テスラの業績が依然として絶好調だ。4月には今年1~3月期の決算を発表し、売上高と純利益が過去最高を更新している。その売上高は前年同期比で81%増加し、187億5600万ドルにものぼった。また、純利益は7.6倍の33億1800万ドルとなり、売上高とともに四半期ベースで過去最高を更新したのだ。
新型コロナの感染拡大にもかかわらず、販売台数は7割増で過去最多の約31万台となっているという。イーロン・マスクCEOは、「1年あたりの成長率は今後数年50%を超えると確信している」と豪語したのだが、あのトヨタをはるかに上回る利益率の高さには舌を巻かされる。
果たしてテスラの強さの秘訣はどこにあるのか、多方面から筆者が分析した。
文/井元康一郎、写真/テスラ
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■トヨタ幹部をも驚愕させたテスラの利益率
2021年に前年比で2倍近くとなる93万6000台のバッテリー式電気自動車(BEV)を販売し、それに伴って「爆益」を出し始めたアメリカのテスラ。同年後半には自動車部門の営業利益率が15%弱に達し、さらに今年1~3月は実に19.2%をマークした。
「営業利益率が10%いけば上出来という自動車業界で2割近い利益率というのは驚くほかない。しかもその全量が、コストが高くロクに利益が出ないはずのBEVなのですから、本当に信じがたい。といってもそれはまぎれもなく現実なのですが……」
トヨタ自動車幹部のひとりはテスラの経営スコアに舌を巻いた。
ところが、絶好調であるはずのテスラ、足下ではこのところ急激な株価の下落に見舞われている。5月20日の終値は1株あたり669.3ドル(8万5670円、1ドル=128円換算。以下同)と、今年初めから44.7%も下がった。
アップル、アルファベット(グーグルの親会社)、マイクロソフト、アマゾンドットコムなど他のハイテク株もきつい下落を食っているが、テスラ株の暴落ぶりはそれらを上回り、フェイスブックあらためメタ・テクノロジーと並ぶ水準。
一度は時価総額1兆ドル(128兆円)クラブ入りを果たしていたものの、メタとともに仲よく陥落してしまった。
■BEV市場はテスラの独走状態
業績は好調、株価は下落。果たしてテスラの前途は明るいのか暗いのか。
まず、収益の基盤となる自動車ビジネス面だが、この点については相当強固なものがある。テスラは3年ほど前まで、BEV市場においてまさに一社独走状態にあった。ライバルモデルがなかったわけではなく、テスラしか売れていなかったのだ。
2020年には他メーカーも電動化に最適化させたBEV専用モデルを続々とデビューさせ、BEV市場は一気に過熱の様相を呈した。
以前からBEVの選択肢が増えるとテスラは特色が失われ、苦しい立場に置かれるという見方は少なからずあったが、冒頭で述べたようにテスラの勢いはまったく落ちなかった。
それどころか、中国の上海、ドイツのブランデンブルクと新工場を建てるたびに生産が増えた分がそのまま販売台数に乗るという状況が続いている。
■カタログスペックどおりの高性能
何がテスラの人気を下支えしているのか。
それはひとえに商品力の高さだ。テスラ車はラージクラスの「モデルS」からボトムエンドの「モデル3」まで、おしなべて高性能だ。
筆者は試しにモデル3の加速タイムをGPSで計測してみたことがあるが、静止状態から何のテクニックも使わずアクセルペダルをポンと踏み込むだけで、本当にほぼカタログスペックどおりのタイムが出せてしまうのだ。
0-100km/h加速の実測値はロングレンジという長航続距離版が4.2秒、高出力版のパフォーマンスが3.4秒だった。
速いのは動力性能だけではない。急速充電のスピードも第一級だった。テスラが配備しているテスラ車専用急速充電器、テスラスーパーチャージャーの最新版は最高出力が250kWと非常に高い。
それで実際に充電してみたところ、もちろんずっとではないが、きっちり250kWで受電した。その時の充電電圧がバッテリー定格電圧より少し高い360ボルトだとすると、実に約700アンペアもの電流が流れていることになる。
日本のCHAdeMO規格充電器も最高150kWという高速タイプが登場し、今後設置が始まる見込みだが、その電流は最大で350アンペア。テスラはその倍速なのである。充電できたのは8分あまりで26kWh。おとなしく走れば航続距離200kmぶんに相当する。
■先進的なインターフェースで未来感を演出
素晴らしい走りと高速充電、良好な乗り心地と高い静粛性、それに加えてステアリングスイッチとボイスコマンドを併用することでクルマの操作の大半ができてしまうという先進的なインターフェース。
自動運転はまだまだ生煮えな感ではあったが、テスラより安価な競合モデルが続々登場している今日においてもテスラがまったく失速せずにすんでいるのは、ひとえにこの驚異的な商品力の高さによるものと思われた。
テスラが初めての自社生産モデル「モデルS」を発売したのは2012年。その後大型SUVの「モデルX」を加えた。それらは今日ではほとんど販売されておらず、今日はモデル3や昨年生産が本格化した中型SUV「モデルY」と、より安価なモデルが販売の圧倒的主力だ。
