トヨタ自動車は2023年1月から2029年度末まで、総勢約580台のFCEV(燃料電池車)とBEV(バッテリーEV)のトラック・軽バンなどを、福島県、東京都などで運行する社会実装実験を行なうと発表した。
この社会実装実験では、トヨタとともにいすゞ自動車、日野自動車が小型FCEVトラックを、スズキ、ダイハツ工業が軽BEV商用バンを、それぞれ共同開発、新たに構築される電動車用エネルギーマネジメントシステムを活用しながら、営業運行に投入することになっている。
これらの共同開発車とエネルギーマネジメントシステム、社会実装実験について紹介しよう。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/トヨタ自動車、根本通商、「フルロード」編集部
トヨタ主導で商用車メーカー4社も参画
これは7月19日にトヨタが発表したもので、電動車の共同開発については、商用車版CASE(コネクティッド・自動化・シェアリング・電動化)の実現をめざす合弁会社・コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPC)に出資する国産商用車メーカー4社(いすゞ、日野、スズキ、ダイハツ)からも同時に発表された。
社会実装実験は、2023年1月~2029年度末までを予定しており、計33の自治体・企業・研究機関が参画パートナーとして参加、実際の営業運行とインフラ支援が行なわれる。実験は福島県と東京都で行なわれるが、幹線輸送では東北-関東-関西を結ぶルートも運行する。
つまりトヨタ主導で、国産商用車メーカー4社ほか参画パートナーがFCEV商用車・BEV商用車の実用化に向けて取り組むもので、計画通りに実験が進めば、より電動車時代が近づくことになるだろう。
いすゞ、トヨタ、日野がFCEVを共同開発!
小型FCEVトラックは、CJPTが企画し、いすゞ、トヨタ、日野との4社で共同開発を行なうクルマだ。国内トラックメーカーのツートップである日野といすゞの技術に、トヨタのFC技術を組み合わせて、小型トラックに求められる性能と条件を追及する。まさにドリームマッチのような小型FCEVトラックである。
現在公開されている写真は、小型トラックの定番であるいすゞの「エルフ」ベースだが、FCシステムはもちろんトヨタ、そして日野はトラックの電動化技術・制御技術でリードしているので、「中身」の開発を担当している可能性がある。
福島・東京での社会実装では、小型トラックが活躍しているスーパーマーケットやコンビニエンスストアへの商品配送業務に投入されるため、断熱バンボディと冷凍ユニットを架装して、1日あたり複数回の配送運行を行なうことになる。
これは、「冷凍ユニットで荷室内を一定温度で維持しながら、配送ルートを走りまわること」を意味する。つまり、長時間・長距離で走行以外にもパワートレインに負荷がかかる上に、燃料補給も短時間で済まさなければならないなど、意外にハードな運行条件といえる。
FCEVは、走行時はもちろん停車時の冷凍ユニット駆動時もCO2排出がゼロ、燃料となる水素はエネルギー密度が高く航続距離を確保しやすいので、ディーゼル車が活躍中のこの用途に最適と考えられているのだ。
実質オールジャパン開発の軽BEVバン
軽BEVバンは、CJPTが同様に企画し、スズキ、ダイハツ、トヨタが共同開発するクルマだ。軽商用車は、国産メーカーではスズキ、ダイハツのみ開発・生産しているので、事実上「オールジャパン体制」での取り組みといえる。
軽BEVバンでは、軽自動車メーカーのこちらもツートップであるスズキ、ダイハツが築いてきた小型車技術に、トヨタの電動化技術を組み合わせ、軽商用車に最適なBEVシステムを共同開発する。
あくまで推測だが、車両ではなく「BEVシステム」という言葉を用いているので、既存の軽商用車をBEV化するためのバッテリー電動パワートレインを開発するのかもしれない。
全商用車保有台数の約60%を占める軽商用車は、電動化によるCO2排出削減効果も大きい。しかしBEV化は、車両価格のアップに加えて、充電用設備のコスト負担や長い充電時間など、導入・運用での重い負担が課題だ。そのため、BEVシステムの共同開発では、ユーザーの使い方への対応と価格の抑制を図るという。
イメージ写真は未発表だが、発表原文の「ラストワンマイル配送(戸口配送に相当する物流領域)を支える商用バン」という業務には現在、スズキの「エブリイ」、ダイハツの「ハイゼットカーゴ」などの軽ワンボックス車が用いられている。福島・東京での社会実装でも、ラストワンマイル配送で導入される予定だ。
FCEV・BEV専用EMSも新開発
小型FCEVトラック、軽BEVバンの社会実装では、電動車というハードウェアとともに、新たに構築した「エネルギーマネジメントシステム」も導入される。
この「エネルギーマネジメントシステム」(EMS)は、水素スタンドが限られるFCEV、同じく充電スタンドが限られかつ航続距離が短いBEV、さらに充電施設がある事業所での電力使用ピークの偏りなど、実際の運行時で顕在化する課題に対応するものだ。
すでに物流業界では、IT(いまや少し古い表現だが)によって運行ルートの最適化や集荷・配送を効率化し、「運行三費」の最大要因である燃料費用を節約するため、様々な「運行管理システム」が使われている。
新たに構築するEMSには、FCEVの水素残量あるいはBEVのバッテリー充電率などから、補充填または補充電のタイミングや配送計画を、運行管理データと連携させて最適化する機能が備えられる。
また、荷主や物流事業者の配送計画や事業所の電力利用を考慮して、電動車に対する施設内充電および経路充電のタイミング、その充電量の最適化などで、使用電力のピークを均すようなシステムも構築されるという。電力不足が現実となっている今、BEVをフリート運用する上で見逃せないところだ。
今回の社会実装では、小型FCEVトラック、軽BEVバンだけではなく、トヨタ・日野が共同開発した大型FCEVトラック、さらに小型BEVトラックも投入され、幹線輸送からコンビニ配送、ラストワンマイル配送まで行なう計画だ。そのためEMSの機能も、様々な物流の領域で確かめられることになるだろう。
福島で60台の小型FCEVトラックを運行
福島県とトヨタでは、一年前の21年6月に「水素を活用した未来のまちづくりに向けた検討を開始」のタイトルで、社会実装に向けたリリースが先行して発表されているが、今回の発表では、いわき市と郡山市で約60台の小型FCEVトラックを運行することが明らかにされ、大型FCEVトラックも運行予定という。
いわき市と郡山市では、前述のEMS、特にFCEV用のEMSも構築される。大量のFCEV運行に対応するため、域内に設置される水素ステーションの使用状況から、ステーション内での最適な配置やオペレーションの条件を提示する機能が備えられる。これは、ステーション内での充填待ち渋滞の回避と、FCEVがステーションへ移動する時間を最小化するものという。
2030年代は、FCEVやBEVが本格的にクルマの主役になるといわれている。社会実装は、その有用性と課題の洗い出し、解決のためのノウハウを「実戦」から蓄積していく場となる。それは自動車の歴史のダイナミズムを、じかに目にする機会にもなるかもしれない。
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