大型トラックのタイヤ脱輪事故だが、残念ながらなくなるどころか減少していない。2019年4月〜2020年3月の一年間に車輪脱落事故は112件起きている。これは3日に1件というペースだ。
このところ脱輪事故の多発で原因追求、検証が各方面で行なわれているが「これ!」といった原因や証拠は掴めておらず、ようやく実態と対策ができあがりつつあるのが現状だ。
トラック・バス専門の現役タイヤマンのハマダユキオ氏に脱輪事故の原因と対策を検証してもらった。
文/現役タイヤマン・ハマダユキオ
写真/ハマダユキオ&フルロード編集部
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■なかなか減らない脱輪事故を防ぐために重視すべき「軸力」とは?
まずは脱輪事故の発生件数ですが、2011年から2020年の調査では11件から113件と約10倍になっています。続いて発生時期は冬場11月から2月、特に12月は多い傾向にあります。
では車両のどの部分で脱輪件数が多いか? これは左の後輪で、95%に及びます。発生推定要因としては、作業不備が全体の42%、残りが増し締め点検不備となっています。
そこで国交省が緊急対策の中でリリースした「自社整備等で社内でタイヤ交換作業を行なう場合は正しい知識を有した者に実施させる」という対策が脱輪事故撲滅のカギになると思います。
平成19年4月より大型トラックのホイールナットを締め付ける際にはトルク管理ツールを用いて規定トルクで締め付けることが明記されました。これによりトルク管理ツールで規定トルクで締め付けるようになったのですが、規定トルクで締め付けさえすればOKというワケではいかないケースもあります。
ここで重要なのは「軸力」です。軸力は締め付けの際にボルトがわずかに伸び、バネのように伸びた分縮まろうとする力を利用して対象物を締結する力です。
この軸力の測定は少々難があるため、実際のあらゆる現場では作業の効率性からナットを締め付ける力の比較的測定が容易なトルクを測定し、締め付ける力として作業を実施しています。
多くのトルク管理ツールは、セットした規定値に達すると力を逃し、それ以上締め付けしないような構造になっています。ただ、ナットに掛かる力を測定しているため、この既定値に達する際のトルク値には締め付けの力とネジの抵抗も含まれます。
この締め付けの際の抵抗が大きくなれば、規定トルク値が抵抗値に喰われ、軸力が低下する可能性が高くなる傾向になります。軸力の不足や低下は緩みの原因となり、ナットの脱落へと進行してしまいます。
そのためにもボルトナットのサビや汚れを除去し、軸力安定剤(油分塗布無しの指定車種も有り)のような油分を塗布して締め付ければ、目標の規定トルク値に近づけ、軸力も安定するようになります。
■JISとISOホイールの取り付け方式の違い
現在大型トラック、バスに関して車両へのホイールの取り付け方式は2種類あります。それはJISとISO。4トン以下の車両は現在でも新型はJIS方式ですが、大型はISOに切り替わっております。JISとISOの違いですが、大まかにボルト(ナット)の数、大きさ、形、そしてネジの締まる回転の向きです。
ISOはナットが8個から10個(大型22.5インチ)になり、大きさは41mmから33(32)mm、ホイールとナットの接点(座面)が斜めのテーパーから平座面、そしてすべて右ネジになリます。
リアの締結方法は、JISでは内側はインナーナットで締め付け、外側はアウターナットを使用し締め付けするのに対し、ISOは2本のタイヤを纏めて1種類のナットで締結します。
ISO方式の利点としては、締め付けが単純で整備性がよいことがあげられます。それに伴い点検が容易、ナットが右ネジだけなので製造コストや在庫の数が少なくなる、といったところがメリットになります。
世界的に使用されている締結方法なので、足回りの部品を含め世界中で共有できるのも利点かと思います(厳密にはサイズや規格違いがありますので、すべてではないのですが……)。
そこで脱輪事故は左側が多いこともあり、以前のJIS方式の最大の特徴である「逆ネジ」ではなくなったことが脱輪事故多発の原因ではないかと言われ始めました。
ちなみに逆ネジとは、車両の左側のネジが通常は緩む方(左回転)に回せば締まるネジのことです。以前の逆ネジの効力ですが、回転方向に対してのナットにかかる慣性がネジの締まる方向のため、ネジが緩みにくいということなんです。
ホイールを締めているナットにはあらゆる方向からの力が掛ります。カーブ走行による横方向からの入力、路面からの振動、そして減速時の慣性力ですね。そこでISOに切り替わり、すべて右ネジになってから脱輪事故が増えたということですが、確かに一因として考えるのは正しいと思います。
■どうしたら脱輪事故を防ぐことができるのか!?
タイヤ交換などの作業終了後、数100mから数km、あるいは数日後に脱輪事故が起きたら、これは明らかに作業ミス、つまり締め忘れなんですね。そこはヒューマンエラーであり構造上や軸力低下のメカニズムには含まれません。
問題は数週間後、数カ月後の脱輪事故です。これは作業する側からすれば締め付けは完了していると思われるワケで、ユーザーさんも不可解でしょう。
そこで先ほどのトルク管理なんですが、規定トルク値はボルトナット、パーツが新品あるいはそれに近しい状態での設定値を想定しています。
したがってホイールとハブの合わせ面のサビやゴミ、摩耗、ボルトナットのネジ部のサビ、ゴミの除去が締め付け前の大事な作業となるワケです。手でナットがスルスル回るくらい抵抗が少なければ、規定トルクで締めたとしてもロスも少なく、狙い通りの軸力は確保できるのではないかと考えます。
ボルトナットの清掃後の点検で異常がなく、油分を塗布し規定トルクで締めたとしてもまだ終わりではありません。もう1つ大切なのが「増し締め」です。
締め付け終了後約50〜100km走行すると、ナットの座面とホイールの当たり面等の微細な凸凹が走行の外力により馴染んて平滑な感じになっていきます。そこで数ミクロンとはいえ凸部がなくなると、その分の軸力は低下します。
低下した軸力にさまざまな方位からの外部応力、振動、減速時の慣性力等がナットに働きかけ、わずかずつですがナットが緩んでいくというワケです。
この「初期なじみ」による軸力低下を防ぐには「増し締め」しかありません。なじみにより軸力が低下した分は再び規定トルクにて締め付ければ、緩む原因は格段に減り、軸力確保は確実なモノになるハズです。
作業する側はネジの締まる(緩む)メカニズムを理解し、それに沿っての作業。またユーザーも締め付け作業終了後の増し締め、そして日々の運行前点検でのナットの緩み確認のラインマーカーや点検ハンマーによる点検が必要です。
規定トルクで締め付け、軸力の安定しているナットはいきなり緩んで脱落することはありません。それには日々の目視や打診の運行前点検が肝心。これが定着すれば、脱輪事故はきっと減少へ向かうはずです。
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