フィギュアスケート男子の羽生結弦のプロ転向は、中国でもリアルタイムで報じられ、多くのファンに注目された。中国メディア『中国企業家』は、羽生結弦について次のように評した。
羽生結弦は、無数の輝きを放っている。冬季五輪2冠、世界選手権2冠。世界記録を19回更新し、4回転ジャンプの第一人者としてあらゆる金メダルを勝ち取り、フィギュアスケートの歴史に名を残した。
中国の国営放送「中国中央電視台(CCTV)」はかつて、羽生選手をこう評していた。
容顔如玉(=容貌は玉のように美しく)
身姿如松(=姿は松のように優れ)
翩若驚鴻(=驚く大鳥のように飛び)
婉若遊龍(=龍のように優雅に舞う)
『中国企業家』の記事では、羽生結弦が冬季北京五輪では表彰台に届かなかったことを記述した上で、こう続けた。
メダルに届かなかったとしても、羽生結弦がフィギュアスケート界でもっとも輝くスターであることに何ら変わりはない。素晴らしい成績と巨大なファンたちとともに、羽生結弦が今後も経済的に成功することは想像に難くない。プロ転向後も市場価値は一段と増し、幅広い場所で理想を追い求めていくことができるだろう。大きな重荷を下ろし、羽生結弦の新たな人生が始まったのだ。
非常にポジティブな内容で、今後はさまざまな場面で経済的にも成功するだろうと太鼓判を押した。その上で、こう呼びかけた。
羽生結弦は自分自身を再定義し、我々は彼の新しい姿を見ることになるだろう。再見(=ツァイジェン/さようなら)、フィギュアスケート選手としての羽生結弦。你好(=ニーハオ/こんにちは)、氷上の表現者としての羽生結弦。
ファンの20代女性に話を聞くと…
中国のSNS「微博(ウェイボー)」でも、称賛の声があふれた。
羽生結弦の魅力はいつまでも変わらない。彼の精神力を見ていると頑張ろうと思う。
号泣した。羽生結弦の選んだ道をもちろん尊重したいけど、正直もったいないし残念という思いもある。これまでの苦労は並大抵ではなかっただろう。どうか幸せになって欲しい…。
またリンクの上で会いましょう。選手ではなくなったとしても、ファンとして全力で応援します。
また、2018年平昌五輪の時からファンだという江蘇省在住の20代女性に話を聞くと、こう語った。
ユヅくんの決断を、私もともに喜びたいと思います。競技だけがすべてではないし、羽生結弦の戦いは競技を離れても続いていくと思う。一人のプロスケーターの誕生を歓迎しています。
中国側が絶賛する「思惑」は?
日本同様、中国でも羽生結弦を悪く言う人がほとんどいないような状況のようだ。羽生結弦については中国外交部も好意的に言及した経緯があり、一時期の元卓球日本代表、福原愛さんを思わせるほどの人気ぶりと言える。
ただ、羽生結弦にアスリートとしての多大な功績や人格的な魅力があるとしても、これほどまでに持ち上げられるのは、少し不思議である。敢えてうがった見方をするなら、中国政府としては、羽生人気を日中関係の安定に役立てたいという思惑もあるのかもしれない。
米中対立がウクライナ危機が続くなか、中国は外交的に非常に難しい舵取りを強いられ続けている。今年は日中国交正常化50周年の節目であり、日本は西側陣営に属するとはいえ、だからこそ今は波風を立てず適度な友好ムードを維持しておきたいというのが、中国の本音なのではないか。ミュージシャンや俳優などに比べスポーツ選手が自国民に与える思想的な影響は限定的であり、ちょうど良いのだろう。
とはいえ、羽生結弦が日中間の平和的な架け橋となっていることは間違いない。今後、中国でどう見られていくのか、引き続き注目したい。