今年4月に市販車が公開され、すでに予約注文を開始し、今秋からデリバリーが開始されるというマツダCX-60。新開発のラージと呼ばれるFRのアーティテクチャーを採用し、直6ディーゼルターボの搭載といった驚き、ワクワク感にあふれるモデルである。
また、CX-60はミドルSUVの上限近くとなるボディサイズを含めた車格や新開発された部分が非常に多いモデルながら、2.5L直4ガソリンで300万円を切る299万2000円~、3.3L直6ディーゼルターボは323万950円~という価格にも驚かされた。
といったことから、ここではライバル車と比べたCX-60のリーズナブルさや、価格から見えてきたCX-60のポジション、CX-60を見て感じる疑問や懸念を考えてみた。
文/永田恵一、写真/マツダ、ベストカー編集部
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■登場前に想定されたCX-60のポジション
マツダは2019年あたりから車種構成をスモールと呼ばれるプラットフォームを使うFF車と、ラージと呼ばれる直6エンジンも搭載するFR車に大別していくということを発表しており、CX-60はラージ第1弾となるSUVである。
ラージ車種群は「直6エンジン+FR」という点によるインパクトが大きいこともあり、「プレミアムカーであるメルセデスベンツCクラス、BMW3シリーズ、ボルボ60シリーズ級をターゲットにしたモデル」という憶測がひとり歩きのように拡大したのも事実だった。
そのため「価格は500万円程度から」と予想され、この点に対する賛否が多数あった。
しかし、フタを開けてみると「クルマ自体はプレミアムカーをもターゲットにしたモデルながら、価格はそうでもない」といった印象で、ここからはパワートレーンごとにCX-60の価格をライバル車と比較していく。
■CX-60の価格競争力は強烈だ!
●2.5ガソリン(188ps&25.0kgm+8速AT) ※以下カッコ内は4WD車
25S Sパッケージ/292万2000円(321万7500円)
25S Lパッケージ/341万5000円(364万1000円)
25Sエクスクルーシブモード/384万5000円(407万円)
CX-60の2.5Lガソリンでは「このクラスでは革シートなどこのくらいの装備が欲しい」と感じる25S Lパッケージに、セーフティクルーズパッケージ/5万5000円(自動ブレーキの強化など)、マイコックピットパッケージ/8万2500円(電動チルト&テレスコステアリング、フル液晶メーターなど)、TVチューナー/2万2000円といったメーカーオプションを加えた2WDでおおよそ360万円を基準に見ていくと、
・トヨタハリアー2LガソリンGレザーパッケージ/371万円
・レクサスNX250(2.5Lガソリン)/455万円
と、CX-60の2.5Lガソリンは排気量をはじめ、ハリアーというよりレクサスNX250に近い存在ながら、価格はハリアーよりも安い。
●3.3L直6ディーゼルターボ(231ps&51.0kgm+8速AT)
XD/323万9500円(346万5000円)
XD Sパッケージ/358万500円(380万600円)
XD Lパッケージ/400万4000円(422万9500円)
XDエクスクルーシブモード/443万3000円(465万8500円)
3.3L直6ディーゼルターボはライバル車との関係もあり、422万9500円となる4WDのLパッケージで見ていくと(XD Lパッケージだと装備内容は充実し、欲しいメーカーオプションはTVチューナーくらいだ)、
・メルセデスベンツGLC220d 4MATIC/731万円
・BMW X3 xDrive20d/733万円
・アウディQ5 40TDIクアトロアドバンスド/707万円
・ジャガーFペイスD204 AWD/770万円
・アルファロメオステルビオ2.2ディーゼルターボQ4 TI/680万円
と、CX-60 XD Lパッケージ4WDはディーゼルターボ+4WDのプレミアムSUVに対し、やはり250万円から300万円安い。
そのうえ名前を挙げた各モデルのディーゼルターボは2L級の4気筒であり、CX-60のディーゼルターボが3.3L直6という点は価格帯もあるが、趣味性も加味すると強烈なアドバンテージといえるだろう。
●3.3L直6ディーゼルターボ+マイルドハイブリッド(システム出力254ps&56.0kgm+8速AT、全グレード4WD)
XDハイブリッドエクスクルーシブスポーツ&エクスクルーシブモダン/505万4500円
XDハイブリッドプレミアムスポーツ&プレミアムモダン/547万2500円
3.3L直6ディーゼルターボにマイルドハイブリッドが加わるXDハイブリッド系は、純エンジン車となるXD系に対し、プラス50万円というイメージだ。
