中国の広東省深圳(しんせん)市に本拠を置く大手自動車メーカー、BYDの日本法人である「ビーワイディージャパン」(本社・神奈川県横浜市、劉学亮代表取締役社長)が7月21日、日本での乗用車販売に正式に乗り出すことを発表した。
ビーワイディーオートジャパンは、日本国内での販売を担当する子会社としてビーワイディーオートジャパン(本社・神奈川県横浜市)を今年7月4日付けで設立。来年1月からまずはミドルSUVのEV、ATTO3を発売し、残り2台のコンパクトとセダンのEVを来年中に発売する予定だという。
記者会見が行われた会場周辺ではナンバーを付けたATTO3の簡易公道試乗会が開催された。さっそく参加してきたのでレポートしよう。
文/ベストカーWeb編集部・渡邊龍生、写真/平野 学
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■2025年までに全国100店舗のディーラー展開を目指すという本気度
BYDが日本での販売に関して、かなりの力を入れているのが窺えたのが国内販売網の構築だ。それというのも2025年をメドに全国各地に100店舗のディーラーを展開することを表明したからだが、韓国のヒョンデがNEXOとアイオニック5を日本ではオンライン販売のみとしているのとは対照的。
ちなみに、この100という店舗数、インポーターではメルセデスベンツ日本とほぼ同じ数というからその本気度がわかるというもの。
そもそもBYDはバッテリー技術者だった王伝福氏が1995年にバッテリーメーカーとして中国で創業。2003年に自動車業界に参入し、瞬く間に成長を重ねて現在はITエレクトロニクス、新エネルギー、都市モビリティ、そして自動車と4つの事業分野を持つに至っている。吉利汽車や長城汽車と並んで、EVとPHEVでは大手自動車メーカーとして存在感を放ち、従業員29万人以上を抱えるほどだ。
中国市場でのNEV(新エネルギー車)の販売でBYDは9年連続でナンバーワンとなっており、世界70カ国以上、400超の都市で同社のNEV(BEV+PHEV)が走っているのだという。今年1~6月には前年同期比3倍を超える約64万台のNEVを販売しており、BEVで世界ナンバーワンのテスラを猛追している。
同社は日本とのかかわりも深く、日本法人の日本ビーワイディージャパンが設立されたのが2005年。日本国内で2010年に自動車用プレス金型大手メーカー、オギハラの館林工場を買収。日本の技術者がボディ金型を手がけており、高精度の金型を作り上げている。
2015年には中国自動車メーカーとして初となるEVバスを京都急行バスに納入し、現在までに65台が日本国内を走行しており、そのシェアは7割にのぼるという。
今回、日本の乗用車市場参入に当たってビーワイディーオートジャパンが今年7月4日に設立されたのだが、同社代表取締役社長を務めるのがもともと三菱自動車で海外事業を担当し、VWグループジャパン販売社長を務めた東福寺厚樹氏。そのネットワーク開発経験を買われ、同社代表取締役社長にヘッドハンティングされたそうだ。
■2023年中に3車種のEV発売を表明
日本導入に際し、ビーワイディージャパンが発売予定だとして公開した車種は3台。ミドルSUVのATTO3が来年1月、コンパクトカーのDOLPHINが来年中頃、セダンのSEALが来年下半期の予定だという。
まず、SUVのATTO3だが、今年2月に中国本国での販売を開始し、シンガポールやオーストラリアでも販売されている。そのボディサイズは全長4455×全幅1875×全高1615mm、ホイールベース2720mm。カローラクロスなどとほぼ同じCセグSUVカテゴリーに入り、日本導入最初のモデルとしては売れセンのモデルを選んだといっていいだろう。
駆動方式はFFでバッテリー容量は58.56kWh、車重は1750kg。モーターは204ps/31.6kgmで、気になる航続距離は自社算出値でWLTC485kmというから充分なものだ。今回、このATTO3に記者会見が開かれた東京・有明の一般道で20分ほど試乗できたので、その印象をお伝えしたい。
■いざ、右ハンドル仕様のATTO3に試乗!
