まもなくフルモデルチェンジされる見込みのダイハツ ムーヴキャンバス。ハイトワゴンのムーヴにスライドドアを採用し、かわいらしい見た目から堅調に売れ続けているモデルだ。
タントやN-BOXほどのサイズはいらないけど……スライドドアは絶対欲しい! というニーズをうまく汲み取ったことがウケ、ワゴンRスマイルというライバルも登場するほど。こちらも大人気となっており、この市場はひそかな盛り上がりを見せているのだ。
そうムーヴキャンバスは新たな市場を開拓した歴史的なクルマなのだった! 一体なぜ成功し、この市場は今後どうなる!?
文/青山尚暉、写真/DAIHATSU
【画像ギャラリー】ん、変わった!? 新型ムーヴキャンバスは衝撃の姿だった(16枚)画像ギャラリー
■絶妙なサイズがキモ! ライバル車が追従するほどニーズがあったのだ
2016年9月に発売されたダイハツ ムーヴキャンバスは、もとを辿れば2015年10月の東京モーターショーに参考出品されたダイハツのコンセプトカー「HINATA」の市販版である。
デザインや女性が嬉しい実用装備満載の“CAN=できるミニバス”がコンセプトの軽自動車であり、エクステリアは往年のVWバス タイプ2 T1をイメージしたことは間違いない。
そして何と言ってもタントとムーヴの中間サイズのボディに両側スライドドアを備えた、それまであるようでなかったセミハイトユーティリティモデルとして新鮮だった。
現在のラインアップからすれば、全高はムーヴの1630mm、タントの1755mmに対して1655mmと、背の高すぎるスーパーハイト系軽自動車に抵抗があるユーザー待望の両側スライドドアを備えた軽自動車でもあったのだ。
後に(というか、ずいぶん遅れて)、スズキがワゴンRスマイルという同種のモデルを追従させたことからも、その存在意義、人気ぶりが分かるというものだろう。
■ワーゲンバスが小さくなって帰ってきた!? かわいい見た目も人気を後押し
一方でタント、N BOX、スペーシアといった、街に溢れかえっているスーパーハイト系軽自動車とは違う、ちょっとニッチでオシャレな選択肢というところも、VWバス感ある個性を増幅し、静かな人気を得た理由と考えられる。
もちろんムーヴキャンバス最大のヒットの要因のひとつが、ストライプカラーと呼ばれる、ルーフ、ボンネット、フロントグリル、ショルダーライン、ボディ下部を白く塗り分けた、VWバスを彷彿させるシンプルでありながら映えるエクステリアデザインにあったと確信している。
■運転に不慣れでもラク! ターボなしも走行性能は申し分なし
発売当時を振り返れば、20代後半から30代前半の女性がターゲット、街乗りベストなパフォーマンスに割り切ったことから、エンジンは660ccのNAのみ。ターボは用意されなかったのも、ムーヴ・キャンバスらしさと言っていい。
開発側からすればNAのみに絞ったため、走行性能をまとめ上げるのもシンプルで、ターボがあるより(タイヤサイズが異なるとさらに大変)、いい意味ではるかに楽だったはずである。
では、NAのみのエンジン、街乗りメイン、女性がターゲットだから、走りは二の次、三の次のクルマだったかと言えば、そんなことはない。
全高、重心はタントよりずっと低く、足回りは軽自動車の中でもピカイチ(当時)の最新のムーヴから移植したものなのだから、両側スライドドアを備えた軽自動車としては、安定感、安心感は文句なし。カーブを曲がるのは不安……といった女性ユーザーにうってつけの走行性能を備えていたというわけだ。
■ヴォクシー並の後席スペースを確保! ソファー級の座り心地も見事
実際、運転席に着座すれば、たっぷりとしたシートサイズ(特に座面長)、ソファ感覚のかけ心地。すっきりとした横基調のインパネデザインによるパノラミックな視界から、誰もがデザイン性だけでなく、居心地の良さ、運転のしやすさを実感できたはずである。
