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 世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。

 そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。

 今回は、この度ついに生産終了が発表されたスーパーハイトワゴンの「ウェイク」。開発にあたってダイハツが背高軽カーに込めた狙いとは?

文/清水草一
写真/ダイハツ

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■「間違いなく売れる!」と確信した一台

 ダイハツは、軽乗用車最大の室内空間を誇る軽スーパーハイトワゴン「ウェイク」を、2022年8月11日をもって生産終了すると発表した。

 ウェイクの販売はすでに死に体。アトレーが好調に売れている今、いつ生産が終了してもおかしくない状況だった。2022年上半期(1~6月)の販売台数は6625台。つまり月に1000台強。この数字は、ダイハツの軽乗用車の中ではブービー賞(ブービーメーカーはコペン)で、「まったく売れてない」と言っても過言ではなかった。

 ウェイクという車名は、「タントの上を行く → うえいく → ウェイク」から名づけられた。

 タントという車名も「たんと積める」という語呂合わせから来ているが、タントは大成功して軽ハイトワゴンという新たな市場を切り開いたのと対照的に、ウェイクはその上をいけずに、一代限りで絶版となった。

 個人的には、ウェイクの失敗はいまだに大きな謎だ。いったいなぜウェイクは惨敗を喫したのか?

2014年にハイトワゴンのさらに上をいく”スーパーハイトワゴン”として誕生したダイハツ ウェイク

 今から8年前、初めて実物のウェイクと対面・試乗した時私は、「これは間違いなく売れる!」と思った。全高は1835mm。当時売れに売れていた先代タントより、約100mm高かった。

 そのぶん室内高も高く、軽乗用車最大を誇った(1455mm)。荷室に関しても、ラゲージアンダートランクに度肝を抜かれた。荷室の後端に、深さ320mmの「穴」が開いていて、ゴルフバッグを2本立てて積むことができるのだ!

 タントなどの軽ハイトワゴンは、究極のスペースユーティリティを誇っていたが、この空間(後輪より後方の下部)だけは使われていなかった。そこを活用して、背の高いものを立てて詰めるようにしたウェイクはスゲエ! と大いに感動した。

 ウェイクはルックスもイケていた。タントがいかにも子育てファミリー向けの、所帯感丸出しデザインだったのに対して、ウェイクはアウトドア志向の四角っぽいカタチ。スズキで言えばスペーシアギア的で、おっさんにすれば、「タントは動く託児所みたいで嫌だけど、これならイイ!」と思えた。

 タントやN-BOXを超える室内空間を持ち、見た目もイケてるウェイクは間違いなく売れる! 軽自動車販売台数のトップに立つかもしれない! くらいに思ったのである。

 当時は軽自動車のスペース競争真っ盛り。スズキのパレットは、ボディ断面を台形にしたためその競争に敗れ、タントやN-BOX同様、断面を長方形にしたスペーシアで巻き返しを図っていた。

 ウェイクが登場した2014年は、まだタントが軽自動車販売ナンバー1だった時期。王者ダイハツは、タントより背の高いウェイクでさらにライバルに先んじた! これでダイハツのブッチギリ確定だ! という印象だったのである。

■販売好調といかなかった原因は?

 ところが、このウェイクが大ハズレに終わったのだから、謎としか言いようがない。

 ウェイクの生産終了が決まったことで、ウェイク失敗の原因がいろいろ分析されている。それらを要約すると、この4つになる。

「背が高すぎた」
「ボディが重すぎた」
「乗り心地が悪すぎた」
「値段が高すぎた」

 どれもこれも、もっともらしく聞こえるが、合理的な説明にはなっていない。

 「背が高すぎた」と言うなら、初代タントですでに「あまりにもムダに背が高すぎる!」という印象だったが、そのムダな広々感がウケて、タントは軽ナンバー1の座にまで登りつめた。軽の広さ競争には限界はないように思えたのに、なぜウェイクが急に「背が高すぎた」になるのか?

 ダイハツ アトレーの全高は1890mm。ウェイクよりさらに55mm高いが、背が高すぎて売れないどころか、アウトドア志向のユーザーに大いにウケている。なぜウェイクはダメだったのか?

 ボディの重さも同様だ。ウェイクの重さはアトレーと同レベル。約1tという車両重量は、軽としては間違いなく重いが、重すぎるとも言えない。

軽自動車である以上、走りに多大な期待をしたユーザーは多くなかったはずだが……

 「乗り心地が悪すぎた」は、確かにそのとおりだ。当時のダイハツは横転防止対策として、軽ハイトワゴンのサスペンションを固め、ロールを抑えようとしていた。

 タントですら足が固くて乗り心地が悪かったのに、ウェイクはその上を行っており、個人的は「これは耐えられない!」と思ったほどである。しかし軽の売れ行きは、そういった専門家的な評価では決まらないのが常だ。「乗り心地が悪すぎたから売れなかった」というのは、後付けの理由のように思えてならない。

 「値段が高すぎた」に関しては、確かにタントより10万円ほど高かったが、それを言ったらタントだってムーヴより10万円くらい高い。値段が高くても、もっともっと広い室内を! というのが当時のユーザーの要望だったはずだ。

■次期型の軽自動車にどんな影響を与えるか?

 こうやって考えていくと、ウェイクの失敗は、やっぱり謎である。軽自動車の売れ行きは、「なんとなく」な雰囲気で決まる。そして一度火が付くと、「売れているクルマなら間違いない」と、さらにどんどん売れて行く。

 ウェイクに火が付かなかったのは、なんとなく「ここまでの広さは要らないかな」ということだったのだろうか? タントでも広さが足りない人は、最初からキャブオーバータイプ(エンジンが中央床下)のアトレーやエブリィに流れていて、ウェイクでは中途半端だったのだろうか。

荷室の床下(後輪後方)にはさらにスペースがあり、背の高い荷物も積載することができた

 とにもかくにも、ウェイクは、軽スーパーハイトワゴンという新たなジャンルを切り開こうとして失敗し、追随モデルもないまま消えた。しかし、軽自動車のスペース競争が終わったわけではない。車中泊ブームもあり、アトレーが乗用車的な使い方をされつつある今、軽ハイトワゴンの全高は、現在よりさらに高くなっていく予感がする。

 タント、N-BOX、スペーシアの次期型の全高が、ウェイクの1835mmと並び、いずれは超える可能性は十分ある。ダイハツのDNGAのような優れたシャシーがあれば、全高が高くても、ロールを適度に抑えつつ足をしなやかに動かし、乗り心地を確保することも可能になっている。つまりウェイクは、出るのが10年早すぎたのかもしれない。

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