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朝、目覚めて洗面台の前に立ち、鏡に映る自分を見てつぶやいたことはないでしょうか。「…なんか最近、老けたなあ」。もしかしたらそれは、“回数券”の使いすぎが原因かもしれません。 

何の“回数券”かって?それは、誰もが持っている「命の回数券」。研究により、この回数券は、老化だけでなく、ガンや心筋梗塞、認知症などの病気にも関係することがわかってきました。それだけではありません。研究により、回数券を補充する方法も判明しているのです。前編の今回は、命の回数券につながる「DNA」についてお話します。

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自分は一体、何者なのか

みなさんの体を作っている約37兆個の細胞全てに含まれている物質、「デオキシリボ核酸(以下DNA)」。DNAには、本にすると3万冊以上に匹敵する膨大なデータが記録されています。何のデータかって?一言でいうなら「人間1人を作りあげるために必要なデータ」です。

その膨大なデータのうち約2%は、皮膚、髪の毛、筋肉、臓器など、みなさんの体を作っている「タンパク質の設計図」で、そのほぼ全てが解明されています。「たった2%!」と思うかもしれませんが、みなさんの体を作っているタンパク質は、ざっと10万種類。それらすべての設計図です。これだけでも膨大ですよね。

では、残りの98%は何のデータなのでしょうか。今、この98%の部分の研究が進み、少しずつ解明されています。例えば「カフェインの分解能力に関するデータ」。「早く分解できる」というデータをもつ人にとってカフェインは体に良いですが、「分解に時間がかかる」というデータをもつ人にとっては心臓に負担がかかるのだとか。たしかに、「カフェインは体に良い」と書いてある記事もあれば「体に悪い」と書いてあるものもありますよね。結局、どっちも正しいのです。その人のDNA次第といったところでしょうか。

DNAから、ある程度の性格だってわかります。例えば「運動」「意欲」「快楽」に関する神経伝達物質「ドーパミン」。ドーパミンに関するデータが短い人はドーパミンの影響を受けにくく「好奇心が弱い」。言い換えれば「地道」な性格の人とわかるのです。アメリカではこうした性格のデータを企業の人事配置や教育方法、スポーツ種目の適正などに利用しているのだとか。さすが、アメリカらしく合理的ですよね。

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そして驚くことに、DNAのデータから顔さえも精密に再現できるまでになりました。まだ研究途上ですが、アメリカではすでに未解決事件の犯罪捜査に利用されているようです。未来の日本でも、「この顔見たら110番」のポスターが犯人のDNAを元に作成され、気持ち悪いほどにリアルになっているかもしれません。

このように、DNAのデータにはその人の「体の特性」「性格」「顔」などすべてが記されているため、そのデータを知ることは、自分自身を知ることなのです。「自分はどんな性格なのか。何が得意で何が苦手なのか…」。もちろん性格や頭髪など、環境の影響を受けるものもあるためデータが全てではないですが、「自分は一体、何者なのか」をデータとして知っておくと、生きるのが少し上手になるかもしれません。

特に不器用な私はそう思ってしまうのですが、この歳になっても「自分にはこんなところがあったんだ」と気付くこともあり、それが生きる醍醐味なのかなとも感じています。みなさんはどうですか?知りたいですか?データに記されている、自分の正体を。

膨大なデータを記録する方法

ところで、DNAは本3万冊分の膨大なデータを、どうやって記録しているのでしょうか。実は、DNAは4種類のパーツが結合してできています。すなわち、膨大なデータをたった4種類のパーツ(A•G•C•Tと表します)の並び方で記録しているのです。ただし、並んでいるパーツの数は約60億個!

想像してみてください。「赤、青、黄、白の4種類ビーズを60億個、つないで1本の鎖を作りましょう」といわれたら、その並び方は「すごい数」になりますよね。人間一人を作り上げるために必要な膨大なデータはこのようにして記録しているのです。

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「たしかに膨大なデータは管理できるかもしれないけど、鎖の長さがヤバいことにならない?」と思ったあなた。その通りです。1つの核に入っているDNAは全部で46本あり、それらを全部合わせると全長は約2m!みなさんの身長よりも長いですよね。そのすべてが小さな細胞の核1つ1つに入っているのです。いったいどうやって収納されているのでしょうか。

ミシン糸を思い浮かべてみましょう。ミシン糸はとても細くて長いですが、絡まないようにプラスチックの芯にきれいに巻つけてありますよね。同じように、DNAはたんぱく質の芯に巻つけられ、さらにそれが折りたたまれて収納されているのです。自分のデータが、細胞の核の中でミシン糸のように収納されているなんて、なんだか神秘的ですよね。