、2007年には長編映画2作目となる『アコークロー』(岸本司監督)に出演。しかし、長身に日本人離れした端正なルックスはモデルとしては有利だったが、俳優活動ではネックに。テレビドラマにも出演するようになったものの、外国人役など限定された役柄が多かったという。「日本では役がない」と言われた尚玄さんは、ニューヨークに移住することに。
◆ニューヨークに移住して本格的に俳優修業
尚玄さんがニューヨークに移住することにしたのは、『ハブと拳骨』でニューヨークの映画祭に行ったときにアクターズスタジオを訪れたのがきっかけだったという。
「ニューヨークの映画祭でボビー中西さんというアクティングコーチと知り合って、アクターズスタジオに連れていってもらったんです。
そのときにハーヴェイ・カイテルがモデレーター(進行役)をやっていたんですけど、そのメンバーたちの芝居を目の当たりにして感動したんですね。
それでボビーさんから『日本だと芝居の勉強をしているというと、経験不足だと思われることが大半だったけど、アメリカではアスリートと一緒で、役者は現場と現場のあいだにちゃんとスクールとか、アクティングコーチのもとに行って自分を高めるという作業を常に、死ぬまでやっている』ということを聞いて、本当にすごいなあと思いました。
『これはもう勝てるわけがない』って、正直思ったんです。だから、ニューヨークに行きたいなと思って、半年後には移住してアクティングを学びに行っていました」
-ニューヨークにはどのくらいの期間いらしたのですか?-
「1年くらいです。ニューヨークの後、マネジメントしたいという方と会ってLAに行ったんです。LAでマネジメントがつけばオーディションに行けるので、LAに移住していろんなオーディションに行きました。
かなりのハリウッド大作のオーディションにも行って、結局そのときは何も役が取れなかったんですけど、試行錯誤しながらいろいろやれたのはすごくいい日々だったと思っています。
そのあとに日本のある事務所からマネジメントしたいという声がかかって、それで一度日本に帰ってみようかなと思って帰ってきたということです」
◆世界中で人気の格闘ゲームの実写映画に出演
英語での芝居にも自信がついて海外の作品のオーディションも受けていた尚玄さんは、2014年に日本だけでなく世界中で人気を博している格闘ゲームの実写映画『ストリートファイター 暗殺拳』(ジョーイ・アンサー監督)に出演することに。
「オーディションを受けて大きかったのは『ストリートファイター 暗殺拳』ですね。日本でオーディションをやったんですけど、帰国してからの転機だったと思います」
-尚玄さんが演じた若いときの剛拳役はなかなか決まらなかったのが、尚玄さんのオーディションテープを見て即決だったそうですね-
「そうなんですよね。最初イギリスでオーディションをしたけど決まらなくて、LAでも決まらなくて、それで日本、東京に来て僕が決まったんです。
海外の作品は、英語力や身体能力の問題で日本人の役でも他のアジア人の俳優が演じることが多いので、悔しいなあと思っていたんですよね。
『ストリートファイター』は日本で生まれたゲームなので、日本人の役を日本人の僕がやれるのは重要なことだと思いました。光栄だと思いましたし、とてもうれしかったです。
『ストリートファイター』は昔ハリウッドでも実写映画化されていますけど、あまり評判がよくなくて。僕らがやった『ストリートファイター 暗殺拳』はファンの間でも評価が高くて、そのおかげで結構広がったので、それがきっかけで海外の作品のオファーやオーディションも増えました。だから僕の中ではターニングポイントですね」
-あのときは筋肉隆々でムキムキのすごいからだでしたね-
「そうでしたね(笑)。原作がゲームですし、周りも今や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ監督)でブレークしたマイク・モーとか、監督でもあるジョーイ・アンサーとか…みんなすごいムキムキのからだをしているのに、バック宙とかもできるんですよ。
本当に身体能力がすごい人たちに囲まれていたので、僕もまずはからだを大きくしなきゃいけなかったんですよね。ゲームファンの期待を裏切ることだけはしたくなかったので。
だからあのときは僕も80kgくらいありましたね。今よりひと回りもふた回りも大きかったので、自分でもからだが重たかったです(笑)」
-アクションシーンが多かったですものね。どうやってからだを大きくしたのですか-
「あのときはひたすら食べていました。1日に5回食事を摂ってプロテインも飲んで…あとはワークアウトですよね。監督にトレーニング法を教わって、週に5日ジムに通ってベンチプレスとか、そういうことをずっとやっていました」
-ゲームファンを裏切りたくないとおっしゃっていましたが、完璧に仕上がっていましたね-
「どうなんですかね(笑)。時間があれば、もうちょっとやりたかったです」
