もっと詳しく

「第3の年金」とも称される「リスク分担型企業年金制度」を、日立製作所がグループ会社にを全面導入することが明らかになった。日本経済新聞が24日の朝刊一面トップで掲載し、ネットでも注目された。同制度は、日立本体ではすでに2019年4月から導入されているが、今回は、グループ12万人の従業員が対象となる。

KathyDewar /iStock

「第3の年金」リスク分担型とは?

企業年金は従来、「確定給付型年金(DB)」と「確定拠出型年金(DC)」の2種類があって、前者は企業が掛け金の拠出から運用、将来の給付まで責任を持つのに対し、後者は企業が掛け金を拠出して、従業員が預金や投資信託などから自金融商品を選んで自身の判断で運用していくもの。「第3の年金」という俗に呼ばれるのは、2017年に創設されたリスク分担型企業年金は給付型と拠出型の“中間型”に位置付けられる所以だ。

リスク分担型が創設された背景には、給付型と拠出型、双方にデメリットがあるからだ。給付型は運用成績が悪くなれば企業が追加で掛け金を出さなければならず、業績悪化につながってしまう恐れがある。日立の給付型の年金債務は22年3月末で約1兆8700億円と国内最大級で、ひとたび何かあれば不良債権化しかねない。

対する拠出型は、将来受け取る年金額が運用結果で変動する。そのため企業の運用リスクはなくなる一方で、従業員個人の投資スキルに依存するため、老後の資産形成が進まない恐れがあるなど、従業員側のリスクが増大する。そこでお互いのリスクを労使で分担しようということで、リスク分担型が生まれたものだ。

「労使ともに平等」な制度か?

大阪では「安心と信頼」を謳っている日立グループだが…(gyro /iStock)

日立では2013年に確定給付型を導入し、10年国債応募者利回りと連動した指標利率を用いたキャッシュバランスプランを採用してきたが、近年は国債利回りが想定より低い水準で推移しているため、指標利率の見直しが求められていた。さらに中長期的に持続可能な年金制度を維持するためにも、企業側のリスク低減が急務だった。

リスク分担型企業年金の具体的なスキームはこうだ。具体的には運用主体は確定型同様に年金基金が行うが、給付額については一定の給付額を決めた上で運用成績に応じた金額が加算される。企業の掛け金は、給付に必要な掛け金に加え、積み立て不足を想定した「リスク対応掛け金」をあらかじめ拠出する。

つまり、どれだけ運用で損が出ても、企業側としてはリスク対応掛け金しか追加のカネは出しませんよ、ということであり、従業員側は最低保証はされるものの、そこにプラスアルファがあるか否かは運用成績次第ということだ。

今回の「リスク分担型企業年金制度」。日経新聞が大々的に報じていることもあって、一見すると、労使ともに平等でともに痛みを分かち合う制度に思えなくもないが、果たしてそうだろうか。企業側が体よくリスクと責任から逃れようとしている風にしか見えないのは、こちらのうがち過ぎか。

バブル崩壊後、経済状況の悪化に伴い、企業はその負担に耐え切れずに自己責任の大義名分のもと、社員に対する責任をことごとく放棄してきた。新卒採用、賃上げ、終身雇用……そして、今度は年金だ。

特に就職氷河期世代は、難関をくぐり抜けてやっと就職できたと思ったら、給料は上がらず、リストラに怯えながらも一生懸命働いていたら、引退した後の年金まで雲行きが怪しくなってきた。どこまで痛めつけられればいいのだろうか。つくづく日本のサラリーマンは大変だ。