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 日産初の軽EVとして2022年5月20日に発表・6月16日に発売された「サクラ」の受注台数は、日産自動車広報部によると同年7月19日時点で2万2000台を超えたという。

 日産サクラは、なぜここまで好調なスタートを切ることができたのだろうか。日本の足である「軽自動車」と「電気自動車」という組み合わせだからだろうか? 

 そこで、今回は日産サクラの魅力から、三菱との共同開発に至る経緯など、さまざまな視点で、成功の秘訣を解説。そして、日産サクラが今後、EV入門車としての地位を持つことになるのかについて考察する。

文/御堀直嗣、写真/NISSAN、佐藤正勝、池之平昌信

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EVの魅力を軽自動車の価格帯で満喫できる日産サクラ

2022年5月20日に発表された日産の新型軽EV「サクラ」。政府補助金込みで約178万円からという手の届きやすい価格で売れ行き好調

 日産自動車初となる軽自動車の電気自動車(EV)サクラは、発表から3週間で1万1429台の受注を得た。その後も受注は衰えることなく、6月末には1万7000台に達した。2010年に初代リーフが発売された当初の年間販売台数は1万台ほどであったので、1カ月余りで2倍近い反響があったといえる。

 ここ数年で、国内においても脱二酸化炭素(CO2)への関心が一般的に高まったのに加え、EVの車種が国内外を含め増えたことにより、それほどまれな存在でなくなったこともある。しかしそれでも、輸入車を中心に高価格帯のEVが多く、値段的には待ちの状態であった消費者が多かっただろう。

 しかし、サクラの約233万円からという価格は、EVを一気に身近な存在にしたはずだ。同時に発売された三菱自動車工業のeKクロスEVも同等の価格帯である。これに国の補助金を活用すると、55万円が支給されるので、サクラの廉価車種の値段は178万円相当となる。最上級車種でも、294万円から55万円を引けば239万円だ。

 日産リーフは、約370万円からの価格設定で、補助金は85万円とサクラより多いが、実質285万円からの出費となるので安くはない。装備の充実した上級車種になれば407万円で、補助金を使っても322万円だ。300万円前後という価格帯は、庶民の買えるクルマの値段を超えている。ハイブリッド車だが日産ノートなら約202万円から手に入るのだ。

 サクラは軽自動車とはいえEVであり、そこに意義を感じる消費者が、ノートではなくサクラを選んでいるといえるだろう。

 そのうえで、サクラのEVとしての価値を改めて検証してみる。搭載するモーターの性能は、軽自動車のガソリンターボエンジンと同等の出力であるばかりか、トルクは2倍近い。今回、大人4人乗りで試乗をしたが、発進加速でもたつくことはなく、高速道路での追い越し加速にも不足はない。

 ノートの最新e-Powerもかなり騒音対策が施されているが、サクラの静粛性はEVならではのもので、モーターを車体骨格に吊るして搭載する工夫もあって、振動も抑えられている。20kWh(キロ・ワット・アワー)の容量を持つリチウムイオンバッテリーを床下に搭載することにより、ガソリン軽乗用車のデイズより50mm重心が低く、なおかつ車両重量が重くなることにより、安定した重厚な乗り味を体感できる。

 座席のつくりもよく、後席もゆったり座ることができ、前後の座席位置の調整次第では、ストレッチリムジンのような広い空間を味わえる。基となったデイズがハイトワゴンなので、天井の高さがそうした室内のゆとりを覚えさせ、なおかつ車内の静けさが上級車の趣をもたらすのである。

 日産は、サクラを「ゲームチェンジャーになる」と期待しており、その運転感覚や性能、また同乗しての乗り心地は、もはや軽とは思えない感触をもたらしている。実際に運転し、また同乗して後席に座っても、走りだして間もなく軽自動車に乗っているとの意識は消えた。

 軽自動車の価格帯でいえば、補助金を利用することによりガソリンターボエンジン車と同等の金額で手に入り、登録車のノートと比べても、ハイブリッドではないEVの特徴を満喫できるとなれば、サクラに食指が伸びる人は多いはずだ。

 当初の受注では、日産以外の軽自動車、しかもいま絶大な人気のスーパーハイトワゴンからの乗り換えや、登録車のハイブリッドからの乗り換えが、半数以上であるという。すでに消費者の価値判断が、大きく変化しだしたことを伺わせる。

日産サクラの低価格はどうして実現できたのか?

