前戦、スーパーGT第3戦鈴鹿で発生したFCY(フルコースイエロー)時のアクシデントについて、GTアソシエイション(GTA)は鈴鹿戦での検証を重ね、次回の第4戦富士では運用の一部の変更を加えることが明らかになった。これまで何度か試行錯誤を繰り返してきたFCYの運用と今後の対策について、レースディレクター(RD)の服部尚貴氏、そしてGTAレース事業部の事業統括部長、沢目拓氏が取材に応えた。
前回の鈴鹿ではマシントラブルも含めてアクシデントの多いレースとなり、7人がGTAドライビングモラルハザード制度のペナルティを受けることになった。特に、鈴鹿で3度導入されることになったFCY導入時、そして解除時の接触やクラッシュが目立ち、MOTUL AUTECH Zの松田次生、Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTの大湯都史樹などが次回出場大会の際、公式練習の後半1時間の参加禁止、そして大湯に至っては決勝4グリッド降格が課せられることになる。
FCYの前後でのアクシデントの原因は服部RDによると「さまざまな要因がある」とのことで、鈴鹿に関しては一部のチームで使用機材の経年劣化による表示遅れや、一時的にチームとドライバーの無線がつながらないなどの事象が確認されたという。今回のように環境や機材が要因の場合もあるが、それを考慮しても一番大きな要因としはチーム、そしてドライバーによってFCYへの共通理解が十分に浸透していないことが挙げられる。
そもそもではあるが、FCYの導入、そして解除時は以下の3つの経路でドライバーに伝達が行われている。
・チームからの無線による10秒前からのカウントダウン
・車両内にモニターされている『Race Watch』システムによる10秒前カウントダウン
・ポストでの10秒前の『FCY』ボードの提示と、提示10秒後からのイエローフラッグの振動表示(導入時はグリーンフラッグ表示)
服部RDがチームに無線でカウントダウンを伝えるのと同時に、ポストの方でも、サーキット側の『服部RD』と同じような役割の管制室(RaceControl)のスタッフがカウントダウンを行い、全ポストが同時に『FCYボード』『イエローフラッグ』の掲示を行う手順が徹底されている。
このなかで誤解が生じやすいパターンが、ドライバーが、車両内のモニターを注視してカウントダウンに合わせるドライバーと、コースサイドのポストを見て判断するドライバーに別れてしまう場合だ。当然、クルマが接近している状態で1秒判断がズレれば、現在のスーパーGTの速度域では即アクシデントにつながりやすい。
「判断の基準はあくまでポストです。チームからの無線や、モニターのカウントダウンはあくまでインフォメーション(サポート)のひとつですから」と、服部RD。レース前のミーティング等で何度も伝えているそうだが、なかなかチーム、ドライバーに浸透しきれていないのが実情のようだ。
そこで次回の第4戦富士から、FCYのさらなる改善策として、GTAは運用面で下記の2点について変更と追加を行うことを決め、富士戦の監督ミーティング/ドライバーブリーフィングで伝達されることになる。
1)FCY導入時の10秒前のカウントダウン開始5秒前に、車両内のモニターにまもなくカウントダウンが開始されること予告するメッセージを発信してドライバーに周知
2)FCY解除時の『Race Watch』システムでの10秒前のモニター表示を廃止
1)の意図は、チーム無線や機器の不具合などを考慮して少しでも早くドライバーにFCYのタイミングを知らせることを目的としてのもの。『FCY』ボードの表示は10秒前からで変わらないが、5秒の時間があれば無線でつながりづらい場合などをカバーしやすくなる。
2)については、FCYの解除時のアクセルオンのタイミングを、ポストのグリーンフラッグに注視させる目的がある。ステアリングのモニターのカウントダウンではなく、あくまでグリーンフラッグを起点にドライバーに判断してもらうという狙いが込められている。
当然、日本の電波使用事情、そして予算と使用機器の関係などでF1やWEC、そしてインディのような海外カテゴリーと比べて環境的には厳しい部分があるが、FCYの導入によってレースの中断時間が減って、スムーズになった利点は大きい。服部RDも「本来ならアクシデントがあった際にSC(セーフティカー)がスパッと入るのがシンプルで運用しやすいけど、現状としてFCYはひとつのオプションとしてアリだと思う」と、手応えを感じている。
今後についてはGTA沢目部長が「GTAの服部RDから走行中のドライバー全員に一斉に(現在アナログ、デジタルなど3種類の無線機器の違いがあるなかで)すべての無線に介入できるシステムの導入を検討しています」と話すように、さらなる改善案も進行している。
無線システムのアップデート案は来シーズン以降になる見込みだが、まずは次回の富士戦で導入される2点の運用面での改善案でレースがどのような形になるか。次回の富士は450kmの長距離戦とはいえ、現在のスティントごとにスプリント化したGTではFCYの1秒の違いは勝敗を分ける分岐点にもなるだけに、レース中の動向に注目して見届けたい。