富士スピードウェイでの第3ラウンドが終了したファナテック・GTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイ・AWS。全6ラウンド中4ラウンドが日本で行われ、そこでは“ジャパン・カップ”のタイトルも争われるとあって、富士では日本のエントラントを中心に25台の車両が参戦し、盛り上がりを見せた。
GTWCアジアに参戦する日本のエントラントには、スーパーGTのGT300クラスやスーパー耐久など日本のトップカテゴリーでGTレースを戦ってきたドライバー・チームも多い。
そんな彼らに、なぜGTWCアジアへの参戦を決めたのか、そして実際に始まってみてどう感じているかを聞いてみたところ、レースフォーマットやコスト、そこから得られる満足感など、このシリーズが彼らのニーズに“ハマる”存在であることが分かってきた。
GTWCはSROモータースポーツ・グループが統括するシリーズで、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、アジアの各地域でシリーズ戦が行われている。さらにその中のスパ24時間やインディアナポリス8時間など、各シリーズを代表するレースでは、IGTC(インターコンチネンタル・GTチャレンジ)も構成されるなど、GT3車両をトップカテゴリーに持つレースとしては、世界規模の広がりを見せているシリーズだ。
GTWCアジアでは、基本的に1時間の決勝レースを1ウイークに2回(2戦)行う。ドライバーば1台あたりふたりで、決勝では25分経過時点から10分間、ピットウインドウがオープンとなり、ドライバー交代が義務付けられるフォーマットだ。
■スプリントであることの、ふたつの効能
1時間のスプリントレースを戦うことについて、「久々のJAFグランプリかな、という感じです」と語るのはDステーション・レーシングのアストンマーティン・バンテージAMR GT3で星野敏とともに出場する藤井誠暢だ。
実質的にひとりが担当するのは30分という短時間。「だからバチバチなんですよ。ここぞとばかりにみんな(インに)飛び込んでいくから」と藤井。
カーガイ・レーシングのフェラーリで参戦し、木村武史とともにここまで2勝を挙げているケイ・コッツォリーノは、このバトルの多い展開を「ちょっとDTMっぽい」と表現している。「鈴鹿はちょっとSC(セーフティカー)が出過ぎでしたけど、格闘技というか、バチバチのレースになりますよね」。
ヨギボー・レーシングのフェラーリ488 GT3をドライブする藤波清斗も「タイヤのこと考えずにガンガンプッシュしていけるのは、すごくいい」とこのフォーマットを評しており、彼らプロドライバーにとっても久々に“ハコ車のスプリント”ができる場として、受けているようだった。
そしてもうひとつ、大事な要素としてコストの抑制がある。同じくGT3車両を使用した国内レースとしては、スーパーGTのGT300クラス、スーパー耐久のST-Xクラスがあるが、スプリントフォーマットであることによって格段に安いコストで参戦可能であることが、GTWCアジアの最大の魅力となっているようだ。
「いま日本国内で、GT3車両でこれだけ低コストでできるレースはないんですよ」とコッツォリーノは言う。
「耐久レースになると人も機材も増えてコストが格段に上がります。スーパー耐久は正直、スーパーGTよりもコストがかかりますし、そう考えると今後は(GTWCアジアへの参戦チームが)すごく増えていくんじゃないかと思いますね」
Dステーション・レーシングでチーム運営にも携わる藤井もこの意見に同調し、次のように説明している。
「GT3は車両は安いですけど、パーツが高いんですよ。また、ロングレースとなればスタッフの数も必要になる。でもこのレースなら、メカニック4人くらいできてしまうんです。あとはエンジニアとマネージャーくらいいれば大丈夫。そうするとコンパクトじゃないですか。(ピット前の)給油タワーがなくてもできるので、GT3やGT4車両を持っていたら、参戦コストは一番安いと思います。それでいて、1ウイークに2レースできますしね」
■『プロ』も『アマ』も評価される“世界基準”イベント
また、SROが世界各地で展開するシリーズ戦の一部であることに参戦価値を見出しているドライバーもいる。プラス・ウィズ・BMWチーム・スタディから山口智英とともに参戦している荒聖治だ。
「最近、こういう世界基準のレースが少なくなってきたじゃないですか。昔、僕らの世代だと、全日本F3を戦っていても、マカオGPではイギリス、ドイツ、フランスとかの速いドライバーとレースができる、という夢がありましたし、世界のなかで自分がどのあたりにいるのかが分かりました。そういう世界基準のレースであるという点が、まずは一番の魅力ですね」
GTWCアジアでは、FIAのドライバー・レーティングでブロンズにカテゴライズされるアマチュアドライバーをひとり含む“プロ・アマ”の組み合わせが主流となっており、山口(ブロンズ)・荒(ゴールド)組もこのプロ・アマクラスからエントリーしている。
これについて荒は、同コンビで過去2年にエントリーしていたスーパーGTとの違いを、次のように表現する。
「スーパーGTだとプロのレースになってしまうので、(プロ・アマのコンビは)上に行くのが厳しかったりしますし、プロとアマのコンビネーションの評価はされないですよね。でも、いまはル・マン(WEC)などでもプロ・アマが組んでレースをするのが主流になってきていますし、このGTWCではプロとアマのコンビでレースしたものがきちんと評価され、表彰してもらえる。その点で、我々にとっては待望のカテゴリーなんです」
