伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ次世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得しており、14巻発売時点の現在で、ついに単行本累計発行部数350万部を突破している。
同作品に登場したクルマたちの世界観と魅力を読み解いていく本連載。第14回目となる今回は、MFGのことを揶揄する言葉「リッチマンズレギュレーション」を地でいくモデル、ラグジュアリーなハイパワークーペのメルセデスAMG GTについて紹介していこう。
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
■ラグジュアリーさと強烈なパワーを両立
メルセデスがポルシェ911を仮想ライバルとして開発したと言われるスーパースポーツクーペがAMG GTである。この「AMG」というのは、「メルセデスベンツ」傘下のサブブランドで、多くのメルセデスベンツ車にハイパフォーマンスモデルとしてAMG仕様が設定されている。
しかし、ほかのセダンやクーペモデルなどと違い、AMG GTは、メルセデスベンツ車にベースモデルのない、専用設計のAMGオリジナルマシンとして2014年に誕生した。
AMG車のコンセプトは「快適でいて、速い」といったもので、メルセデスらしい快適性をベースにしつつも、ほかの高級スポーツカーブランドに負けない走行性能を備えていることが特徴。
両者は共存しないようにも思えるが、AMGは1990年代からこれを具現化、商品化して、多くのファンを獲得。名実ともに、リッチマンの到達点というブランドイメージを確立してきた。
スタイリングは、往年の名レーシングカー・300SLのように精悍な雰囲気で、イメージカラーがシルバーなこともあって、その曲線美は、たくましくも、高品質にも見える。スタイリングの特徴でもあるロングノーズやワイドグリルは迫力があり、ある意味、メルセデスらしいオーラを放っている部分だ。ファミリーモデルとして、4ドアモデルやソフトトップのGTロードスターもラインナップされている。
外観から想像するに、キャビン(乗員スペース)はそれほど広くなさそうに見えるが、実際、適度にタイトな室内空間となっている。しかし内装各部にはメルセデスらしく高品質な素材が採用されており、ほかのスーパーカーに比べてラグジュアリーな雰囲気が溢れている。また、ドアを閉めてみると静粛性が高く、密閉感があって、安全性の高さを感じさせる。
その長いボンネット内に搭載されるエンジンは、4.0L V型8気筒ツインターボで500ps以上を発揮(マイナーチェンごとに強化されている)。このハイパワーエンジンに対して、トランスミッションは7速AMGスピードシフトDCTが組み合わされ、強大なパワー&トルクをFRレイアウトで受け止めている。
■ステアリングを握るのは前年度ベスト7に入る実力者
『MFゴースト』における初登場シーンは、第2話「思い出の写真」。ラウンド1「小田原パイクスピーク」の予選3日目で、MFG参戦車のなかでは、日産 GT-R、トヨタ 86に次ぐ3番目の登場となった。車種名は「AMG GT S(改)」となっており、「S」は、発売開始時に設定されていたスポーツ仕様である。
カーナンバー7の同モデルに乗るのは大谷洋介。MFG参戦3年目にして「ようやく勝負できる自信がついた」と語る23歳の青年だ。「まずは1勝……」というセリフから未勝利ドライバーであることがわかるが、前年度ランキング7位なのだから実力はそれなりのようだ。ここでは、予選走行1分前に発車した先行車(インプレッサWRX)にも追いつく姿が描かれている。
予選結果は4位と好順位につけたAMG GTだったが、決勝レースではその姿が登場することはほとんどなく、最終レース結果は5位。3位表彰台を獲得したフェラーリ488GTBに抜かれたことになる。
同じハイパワー系のスーパーカーであり、メルセデスがF1でもチャンピオン争いを繰り広げているフェラーリに抜かれるのは屈辱的な結果ともとれる。もちろん、『MFゴースト』のドライバーたちに、そういったブランド意識があるかといえばそうではないのだが。
ラウンド2「芦ノ湖GT」も予選3日に登場したAMG GT、しかし車種が「AMG GT R」に変更されている。これは2017年に日本導入された、GTのサーキット仕様。完全受注生産モデルとなっており、メルセデスは「公道走行可能なレーシングモデル」と謳っている。
MFGのレギュレーションでは、シーズン中、同メーカーのモデルであれば乗り換えていいことになっているため、この変更に問題はない。AMG ファンしか気づかないようにも思えるが、スペック的には大谷にとって大いなる力となる。
■「R」の投入で事態は好転したか!?
しかし、ラウンド2の予選結果は残念なことに9位。さらに決勝レースは、天候が雨となり、ハイパワーFRのAMG GT Rにとっては不利な状況となってしまう。
大谷自身、「せっかくのGT R投入も雨に降られちゃ、むしろ裏目だったな……そこいら中で、トラクションコントロールとスタビリティコントロールが介入してきやがる」と、電子デバイスの働きにより、自由にコントロールできなくなったことを嘆いている。
スタートしてすぐ、トヨタ 86にコーナーアウト側から追い抜かれるという屈辱を味わい、さらにレース後半は霧で視界が極端に悪くなるなど、最悪のコンディションでレースは全体的に大荒れの展開に。最終的には10位フィニッシュ。86だけでなく、アルファロメオ 4Cにさえ上へいかれてしまい、AMG GTR的には悔しさの残るレースとなった。
挽回を期するAMG GT Rは、ラウンド3「ザ・ペニンシェラ真鶴」へと臨む。ここは超低速セクションと超高速セクションを併せ持つ複雑なレイアウトで、抜きにくいため予選結果が重要となる。AMG GTRは予選2日目に出走したが、「目標タイムの基準が見えない」と、大谷は攻めあぐねてしまう。
予選結果はギリギリの15位でなんとか決勝レースへの切符を手にしたが、ポルシェ 718ケイマン、トヨタ 86、アルピーヌ A110が白熱のトップ争いをする熱いレース展開に絡むこともなく、決勝リザルトも15位に終わる。登場シーンもほぼなし。
奇しくも、F1では2022シーズンから苦戦を続けているメルセデス。2014年から8年連続コンストラクターズチャンピオンを獲得してきたが、2022年の年間優勝はすでに風前の灯状態。メルセデスファンの望む結果が出ていないなか、せめてMFGでは活躍する姿を見たいと思っているのは、AMG GTのオーナーだけではないだろう。
■掲載巻と最新刊情報
投稿 レーシングマシンの技術満載! メルセデスベンツの本気がMFGに上陸!! 『MFゴースト』を彩る名車列伝14 メルセデスAMG GT 編 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。