ゴルフが誕生して以降、常にこのクルマがベンチマークとなってきたコンパクトカー市場。しかし、いまやこのクラスも選択肢が多様化しつつある。そんな中、ゴルフやライバルたちは、どのような手段で自らのポジションを確保しているのか。ここでは、それぞれ固有の持ち味に迫った。
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進化しつつ”基準”を守り続けるゴルフ
「コンパクトカーの世界基準」という称号を、実に8代に渡って守り続けているゴルフ。実際、その実力はどの世代においてもトップクラスで、個々の性能でゴルフを凌ぐクルマはあっても、客観的に総合力を判断すればその牙城を崩すには至らない……というのが長らくこのクラスの常識だった。
そんな、文字通りの”お手本”的な出来映えはもちろん現行型でも変わらない。電動化、デジタル化という時代の流れにはマイルドハイブリッドを筆頭とする堅実な手法で対応しながら、クルマとしての基本性能はしっかりと作り込まれていて、欠点らしい欠点など見あたらないというのが実際のところ。現在の欧州Cセグメント級では中庸なボディサイズ、ハッチバックとしては常識的パッケージングとあって室内は取り立てて広い方ではないし、内外装の視覚的要素に新鮮味があるわけでもない。しかし、実際に使ってみれば何ら不満を抱かせないどころか、時間が経てば経つほどに「これが正解なのだ」と実感させる説得力があることもまた事実。
そして、走りのパフォーマンスについても隙はない。ベーシックな1Lターボ仕様は、適度な軽さを感じさせる身のこなしで良質なツール感を実感させてくれるし、1.5Lターボではプレミアム級とも渡り合える質感と速さを実現している。また、今回の試乗車である2Lディーゼルターボに至っては1クラス上の速さに加えて優れた経済性、そしてディーゼルであることを意識させない洗練度の高さを見せつける、という具合。つまり、どれを選んでもハズレはないわけで、ゴルフならではといえる底力、あるいは”基準”たるゆえんはこうした点からも窺い知ることができるわけだ。
【Specification】フォルクスワーゲン・ゴルフTDI Rライン
■全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
■ホイールベース=2620mm
■車両重量=1460kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16Vディーゼル+ターボ/1968cc
■最高出力=150ps(110kW)/3000~4200rpm
■最大トルク=360Nm(36.7kg-m)/1600~2750rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション(F:R)=ストラット:4リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=225/45R17
■車両本体価格(税込)=4,088,000円
■問い合わせ先=フォルクスワーゲングループジャパン 0120-993-199
独自性が魅力のアイオニック5
だが、クルマの電動化が本格化。さらにSUVの台頭といった時代の流れによって現代のコンパクトカー市場は有り様そのものが変化しつつある。そんな中、ゴルフは”変わらないこと”も付加価値のひとつとして権勢を保っているわけだが、そのライバル、あるいはフォロワーたちは従来にも増して独自性をアピールする必要に迫られている。今回、ゴルフと比較するために集められた4モデルは、まさにそんな固有のキャラを意識させる存在と言えるだろう。
まず、同じハッチバックボディでもゴルフとは一番遠い立ち位置にいるのがBEVのアイオニック5だ。大容量バッテリーを搭載するため、その体躯はCというよりDセグメント級の大きさ。タイヤもSUV並みに大径で、ついでに言えば2WD仕様は電気モーターをリアに搭載するので駆動方式の表記もRRとなる。
その外観はポリゴン、あるいはドットといった言葉を連想させる、いかにもBEVらしい出で立ち。それと比較すれば内装はプレーンな仕立てだが、サイズがサイズなだけに室内はゴルフより格段に広々としている。また、ディテールを含めたデザインはクルマのそれというより最新家電のようでもあり、この点でも20世紀的価値観を引きずる内燃機関のモデルとは一線を画している。
しかし、クルマとしての動的な資質はハイレベルだ。強固な骨格や静粛性の高さ、スペックの数値以上に力強い動力性能などは最新BEVなら備わっていて当然だが、アイオニック5ではそれらが素直に表現されていて新しい乗り物を操っているという実感が得やすい。本来、このクルマが対峙すべきなのはフォルクスワーゲンだとIDの名が付くモデルとなるはずだが、2WD仕様なら最大で600kmを超えるアシの長さ、スペックに対してリーズナブルな価格まで考慮に入れれば、ゴルフに対するオルタナティブとなり得る資質は十分と言えるかもしれない。