そして、スライドドアが子育て世代にうれしいのは当然として、スライドドアならではの抜群の乗降性の良さ(スライドドア開口部は高さ1110mm、幅590mm。ステップ高370mm)で乗り込むことになる後席は、身長172cmの運転ポジション背後で頭上に130mmはともかく、膝周りになんと最大350mm(後席240mmのスライド位置による。最小90mm)を確保。
ノア/ヴォクシーなどのMクラスボックス型ミニバン並みの広大なスペースがあり、家族やお友達を後席に招き入れれば、その広さに感動必至。明るく解放感溢れる前後席の居住性によって、まるでガラス張りのオシャレなカフェスペースの窓際ソファ席にいるまま移動しているかのような感覚にさえなれるのである。
■トータルコーデが秀逸! ダサさがないのもウケた要因
郊外のオシャレな住宅街に住むファミリーは、アウトドアやガーデニングの趣味を持っているケースも多いはずだが、ラゲッジスペースはムーヴとタントの中間的全高、ボックス型ボディを生かし、開口幅900~1060mm、開口高875mm、フロア奥行き330~580mm(後席スライド位置による)、幅885mm、天井高875mmと広大。
後席を格納すれば奥行きは1110mmに達し、アウトドアのためのグッズ、そしてガーデニング用に買った荷物を積み込むにも最適なスペースを備えているのである。
ラゲッジフロアのボードを外せば、観葉植物などが積める天井高が得られるのも使いやすさのひとつである。また、ラゲッジルームの開口部地上高がステーションワゴン並みの地上650mmに設定され、女性の手による荷物の出し入れ性の配慮も嬉しいところだろう。
細かいことを言えば、インテリアのマイルームのようなデザイン、カラーリング、女性の使い勝手を研究したであろう運転席周りの収納の豊富さなども、おそらくダイハツの女性開発陣が徹底的に考え抜いたポイントであるはずで、クルマの”機械感”皆無の室内空間と相まって、女性ユーザーの心をグイッと掴んだことは間違いない。
世の中にはエクステリアとインテリアのコンセプトが合致していない不思議な(!?)クルマも少なくないのだが、ムーヴ・キャンバスの場合、エクステリア、インテリアのコンセプト、センスが見事に合致しているのである。
■新型ムーヴキャンバスはさらに人気拡大の予感! 先進安全装備も大幅向上へ
では、ムーヴ・キャンバスの走りっぷりはどうなのか。アクセルをそっと踏み込めば、スッと滑らかに静かに走り出す。エンジンは2000回転後半からトルクが立ち上がり、低中速域での細腕女性でも扱いやすいパワーステアリングの軽さもあって、日常域の走りやすさ、柔軟性に寄り添った動力性能である。
乗り心地は快適感としっかり感をちょうど良くバランスさせたタッチに仕上げられている。段差を超えても安っぽいショック、音、振動はほぼなく、首都高速道路を走っても、速度を増せばパワーステアリングの操舵感は適度に引き締まり、直進性、カーブでの安定感、安心感はなかなかのもの。
エンジンを高回転まで回しても不快なノイズが車内に充満せず、速度域を問わず、爽快な運転感覚、ドライブが楽しめる点も商品性を高めた要因と言っていいだろう。
ただし、ストライプスじゃないほうのモノトーンボディになると、いきなり地味、VWバス感が一気に失せる。もし、ストライプスの設定がなかったら、ここまでの静かなヒット作になっていなかったと想像する。
6月末に発売が予定されているDNGAプラットフォームを用いた新型にも、もちろんストライプスを引き継ぐボディカラーがあるはずだが、モノトーンボディの魅力アップにも期待したいところである。
なお、新型ムーヴ・キャンバスには最新の先進運転支援機能=スマアシが搭載されるだけでなく、ついにターボモデルも加わるというから、ユーザー層(ニッチ人気)が一気に拡大すると予測できる。
【画像ギャラリー】ん、変わった!? 新型ムーヴキャンバスは衝撃の姿だった(16枚)画像ギャラリー
投稿 ムーヴキャンバスは革命児!? 残した功績がデカすぎた は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。