大勢で移動できるミニバンは便利だが、同乗者にとって重要なのは快適に移動できるかだろう。乗り心地はもちろんだが、乗り物酔いしやすい子供などが同乗しているときは、酔いにくいことも重要だろう。
では酔いにくいミニバンに求められるのはどのような性能だろうか。今回は乗り物酔いのメカニズムと、それから導き出される最適なミニバン3台をご紹介しよう!
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、TOYOTA、AdobeStock(トップ画像=metamorworks@AdobeStock)
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■クルマ酔いのメカニズムと予防策
クルマでの外出は楽しいが、クルマ酔いをする人には気が重い。クルマ酔いが頻発すると、乗り込んだ時点で、出発前から気持ちが悪くなることもある。
クルマ酔いは、一般的には自律神経が引き起こす病的な反応とされる。車両が走行すると、前後、左右、上下方向の揺れや加減速が生じる。この動きは内耳で感じ取るが、その情報と目や体で感じた情報が異なると、脳が混乱してクルマ酔いを発生させる。
同じ人が、同じ車両に乗った時でも、自分で運転するか、あるいは助手席や後席に同乗するかで、クルマ酔いの仕方が大きく変わる。ドライバーがクルマ酔いを発生させるケースもあるが、一般的には同乗者が圧倒的に多い。
それはドライバーは車両を運転しているため、これからどのような挙動変化が発生するかを予測できるからだ。運転中には進行方向を注視するために視線もブレず、運転に要する適度な緊張や集中も、クルマ酔いの発生を妨げる。
この違いは、峠道などのカーブを曲がる時の、ドライバーと同乗者の姿勢変化を見ても良く分かる。同乗者の上半身は、遠心力の作用でカーブの外側に振られるが、ドライバーはカーブの内側へ積極的に体を傾かせることが多い。ドライバーと同乗者では、カーブを曲がる時の体の傾き方が逆になりやすい。
ドライバーが自分で体を内側へ傾かせる理由は、ステアリングホイールを回す操作をすることで、車両が旋回状態に入ることを実感するからだ。そこで遠心力に対抗するため、無意識に体を内側へ傾かせる。
つまりドライバーは、車両がこれからどのように動き、自分にどのような力が加わるかを自然に把握できるから、クルマ酔いも発生しにくい。内耳で感じ取る情報と、目や体で感じる情報が一致しているから、脳が混乱しにくいわけだ。
そのためにクルマを運転せずに同乗する時でも、助手席は後席に比べて、クルマ酔いを発生させいにくい。
助手席は前方の様子が後席よりも良く分かり、これから車両挙動がどのように変化して、自分の体にいかなる力が加わるのかが予想しやすいからだ。助手席は後席よりも、内耳で感じ取る情報と、目や体で感じる情報を一致させやすい。
■クルマ酔いしにくいクルマの特徴
以上を踏まえると、クルマ酔いを発生させにくいクルマの条件も分かる。まず車両の性能としては、重心をなるべく低く抑え、足まわりは過度に柔らかくせず、前後左右に振られにくい挙動にすることが大切だ。車両が同じ角度に傾く場合でも、挙動の変化を穏やかに進めて、唐突な動きを抑えたい。
これはそのまま走行安定性の優れたクルマの条件にも当てはまる。挙動が唐突に変化せずボディの傾き方も適度なら、カーブを曲がったりする時や危険を避ける時の安定性も優れている。従って走行安定性の優れたクルマは、クルマ酔いも発生させにくい。
内耳で感じ取る情報と、目や体で感じる情報の不一致を生じにくくするには、視界も重要だ。
前述の通り、助手席は後席に比べてクルマ酔いを発生させにくい。前方がしっかりと見えるクルマ造りが求められる。そうなるとクルマ酔いをしにくい理想のクルマは、ボディの傾き方が適度で唐突な挙動変化も発生せず、なおかつ後席からも前方が良く見えるクルマになる。
難しいのは、車両の挙動変化と視界のバランスだ。挙動が唐突に変化せず、ボディの傾き方も適度なクルマは、セダンのように重心の低い車種になる。
ただしこのようなカテゴリーは、着座位置も低めだから、後席に座るとクルマに潜り込んだ感覚になりやすい。前後席のシート間隔も近いから、後席に座ると目の前に前席のヘッドレストがあり、圧迫感が生じて前方の様子も分かりにくい。
このあたりのバランスを考えて、家族で使いやすいクルマを考えると、カテゴリーではミニバンがベストだ。高重心だから左右に振られやすいが、開放感があり、機能的にも車内が広いから使いやすい。
その上で、ボディの傾き方が適度で唐突な挙動変化も発生させず、なおかつ後席からも前方が良く見えるミニバンを考えたい。なおオデッセイは生産を既に終えているので、候補からはずしている。
■クルマ酔いを発生させにくいミニバンランキング
●No.1:ホンダ ステップワゴン
プラットフォームは先代型と共通だが、挙動の変化は穏やかだ。後輪の接地性が特に高く、高速道路で横風にあおられた時も、左右に振られにくく乗員も安心できる。峠道を走る時でも、挙動は安定している。これらはクルマ酔いの発生を抑える効果がある。
そして2/3列目のシートに座って前方を眺めると、サイドウインドーの下端が前方へ一直線に伸びている。車内の見栄えがスッキリとシンプルで、後席に座る乗員の視線が自然に前方へ向かう。そうなると遠方の風景を見るから、車両が上下左右に振られても、視線はブレにくい。
前方が見やすいように、背もたれの形状も、少し細身にするなど工夫を施した。カーブが近付くと、後席の乗員もこれから生じる挙動変化を予想しやすく、クルマ酔いも生じにくい。
3列目のシートは、座面を21mm厚くして、背もたれも改善することにより座り心地を向上させた。快適性を高めると同時に、着座姿勢も安定させている。着座姿勢が不用意に乱れにくく、これもクルマ酔いを防ぐ効果がある。
ちなみにステップワゴンの開発では、クルマ酔いの研究も重点的に行い、デザインや足まわりの設定に反映させたという。
●No.2:トヨタ ノア&ヴォクシー
現行型になってプラットフォームなどが刷新され、走行安定性も向上した。これに伴ってボディが左右に振られにくくなり、乗員にも不規則な力が加わりにくい。走行安定性の向上により、クルマ酔いを防ぐ効果も得られた。
またステップワゴンと同様、シートは背もたれの形状を見直して、2/3列目に座った乗員の開放感や前方の見やすさにも配慮している。
ミニバンは家族で使う機会の多いカテゴリーで、幼い子供も同乗するから、クルマ酔いに配慮した開発を行う。設計の新しい車種ほど、その傾向も強まり、ステップワゴンと併せてノア&ヴォクシーもクルマ酔いを生じにくいミニバンとなった。
●No.3:トヨタ アルファード
アルファードは、クルマ酔いのしにくさを考えると、乗り心地が柔らかい。それでも3位に挙げた理由は、車内が広くて開放感も伴うからだ。3列目に座っても、2列目との間隔が十分にあるから、圧迫感が生じにくい。ウインドーの面積も広く開放感がある。
室内幅が広いから、車内の中央に広い空間があり、3列目に座っても前方を見やすい。これらはクルマ酔いを抑える効果を発揮する。
このほかデリカD:5も、唐突なボディの傾き方を少なく抑えた。セレナ、シエンタ、フリードは、いずれもフルモデルチェンジを控えており、現時点では推奨しにくい。クルマ酔い以前の課題として、ミニバンを選びにくい状況になっている。
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