実際、売上高を販売台数で割った平均単価も今年1~3月が5万5282ドル(707万円)と、以前より低くなっている。が、自動運転などのソフトウェアサブスクリプションを含んだ単価が下がっても冒頭で述べたように利益率は下がるどころか、むしろ急上昇している。
安価=儲からないという図式は現状、テスラには当てはまっていない。
■テスラ株は暴騰から適正価格へ
テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、モデル3よりもさらに廉価なコンパクトモデルを発売するつもりだと公言している。現在はモデル3、モデルYの生産が注文に追いつかない状況でその計画は延期されているが、一説ではそのモデルはアンダー3万ドルになるという。
もし、その価格を実践できて、なおかつ利益を充分に出せるのであれば、追い詰められるのはテスラ包囲網を敷いたはずのレガシー自動車メーカーのほうになろう。
このように、作れば作っただけ売れるという状況にありながら、テスラの株はなぜ暴落というべき下落局面にあるのか。
前提としてあるのはそもそもアメリカの株式市場がバブル状態にあり、いくら将来の成長性を折り込むという側面があったにしても時価総額1兆ドル超というのはさすがに過大評価もいいところだったということ。
株の指標のひとつに、現状の利益を何年積み重ねれば時価総額ぶんになるかという数値(PAR)があるが、テスラは暴落した今の時価総額でさえ、今の潤沢な利益を90年分積み重ねないと到達しない。一時は300年分以上という馬鹿げた数値になっていたこともある。
今くらいが成長期待を目いっぱい折り込んだ「適正」な過大評価とみていい。今回の株価下落はマスク氏がソーシャルメディアのTwitterを買収すると発表した後に下げ足を速めた感があったが、過熱を抑えるのにはちょうどよかったとみることもできる。
原材料の高騰や部品不足が自動車業界を直撃し、マスク氏も経営上の懸念材料として挙げているが、これは業界全体の問題であってテスラ一社が影響を被るわけではない。
また、このところテスラはさかんに価格改定を行っているが、顧客離れは起こっておらず、価格転嫁の耐性は自動車メーカーのなかでも高いことをあらためて証明した格好になっている。
■弱点は品質と顧客サポート
テスラの懸念材料は株価や原材料高騰以外にある。まずは品質と顧客サポート。上海やブランデンブルクなどの新鋭工場が稼働したことでテスラ車の品質は大きく向上しているとの評価が出始めているが、それでも既存の自動車メーカーに比べれば品質安定性はまだまだ低い。
顧客サポートが不親切というのも国を問わず顧客が品質とともに不満点として挙げるポイントだ。テスラは少々の不具合については電子機器業界のように「それは仕様です」で突っ張り通してきたきらいがある。
が、昨年に中国で顧客サービスの不備からバッシングが発生した時には実に素直に謝罪した。別に顧客のクレームに耳を貸さないというのが社是というわけではないのならば、中国以外の国でも変に格好をつけず顧客と誠実に向き合う姿勢に転換してもいいはずだ。
それができるかどうかは将来的にテスラのブランド力の維持拡大を左右する重要なファクターと言える。
■テスラの今後はイーロン・マスクCEO次第?
そして、テスラにとって思わぬ逆風として浮上しているのが「ESG」。
この耳慣れない言葉は近年のSDGs(持続可能な開発目標)の流れのなかで生まれたもので、企業を「環境」(Environment)、「社会」(Social)、「企業統治」(Governance)の三点を数値化し、売り上げや営業利益、借金や資産などといった従来の業績指標と同様に投資判断に使われるスコアである。
そんなもの環境以外は数値化不可能ではないかと思われるかもしれないが、欧米ではすでにこのスコアを折り込んだ投資銘柄の推奨が広がっており、格付け機関にとっては次の金儲けのネタになっている。
アメリカの株価指数のひとつにESGが優れている企業で構成される「S&P500 ESG」があるが、テスラはそこから「出禁」を食らった。
指数を決めるBEV100%メーカーとして環境面では高い評価に値するとされる半面、工場での人種差別問題(裁判所に提訴された段階で、実際にあったかどうかは確定していない)、自動運転システム使用中の事故に関するアメリカ運輸省の調査への対応のまずさなどが問題視されたと報じられている。
マスク氏はこれに「ESGは詐欺だ」などと反発。
ESGについて評価の恣意性が問題視されているのは事実で、それを内心面白く思っていない多くの人々の喝采を浴びているが、投資に社会正義を折り込むポーズを見せなければならないと考える投資家や投資顧問たちはテスラ株への投資にブレーキをかけることになるかもしれない。
どんなにテスラが優秀でも投資が集まらなければマスク氏が思い描くような成長は見込めなくなってしまう。
急成長を遂げる一方、課題も山積という感があるテスラ。どういうクルマを作るかという商品企画やどういうふうにクルマを作るかという生産技術など、本業の足腰の強さについては現時点で折り紙付きという感があるが、企業経営については希代の山師イーロン・マスク氏のセンス頼みという部分が大きい。
マスク氏の要らない強気が裏目に出たり、次の時代の嗅覚が鈍ったりしたにテスラがどういう局面を迎えることになるのか時は、まだ誰にもわからない。
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