XDハイブリッド系はインテリアがホワイト系やタンカラーになるなど、より華のあるものとなり、マイルドハイブリッドにより動力性能と燃費がそれぞれ10%程度プラスになると思われるが、50万円という差額に対する解釈は分かれそうだ。
それでも直6ディーゼルターボを積む同クラスのSUVは920万円するBMW X3 M40d(4WDのマイルドハイブリッドでエンジンは340ps&71.4kgm)くらいしかない。
もちろん、スペック的な差は大きいが、そこを加味しても3.3L直6ディーゼルターボを積むCX-60は「1000万円近く出さないと買えない、6気筒のディーゼルターボを400万円台から500万円台で買える」という魅力はやはり強烈だ。
●2.5Lガソリン+PHEV(システム出力323ps&51.0kgm+8速ATで全グレード4WD、欧州仕様は約62kmのEV走行が可能)
PHEV Sパッケージ/539万円
PHEVハイブリッドエクスクルーシブスポーツ&エクスクルーシブモダン/584万6500円
PHEVハイブリッドプレミアムスポーツ&プレミアムモダン/626万4500円
PHEVは0-100km/h加速5.8秒と、CX-60の日本仕様では最速となる動力性能も備える。
装備内容を見るとPHEV Sパッケージはセーフティクルーズパッケージ/5万5000円、シースルービューパッケージ/9万3500円といった若干のメーカーオプションが欲しくなるのもあり、584万6500円のエクスクルーシブスポーツ&プレミアムモダンで見ていくと
・トヨタRAV4 PHVブラックトーン/539万円
・三菱アウトランダーP/532万700円
と日本車2台よりは高いものの、華のあるインテリアなどを加味すれば納得できる範囲だろう。
さらにレクサスNX450hを含めた、プレミアムブランドのプラグインハイブリッドと比べれば、
・レクサスNX450h/714万円
・メルセデスベンツGLC350e4MATIC/913万円
・BMW X3 xDrive30e/860万円
・ボルボXC60リチャージプラグインハイブリッドT6 AWDインスクリプションエクスプレッション/819万円
と、100万円単位で安い。
ここまでのライバル車に対する価格と、先日あったイベントでCX-60の話題になった際のマツダ関係者が漏らしていた「CX-60はCX-5からの乗り替えも想定したモデルです」という言葉を総合すると、筆者は現時点でのCX-60のポジションを「プレミアムカーを目指しながらも超リーズナブルなミドルSUV」と解釈している。
また、CX-60を過去の日本車で例えるなら1989年登場の初代セルシオが「日本では同時期に加わった同じV8エンジンを搭載したクラウンともクロスする455万~620万円という価格で、日本では3L直6エンジン搭載車で約800万円のベンツSクラスやBMW7シリーズに、静粛性の高さをはじめとした違った魅力を持ちながら挑んだ」という存在に近いものも感じる。
■CX-60に対する疑問、懸念
純エンジンの直6ディーゼルターボの価格をはじめ、特にクルマ好き視点だと魅力あふれるCX-60だが、疑問や懸念もいくつかあり、挙げていくと
1:CX-5との関係
CX-5とCX-60の価格を各々2.5Lガソリン、2.2L直4ディーゼルターボと3.3L直6ディーゼルターボLパッケージの2WD同士で見ると、
2.5Lガソリン……CX-5/320万1000円 CX-60/341万5000円
2.2Lディーゼルターボ……CX-5/352万 CX-60/400万4000円
と、CX-60は車格や多くの部分が新開発かつ、ディーゼルターボは6気筒なのを踏まえてCX-5を基準に考えたら、CX-60は2.5Lガソリン、2.2Lディーゼルターボともにあと50万円高くても妥当な価格だろう。
つまり、ここまで書いたようにCX-60は激安なだけでなく、CX-60を基準にしたら「CX-5が高い」という見方もできる。
CX-60はCX-5の後継車的な部分もあるようだが、しばらくはCX-5も継続されるようだ。
そうなるとCX-5はCX-60の激安価格もあり、今後CX-5はLパッケージのような豪華グレードはなくし、お買い得なスマートエディション(2.2Lディーゼルターボの2WDで299万7500円)、フィールドジャーニーやスポーツアピリアンスといった特別仕様車に装備内容や価格を見直したうえでグレードを整理し、「質実剛健でリーズナブルなミドルSUV」として売っていくのだろうか。
また、先々単純にCX-5を絶版にするというのも、CX-30とCX-60の車格が開きすぎるなどの懸念もある。
と考えると、マツダは北米でFFのスモールアーキテクチャーを使ったCX-50というSUVが人気となっているのもあり、CX-5の直接的な後継車として北米のCX-50を日本サイズにしたミドルSUVをCX-40かCX-50の車名で日本に導入するのかもしれない。
2:マツダとして収益は大丈夫なのか?