日産サクラの兄弟車である三菱eKクロスEVも受注好調

 価値判断の変化を促した背景にあるのは、EVとしての充実した性能と、価格破壊といえる原価低減への努力であろう。

 サクラは、三菱自動車工業のeKクロスEVとともに、日産、三菱自、そしてNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)の共同企画および開発により、生産に至っている。そして、日産と三菱自は、十数年におよぶEV販売の実績を持つ。

 2009年に、三菱自は軽EVのi-MiEVを発売した。日産は翌2010年に初代リーフを発売している。以来、両社は、さまざまな苦労をしながらEV販売を続け、日産はこの間にリーフを2代目へ進化させている。

 三菱自は、i-MiEVの後継となる軽EVの開発を模索し続けていたという。しかし、i-MiEVの当初の価格は軽自動車でありながら459.9万円と高価で、販売に苦戦し、次期型への余力をなかなか持てずにいた。

 そうしたなか、三菱自と日産が、2016年に提携関係を結ぶことになった。その前、2011年には、出資を両社で折半するNMKVを設立し、軽自動車の開発と生産で協力関係を結んだ。その成果は、2013年に日産デイズと三菱eKワゴンが発売となることにはじまる。こうしたなかで、次期軽EVの構想は温められていった。

「EVは売れない」と、懐疑的な自動車メーカーがあるなか、しかも軽EVは原価的に厳しいと見てきたメーカーもあるなかで、日産と三菱自は、十数年におよぶEVの知見を駆使して原価低減に取り組んだ。

 サクラとeKクロスEVで使われている駆動用モーターは、アウトランダーPHEVや、ノートe-Powerの4輪駆動車で、後輪駆動用に使われているものを活用している。

 車載バッテリーは、リーフの40kWhのちょうど半分の容量で、セルはそのまま同じものだ。リーフは世界60万台以上の累計販売台数を誇っており、初代と2代目でバッテリーの仕様は異なるが、それでも、ラミネート型という基本設計は同じで、それだけの数を生産し続けてきたいま、当初に比べ原価は下がっているだろう。

 世界的にリチウムイオンバッテリーのギガファクトリーが建設されているが、リチウムイオンバッテリーの原価は大量生産によって下がるのである。

地道な軽EV開発の積み上げで他社には真似できない販売価格を実現!!

 EVの要となる部品について、両社の過去十数年の取り組みがサクラとeKクロスEVの原価低減に活きている。2社による販売という点でも、数による原価低減を上積みできる。

 そこを視野に、ガソリンエンジン車の日産デイズと三菱eKワゴン/eKクロスの開発がはじまったときから軽EVを視野にプラットフォームの開発が行われた。したがって、ガソリンエンジン車のデイズやeKワゴン/eKクロスのプラットフォームは、バッテリー車載可能な構造となっている。車体骨格部分をガソリンエンジン車と共通とすることにより、ここでも数による原価低減が果たせている。

 そのうえで、岡山県にある三菱自の水島工場は、i-MiEV時代からガソリン車(アイ)と混流でEVを製造してきた実績があり、2020年に三菱自は水島工場へ約80億円の設備投資を行ったが、それは生産設備の改良程度で収まる金額であるという。新たにEVを生産するとしたら、さらに多くの投資が必要になるだろう。それは、原価低減に壁をもたらす。

 そばから見た目には、苦戦するだけと見られてきた日産と三菱自のEVへの取り組みが、両社の提携や、NMKVの設立などを通じ、積み上げられた知見や生産設備の基盤として活かされ、日産サクラと三菱eKクロスEVの販売価格は実現した。

 今日の技術をもってすれば、競合他社も軽EVを開発することはできるだろう。しかし、それをサクラやeKクロスEVと競争力のある価格で販売するのは、一朝一夕ではないはずだ。

 いっぽう、サクラやeKクロスEVの性能は、そのまま海外へ展開しても商品力を持つであろうし、軽EVを活かした原価低減は、小型EVでもこの先威力を発揮する可能性がある。

 世界の目は、大容量バッテリーを搭載し、一充電走行距離の長さを競うことに奪われているが、実は、庶民が日々使えるEVという性能と価格の調和は、軽EVを実現した日産と三菱自しか手に入れられていないといえる。そこに、日本のEVにおける優位性は残されている。

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