まず、ATTO3に乗り込む際に驚かされたのがドアを閉めた時の音。バン! という上質感のあるもので、欧州車やヒョンデのアイオニック5にも負けていない感じだった。実際、ドア内側のエッジ部分に溶接によるしわがほとんどないなど、ボディの高精度さは想像以上だった。
なお、試乗車はオーストラリア仕様となり、右ハンドル、右ウインカーレバーに変更されていた。わざわざこの仕様にするためには金型を起こす必要があるため、コストがかかるのだが、このあたりからもビーワイディーオートジャパンの本気度がわかるというもの。
ATTO3の走行モードはエコ、スタンダード、スポーツの3種類が設定されており、回生ブレーキの強弱「Larger」と「Standard」を選択できる。インテリアのデザインなどはスポーツジムからヒントを得ているとのこと。
担当自身、よくスポーツジムには行くのだが、確かにエアコンの吹き出し口の形状やドアパネルに設けられたドアポケットにあるギターの弦のようなバンドなどは遊び心があってユニークさを感じさせる。
試乗路ではまず、エコモードからドライブ。一般道を走るぶんにはこのモードで充分交通の流れをリードでき、非常にスムーズで静粛性の高い走りを披露。モードをスポーツに切り替えて、信号からのスタート時にアクセルを踏み込むと、強力なモーターを積んだEV特有の力強さを体感できた。
また、センターディスプレイはかなり大型のタイプのものが設定されている。で、またまた驚かされたのは横置きだったディスプレイが切り替えスイッチのボタンを押すだけで、縦型モニターのバーチカルディスプレイに切り替わることだ。
このギミック、今までどのメーカーのクルマも実現できていなかっただけに興味深い。ディスプレイの横と縦の切り替えを制御するメカの部分にかなりコストがかかっているのは間違いなく、その耐久性が気になるところだが、個人的には興味を惹かれた装備だった。
シートの出来もなかなかのもので、運転席と助手席に乗ってみたのだが、その乗り心地も静かで上質。20分ほどの試乗はあっという間に終了となったのだが、正直なところ「これってホントに中国車だったっけ!?」と思わされた。日本車も頑張らないと、こりゃヤバいかも……。
日本での販売価格については現時点でいっさい発表されていないが、オーストラリア現地でのロングレンジグレードの価格が約450万円。このままの価格で国内でも発売されるどうかは未定だが、アイオニック5ともバッティングする価格となりそう。
■コンパクトのDOLPHINは来年中頃に発売
続いて日本で発売される2モデルについても紹介しておきたい。来年中頃の発売を予定しているのがコンパクトカーのDOLPHIN。文字どおり、イルカをモチーフとしている5ドアハッチバックのコンパクトだ。
ボディサイズは全長4290×全幅1770×全高1550mmで、ホイールベースは2700mm。Bセグのノートよりやや大きく、Cセグのカローラスポーツよりやや小さいといった感じだ。海洋生物のイルカをイメージしたデザインが外観と内装の随所に盛り込まれている。
駆動方式はATTO3と同じくFFで、モーター出力はスタンダードが95ps、ハイグレードが205ps。航続距離はWLTC自社算出値でスタンダードが386km、ハイグレードが471km。バッテリー容量はスタンダードが44.9kWh、ハイグレードが58.56kWhとなっている。
中国本国では昨年8月から発売されてすでにかなりの人気車となっているとのことだ。こちらも価格はまだ未公表だが、中国国内での価格はスタンダードが約230万円だが、日本国内では200万円台後半くらいで、ハイグレードは300万台半ばになると予想。
■まるでポルシェを思わせるスタイリッシュな外観のSEALは来年下半期発売
最後がセダンモデルとなるSEAL。先ほどのDOLPHINと同様に海洋生物であるアザラシをモチーフにしたセダンで、今年5月にBYDが発表したばかりの最新モデルとなる。
そのボディサイズは全長4800×全幅1875×全高1460mmで、ホイールベースは2920mm、ポルシェのEV、タイカンよりもやや小ぶりなサイズとなる。こちらもスタンダード、ハイグレードの2グレード設定となるが、スタンダードの駆動方式がFRなのに対し、ハイグレードではAWDを採用している。
モーター出力はスタンダードが313㎰、ハイグレードがフロント218ps/リア313psとなり、バッテリー容量は82.56kWhで、航続距離は欧州WLTC自社算出値で555kmに達するという。
中国国内での価格はスタンダードが500万円前半、ハイグレードが500万円後半というから、日本での販売価格は600万円を超える可能性が高そうだ。
■強みは自社開発のブレードバッテリー
この3台、いずれもBYDのEV専用プラットフォームである「e-Platform 3.0」を採用しており、BYDがバッテリーを自前で用意できる強みを生かした独自の「ブレードバッテリー」を採用しているのが注目ポイント。
なお、保証についてはクルマそのものが4年10万㎞、バッテリーが8年15万kmだという。今年11月頃にはATTO3の価格が決まるとのことだが、日本国内でのEVの選択肢が増えてユーザーが「中国メーカーのEV」に果たしてどのような判断を下すのか、今後の動向に注目したいところだ。
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