CX-60は新開発のFRプラットフォームの採用、トルクコンバーターを使わない8速ATや3.3L直6ディーゼルターボの搭載と、見るからに開発費や原価が高そうなモデルである。
さらに、3.3L直6ディーゼルターボも特に欧州のEVシフトや法規対応といったディーゼルに対する向かい風もあり、商品として「いつまで売れるのか、使えるのか?」という懸念も浮かぶ。
さらにそのわりには価格は激安と、収益をはじめとしたビジネス面に不安も感じる。
まず、3.3L直6ディーゼルターボ以外のビジネス面に関しては「CX-60はCX-5に対し、生産の際の工数が20%減っている」というニュースがあったように、「意外に開発費や原価が高くない」という何らかの秘密があるのかもしれない。
また、マツダのラージ系のモデルはすでに公表されているCX-60の3列シート版となるCX-80(CX-8の後継車的存在?)、CX-60とCX-80のボディサイズをより拡大した北米向けのCX-70とCX-90、未知数ながら現行マツダ6の後継車となるセダンやステーションワゴン(仮称マツダ60)? といったラージ系の展開による収益の確保も想定されているのだろう。
さらに、CX-60をはじめ価格自体も「様子を見ながら年々わずかずつ上げていく」という作戦なども考えられる。
3.3L直6ディーゼルターボの商品としての寿命に関しては、「マツダの3.3L直6ディーゼルターボは排気量のわりに出力をはじめとした絶対的なスペックが低い」ということが、長い商品的な寿命につながるかもしれない。
というのも今後欧州ではじまる「ユーロ7」と呼ばれる排ガス規制は非常に厳しく、ユーロ7が始まった時点で欧州メーカーは「ディーゼルを諦めるのでは」と言われている。
しかし、もしマツダの3.3L直6ディーゼルターボがマイルドハイブリッドによる燃費向上も含め、ユーロ7をクリアできる環境性能を備えているのであれば、ディーゼル車がなくなるなかでも欧州で販売可能となり、生き残れればいろいろな意味での好循環や展開が生まれ、ペイできるという計画なのかもしれない。
3:日本では1890mmという全幅が問題にならなければいいが……
CX-60、特に純ディーゼル車は価格を含め魅力あるスペック、高い商品力を持つだけに、実は筆者もかなり気になっている。しかし、CX-60には筆者の使用環境ではひとつだけクリアできないネックがある。それが1890mmという全幅だ。
というのも筆者は全幅1850mm以内というパレット式駐車場にクルマを止めており、「全幅1890mmのCX-60はアウトだから」という単純な話だ。
この点は前述した輸入車のミドルSUVも同じだが、CX-60は価格が激安なので関心のあるユーザーも多くいそうなのに加え、首都圏では筆者のような駐車環境のユーザーも少なくないのを考えると、「1890mmという全幅がCX-60を候補にしても買わない、買えない理由」にならないかちょっと心配だ。
■まとめ
後半にCX-60の懸念も書いたが、CX-60は特にクルマ好きには「乗ってみたい、興味ある」という新型車だけに、成功によりマツダが前向きな新しい展開を進められることを強く期待したい。
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