-アクションの仕事も多いですね-
「そうですね。結構アクションは多いです。僕は格闘家じゃないですけど、もともと運動は得意だったので、いろいろとアクションシーンのある仕事のオファーが多かったですね」
-日本人は数多くいるアジア人俳優の一人という扱いを受けると聞きますが、尚玄さんのように日本人離れした彫りの深いルックスだとどうなんでしょう-
「プロダクションによるんですけど、作品によっては、向こうがイメージしている日本人が僕と違ってあまり彫りが深くないタイプを求められることがあるので、書類の段階で外されることも多々ありました。
そういう意味でいうと、僕は日本でも自分はいつもアウトサイダーっていう気持ちでいましたし、海外に行ってもあまり日本人として見られなかったりする部分もあったので、なかなか難しいものはありましたね」
-完全に海外に移住してしまうと、アメリカに数多くいるアジア人俳優という一括り(ひとくくり)になってしまうので、日本で活躍しながら仕事があるときに海外へ行くというスタイルのほうが、価値があると言われていますが-
「そうですね。コロナ禍になって、最近はセルフテープとか、ズームでいろいろできるようになったので、以前ほどはアメリカに住まなくちゃいけないということは少なくなったと思います。そういうこともあって、僕は今東京ベースにしているというのはありますね。
行ったり来たりになりますけど、楽しいです。基本的に僕は旅が好きですから、ずっとバッグパックで60近くの国をまわっていますし、旅と自分の好きな映画作りを兼ねているので、やっぱりそういうスタイルが好きです。結構そういう海外の案件とかもありますしね」
◆英語だとストレートに監督とディスカッションできるところがいい
海外での挑戦も苦戦を強いられることは多々あったというが、企画など最初から参加することができて自由に意見も言える海外の作品は、尚玄さんの仕事のスタイルに合っているという。
「すべてという意味ではないんですけど、向こうはわりと準備する時間に余裕をもってくれているということと、比較的ちゃんとディスカッションする時間を与えてくれるところが僕に合っている感じがします。
それはもちろん英語だからということもあると思うんですけど、わりとストレートに監督とやりとりができるんですよね。日本だとそれができない部分もあるので」
-世代も変わってきて日本でも俳優さんと積極的にディスカッションする監督も多くなりましたが、昔は違いましたからね-
「そうですね。今は風潮としてそういうことが問題になってきているので、どんどん今後変わっていくとも思うんですけど」
尚玄さんは、『COME&GO カム・アンド・ゴー』(リム・カーワイ監督)、『Sexual Drive』(吉田浩太監督)、『JOINT』(小島央大監督)など国内外の映画をメインに活動。
2021年に公開された映画『JOINT』では、外国人犯罪グループを束ねるボス、ジェイ役。名簿売買、暴力団、特殊詐欺、外国人犯罪組織…現代日本の犯罪のリアルを描き、ドキュメンタリーのような生々しさが印象的な作品。
-外国人犯罪グループを取り仕切るボスのような役は結構多いですか-
「もともとは結構多かったですね。昔はわりとアウトローの役が多かったんですけど、最近はあまり来なくなっていたので、『JOINT』で久しぶりにああいう役をいただきました」
-監督が演技経験よりも“個性”や“ルック”を重視したキャスティングをされたということで、主演の山本一賢さんはこの作品で俳優デビューですし、あまり一般的に知られている俳優さんたちではなかったので、尚玄さんが出ていることは大きかったですね-
「ありがとうございます。うれしいです。主演の山本は僕のバスケの後輩なんです。
韓国でJ.Y.Parkさんが主催している芸能人バスケ大会があるんですけど、J.Y.Parkさんの会社のアイドルとかも出場するので、日本人のお姉さまがたも結構応援に来たりしているんです。
3年くらい前にその大会に初めて日本人チームを招待してくれて、山本は僕らのチームのメンバーで、実は僕ら日本人チームが優勝したんです。昔の熱い部活時代に戻ったような、本当に童心に戻ったような気分でした(笑)。
山本はすごい熱くて涙もろくて、いいなあって思っていたら、『実は今度俳優をやるんですよ。今映画を撮っているんですけど、監督を紹介したいので、ちょっと出てくれないですか』って言ってくれて参加することになったんです。そういうつながりだったのでおもしろいですよね」
国内外でさまざまな作品に出演しながら、自ら企画し主演した映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』も8年の歳月をかけて完成し、現在公開中。次回後編ではその撮影エピソード&裏話も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:池田ユリ