先週後半の株式市場でVtuberのプロダクションを運営するANYCOLOR(エニーカラー)が時価総額で、フジテレビの親会社(フジ・メディア・ホールディングス)を一時上回ったことが話題になりました。エニーカラーは今月上場したばかり。従業員にも株を広く与えており「30人以上の従業員も億万長者」という点も注目されました。
さて、これから上場をめざすベンチャー企業の多くは、優秀な人材を確保したくても資金的に余裕がないのが実状です。そのため、通常の給与だけでは優秀な人材を確保することは困難であるので、報酬としてのインセンティブとしてストック・オプションという制度を用いることが多くあります。今回はストック・オプションについて考えてみましょう。
そもそもストック・オプションとは?
例えばIT系のスタートアップ企業の場合で、IPO前のアーリー・ミドルステージでは資金が豊富にあるわけではないので、優秀な人材を獲得するための高い報酬や人材紹介料を支払うことは相当難度が高いものです。また、優秀な社員であればあるほど年収を大幅に下げて入社しているなどといったように、相当程度のリスクを負ってジョインするケースも少なくありません。
ベンチャー企業では、このようなまだ会社がどうなるかわからない段階でジョインしてくれた社員に報いたり、優秀な社員を獲得する手段として、ストック・オプションが登場します。
ストック・オプションとは、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で自社株を購入できる権利のことです。会社の役員や従業員に対する報酬形態の1つで、株価が上昇した時に売却すれば、株価と権利行使価格の差額が利益となります。会社のために働くことが自社株の上昇、さらには自分の利益にもなるため、社員のモチベーション向上にも有効とされています。
ストック・オプションは使い方次第
ストック・オプションは、役員だけでなく従業員に与えることができます。この新株予約権の具体的な付与対象者の基準は、法律で決まっているわけではありません。企業ごとに自由に決めればよいのですが、基準が合理性を欠いていたり、不明確だったりすると、マイナス効果をもたらすことに留意が必要です。
本制度の目的が、従業員の忠誠心や士気の向上にあることを考えれば、基本的には、幅広く従業員に付与するのが望ましいでしょう。しかし当初は、管理職など、幹部社員のみを対象とするほうがよいという考え方もあります。
その場合でも、さらに選別が必要なら、等級や在職年数といった可視的な基準を適用するのがよいでしょう。マーケット環境の好不況に関わらず、不明確な付与基準による不公平感や軋轢が生じない仕組みにしておくことが大切です。
ちなみにストック・オプションには、インセンティブ効果、公平感の維持といった目的の他に、企業会計処理上の問題、税務上の取扱い(最高裁判決では「給与所得に該当」)、株式の希薄化による既存株主の経済的損失の可能性など、留意すべきポイントも多く、実例研究と専門家の助言が欠かせません。
私がこれまで事業会社として携わった3社ではいずれも、付与時の在籍者全員にストック・オプションを付与しました。公平性の観点や全員で一丸となって頑張っていくという趣旨だったのですが、残念ながらその目的が達成されたとはいえません。私もストック・オプションについて社内で何度も説明会を開催し、個別にも説明しましたが、経験から言えばストック・オプションの意義を全員に理解させるのは至難の業です。
ストック・オプションは基本的に管理職や今後を担う期待の若手など業績貢献度合いと将来の期待が大きい人への付与が望ましいです。ただし、会社の主観で付与の有無を決めるとモチベーションが下がります。管理職以外で一部の従業員を対象にする場合は、客観性のある基準を示すべきです。
また、管理職に渡しっ放しで、単に株価や時価総額目標を掲げただけでは意味が薄いです。「なぜ株価や時価総額を上げなければならないのか」「株価を上げて資金調達力を増すことは会社が成長を志すうえで必要である」といった目的をしっかりと理解させることが重要です。
効果を最大限に発揮するには
ストック・オプションの目的は、一般的に従業員のモチベーション向上です。それ以外の目的で実施したとしても、効果があるとは判断しにくいと感じます。
それゆえ、ストック・オプションを行うのであれば、確実にその実施がモチベーション向上に結びつく付与方法などを設定する必要があります。「平等に」というのも従業員全員のモラール(士気)高揚になるとも考えられますが、広く浅くとなれば、効果も同様に「浅く」なる恐れがあります。
私の経験から言えば、営業職はもともと業績連動評価がしやすいので、営業目標達成のインセンティブ制度にて報いればいいので、ストック・オプション付与対象に入れなくても問題ありません。ストック・オプションの付与対象には、管理職、それも部長クラス等の高位者で組織運営を統括する立場の方を中心にすることが良いと考えます。また、付与基準が明確であるならば、優秀な若手や中堅社員にも付与してもよいでしょう。
私が在籍したプロパスト社では、全社員にストップオプションを付与し、過去の不動産ミニバブルの時に上場したため、上場した時に在籍していた約70名の社員の半分ほどが、数千万円~数億円の金額を得ることができました。