1時間の決勝では、25分経過時点からの10分間でドライバー交代をする必要があるため、ドライバーふたりの“コンビ力”が偏ることなく結果になって現れる。一方、予選では両ドライバーが別々の時間帯で出走するため、プロはプロのなかで、アマはアマのなかで一発の速さを比べることも可能となっている。総合力、個人力の両方を示す場が用意されていることにより、プロ、アマ双方にとって魅力的な環境になっている、と言えそうだ。
荒も言うように、WECではLMP2、LMGTEアマクラスでアマチュアドライバーが活躍しており、世界的に見てもその地位やスキルは格段に向上している。アマチュアドライバーはいまや、マニュファクチャラーにとっては大事なカスタマーであるし、観客にとってもときにプロに劣らない魅力的なレースを見せてくれる存在となっている。
「日本のジェントルマンドライバーって、結構レベルが高いじゃないですか。それでいて、(ポルシェ)カレラ・カップやフェラーリ・チャレンジとかからステップアップしたいと思っても、行き場がないのが現状。そこにこういうカテゴリーがあればステップアップもできますし、我々プロにとっても乗る機会が増える。日本で、アジアで、誰がジェントルマンで一番速いのかを決めるというのも、夢があっていいんじゃないかと思います」(荒)。
ヨギボーの藤波もまた、GTWCのドライバーのレベルの高さには驚いたと語る。それはプロ、アマの双方に言えることだという。
「プロはガチガチの速いドライバーが来ているのですごく刺激になっていますし、海外のアマの人もいろいろなコースで走っているからか、めちゃくちゃ速い。だから日本のアマの方がチャレンジする場としてもすごくいいと思うし、これがきっかけで世界に行きたいと言う人も出てくるかもしれませんね」
藤波自身も、国内レースとは違った”作法”に新鮮さを感じているようで「日本のレースだと、すごく『フェアに、フェアに……』という部分がありますが、海外だとちょこちょこ当たりながら抜いたりするし、そのあたりの駆け引きの強さだったりとかは身につくのではないかと思います」という。
「(プロにとっても)ポルシェ、メルセデス、フェラーリと、メーカー側の人たちが見ているわけで、そこでぶっちぎった走りをすればオファーが来るかもしれないわけですし、それもいいですよね」
■細かく配慮されたレギュレーションと“欧州感”
また、GTWCでは細かなレギュレーション面が配慮されている、という声も聞かれた。
アマチュアを大事にするという精神は、プロ同士、すなわちシルバードライバー2名のコンビとなる『シルバークラス』の車両に、重量ハンデ(富士戦時点では35kg)が与えられるというシステムからも、明確に見てとれる。「プロ・プロ(シルバー同士)で組んだ方が、条件としては不利になる。そこがミソだと思います」とカーガイのコッツォリーノ。実際、このシルバークラスでエントリーするヨギボーの横溝直輝/藤波組は、プロ・アマクラス相手に苦戦するといった構図も富士では見られた。
このほかにも、前戦トップ3車両にピットタイムの加算ハンデがあることや、GT3とGT4との(最低ピットタイム含む)適切なタイム差があり、それが結果的にGT500とGT300のようなラップダウンを絡めたバトルを生む点など、レースを面白くする要素が散りばめられている。
「タイヤのセット数規定や、テスト規制もちゃんとしていて、お金がかかりすぎないようにできているし、ニュータイヤの使いどころなど、工夫の余地があるのもよくできていると思います」とDステーションの藤井は語る。
「あとは演出ですよね。ロゴひとつ、写真1枚、SNSをとってみても、すべてがヨーロッパ・テイストですから」
「僕も昔コーチングでGTアジアのレースに行っていましたが、あのときはアジアン・テイストでした。でもいまはSROがやって、ブランパン・シリーズからGTワールドチャレンジになってと、グローバル化しているじゃないですか。それを経た今回のGTWCアジアはもう、『ヨーロッパのレースやってるな』と感じるくらい、変わったと感じています」
■来シーズンの台数増加は確実?
どの関係者も「来季はもっと参戦車両が増えるはず」と口に出し、実際に参戦に向けた動きもいくつか聞こえてきている。今季の日本戦は残り2ラウンドだが、そこでも新規参戦車が増える可能性はあるようだ。
もちろん、課題もないわけではない。鈴鹿での第4戦ではアクシデントが続出し、大半がセーフティカー先導での走行となってしまった。「本来ならフルコースイエローがあれば理想ですが、機器面でも複雑になるし、コストもかかりますからね」とコッツォリーノは言う。
また、当然ながらこのイベント単体でサーキットに多くの観客を呼び込めるかというと、現状では理想的な状態とは言えない。かつての鈴鹿10時間のようなネームバリューのある1戦がシリーズに存在すれば『起爆剤』となり得るだろうが、鈴鹿10時間はプロドライバーが多く参戦し、長時間の耐久レースと、ある意味現在のGTWCアジアのコンセプトとは対照的なイベントである。さらにSRO代表のステファン・ラテルも、その復活は「非常に難しい状況」と語っているだけに、今後は別の方法論の模索も必要となるだろう。
加えて、より多くの注目と参戦を集めるためにも、来季以降は日本の主要レースとの日程重複も避けたいところだ。
今季、残るは3ラウンド。うち2ラウンドは、日本での開催(SUGO、岡山)となる。新生なったGTWCアジアで、白熱のスプリントレースが展開されることを期待したい。