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ロバート・ダウニーJr.の実父が監督した往年のカルトムービーが日本上陸!! 映画『パトニー・スウォープ』を観る!!

 今回は日本で初めて公開される伝説のカルトムービー『パトニー・スウォープ』をご紹介しよう。この映画が注目されたのは、2016年ナショナル・フィルム・レジストリに選出されたからだ。

 ナショナル・フィルム・レジストリには『ブリット』(1968)や『フレンチ・コネクション』(1971)、『ブレードランナー』(1982)、『2001年宇宙の旅』(1968)等が並んでおり、そこに本作が加わった。そんな注目作をご紹介しよう!

文/渡辺麻紀、写真/RIPPLE V

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■ロバート・ダウニー(シニア)が監督したカルト作が日本初公開

多くのカルト映画を生み出したロバート・ダウニーが監督・脚本・プロデュースの『パトニー・スウォープ』が日本初公開される

 製作は1969年。監督・脚本・プロデュースは『アイアンマン』シリーズでお馴染みのロバート・ダウニーJr.の実父、ロバート・ダウニー。

 マーティン・スコセッシやジョージ・ルーカスらが率いるそれぞれのアメリカのフィルム・ファウンデーションが資金を提供しリストアされたことで話題になった正真正銘のカルトムービー『パトニー・スウォープ』が日本で初公開される。

 なぜカルトかというと、その内容がぶっ飛びまくっているから。タイトルは主人公の黒人男性の名前で、そんな彼がひょんなことからニューヨークのど真ん中にある広告会社の社長に就任したために起きる諸問題が、痛烈な社会批判や皮肉になっているからだ。

 そもそもこの時代、50年も前のアメリカで、イメージが命の広告会社の社長に黒人がなること自体が皮肉たっぷり。しかも彼が白人だらけだった社員を全員クビにして黒人に代えるというのも大胆。

 さらに、酒やタバコ、武器を模したオモチャの宣伝は絶対に受けないと宣言したせいで小人症の米国大統領に呼びだされ、国家安全保障上の脅威だと脅されたりもする。

 ところが、彼の手掛けたCMは奇抜で過激で意味不明でエロもたっぷりにもかかわらず、なぜか商品は大ヒット。手腕を発揮した彼に仕事を頼もうと、白人のビジネスエリートたちが群がるという展開になっている。

 そんなパトニー・スウォープが手掛けたCMのなかに車がある。「ボーマンシックス」という名前のその車は、大統領のアドバイザーでレイシストの男の会社のもので、大統領が直々にパトニーにCMを依頼。権力に抗い続ける彼は、これまた皮肉たっぷりのCMを作るのだ。

 本作、CMの部分だけがカラーになっていて、ボーマンシックスのその車は赤で白いラインが2本入っている。もちろん、ボーマンシックスなる車は実在せず、使用したのは1959年のフィアット1200グランドビュー・スパイダー。フロント部分に「BORMAN」のロゴをくっ付けていてるだけだ。

 太めの黒人女性がこの車の運転席に乗ったら横転するというトンデモなCMを作って、レイシストのクライアントに「こんなCMを流したら会社のほうが倒れる」と言わせている。

■大統領専用車は注目の「珍車」

1959年製クライスラー クラウン・インペリアル・リムジンの後部をバブルキャノピー化した珍車が大統領専用車として登場

 が、本作で注目すべき車はそれではない。パトニーに嫌がらせを続ける大統領の車が、何と言っても珍品なのである。

 ベースとなっているのは、1959年製のクライスラーのクラウン・インペリアル・リムジン。

 このロングホイールベース車をわざわざイタリアに送り、有名なボディデザインスタジオ、カロッツェリア・ギアにカスタマイズを依頼。後部座席の上に、取り外し可能なバブルキャノピーを付けたデザインに仕上げた、超レアなカスタマイズ・カーなのだ。

 実のところこのリムジン、1959年、英国のエリザベス2世のカナダでのロイヤルツアーに使用されたものだという。後部座席が透明のドームになっているので観衆は、おそらくエリザベス女王の手を振る姿が見られたのだと思う。本作では小人症の大統領が悪態をつく姿なのだが。

 また、このロイヤルカーのお値段は当時で5万ドル、2022年の物価で換算すると48万5000ドルなので、日本円でおよそ6500万円になる。2016年にはクウェートの博物館に陳列されていたと聞くが、今はどうなっているんだろうか。

 もう一台の高級車が、白人の男性を運転手に、カストロのようなコスチューム&葉巻のパトニーが乗り込む社長車。こちらは、1929年製のロールスロイス・ファントムIのセダンカブリオレで、とても美しい。

 そんな由緒正しき車が2台も、製作費25万ドル(現在の値段に換算するとおよそ190万ドルになり、かなりの低予算には違いない)の低予算カルトムービーになぜ登場したのかは、ミステリーなのだが……。

 もうひとつ、車ではないが気になる乗り物が冒頭に登場するヘリコプター。これはベル47J-2レンジャーなのだが、このモデルは米大統領が最初に使用したエグゼクティブなヘリ。もしかしたら、こういうさりげないチョイスにもダウニーの皮肉が隠されているのかもしれない。

●解説●

 ニューヨークの有名広告代理店の社長が会議の最中に急死した。次期社長となったのは投票で選ばれた黒人のパトニー・スウォープ。取締役の唯一の黒人だ。そんな彼はまず会社名を変え、社員を全員黒人に代え、CMも黒人中心に変える。それはなぜか大ヒットするが、そういう彼に米国の大統領、ミミオが目をつける。

 監督・脚本・製作のロバート・ダウニーは1960、1970年代のアンダーグラウンドで活躍した異端の映画人。2021年、85歳でこの世を去った。ハリウッドのトップスターになったロバート・ダウニーJr.は彼の息子で、5歳のときに父親の映画『Pound』(1970)で役者デビューを飾っている。

 ちなみにダウニーJr.は、ドラッグ問題で何度も逮捕されているが、その原因になったのは、8歳のときに父親からマリファナを与えられ常用していたからだとか。映画同様、ぶっ飛んだ父親だったようだ。

 日本で劇場公開されたダウニーの監督作はアリッサ・ミラノ主演の『ヒューゴ・プール』(1997)くらいだが、その手の映画好きには今でも人気が高く、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)等で知られるオスカーの常連監督ポール・トーマス・アンダーソンは、自作である『ブギ―ナイツ』(1997)や『マグノリア』(1999)等に彼を役者として出演させている。

 また、先日公開されたばかりの最新作『リコリス・ピザ』は、ダウニーに捧げているほどだ。

 本作が改めて注目を浴びることになったのは、2016年、ナショナル・フィルム・レジストリに選出されたから。これは米国の国立フィルム保存委員会が、半永久的な保存を推奨している作品リストのことで、名作や傑作、話題作が数多くアップされている。

 このコラムで紹介した『ブリット』(1968)、『フレンチ・コネクション』(1971)を始め『ブレードランナー』(1982)や『2001年宇宙の旅』(1968)等が並び、そこに本作も加わったことになる。

 復元したのはマーティン・スコセッシが設立したフィルム・ファンデーションとアカデミーフィルムアーカイブ。そこにジョージ・ルーカスも出資して、こうやって日本でも公開される運びになったのだ。

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『パトニー・スウォープ』
7月22日(金)渋谷ホワイトシネクイントにて公開

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