【Specification】ヒョンデ・アイオニック5ラウンジ
■全長×全幅×全高=4635×1890×1645mm
■ホイールベース=3000mm
■車両重量=1990kg
■モーター種類=交流同期電動機
■最高出力=217ps(160kW)/4400~9000rpm
■最大トルク=350Nm(35.7kg-m)/0~4200rpm
■バッテリー種類/総電力量=リチウムイオン電池/72.6kWh
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=235/55R19
■車両本体価格(税込)=5,490,000円
■問い合わせ先=HYUNDAIカスタマーセンター 0120-600-066
ミニの独自性はもはや「アイコン」の域
そんな、新しさで勝負するアイオニック5とは正反対の存在なのがミニの5ドア。新世代のミニといえばプレミアムスモール・カテゴリー確立の立役者でもあるのだが、最大の特長がクラシックミニの現代的アレンジにあることは言うまでもない。なにを置いても、まずミニに見えることが必須条件であり、実際にその〝原作〞には存在しなかった5ドアがしっかりミニだと感じられるのは誰もが認めるところだろう。
価格的にはゴルフとバッティングする設定ながら、そのサイズは欧州Bセグメント級とあって室内の広さなどはソコソコというところ。ゴルフと比較すればハッキリとタイトだが、それを補って余りあるのがプレミアムを名乗るに相応しい凝ったディテール。ここでもミニ的な見ための演出は執拗なほどで、人によって好き嫌いは分かれるはずだが個性という意味では間違いなく屈指の出来だ。
また、個性的といえば走りの味付けにもそれは当てはまる。今回試乗したディーゼル仕様に関していえば、特に音や振動面について洗練度を欠く印象はある。しかし、ダイレクト感に富んだシャシーのレスポンスは積極的に操る場面だと俄然精彩を放つ類のもの。古臭い、と言ってしまえばそれまでだが、プリミティブなクルマの歓びという視点ではこれもまた固有の魅力と言えるだろう。
【Specification】ミニ・クーパーSD 5ドア
■全長×全幅×全高=4040×1725×1445mm
■ホイールベース=2565mm
■車両重量=1350kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16Vディーゼル+ターボ/1995cc
■最高出力=170ps(125kW)/4000rpm
■最大トルク=360Nm(36.7kg-m)/1500~2750rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=205/45R17
■車両本体価格(税込)=4,280,000円
■問い合わせ先=MINIカスタマー・インタラクション・センター 0120-3298-14
プリミティブなマツダ3
プリミティブな魅力、という点では実はマツダ3も負けていない。その外観は、元々合理性を重視して生まれたFF2ボックスの体裁を取りながらもスタイリング重視。長いノーズとコンパクトなグラスエリア、ボディサイドの繊細な映り込みなどが持ち味となる造形は、あえてファストバックと名乗るに十分な説得力を持っている。
また、試乗車は先進性が自慢のスカイアクティブXモデルだったが、今回改めて感銘を受けたのはいまや古典的とも言える走りの愉しさだった。その技術的な特長は、市販のガソリン車では唯一となる燃焼方式なのだが、6速MTとの組み合わせだと自然吸気エンジンをリミットまで回す面白さが実感できる。もちろん、本来は効率を重視したユニットなのでことさらスポーティな味付けが施されているわけではない。だが、ターボが全盛の現代にあって昔ながらの息吹が、それも5ドアのモデルで味わえるとなれば、マニア的にはそれだけでも守るべき貴重な存在と言うことができるのだ。
【Specification】マツダ3ファストバックX ブラックトーンエディション
■全長×全幅×全高=4460×1795×1440mm
■ホイールベース=2725mm
■車両重量=1430kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+電気モーター/1997cc
■最高出力=190[6.5]ps(140[4.8]kW)/6000rpm
■最大トルク=240[61]Nm(24.5[6.2]kg-m)/4500rpm
■トランスミッション=6速MT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=215/45R18
■車両本体価格(税込)=3,245,000円
■問い合わせ先=マツダ 0120-386-919
※[ ]内は電気モーター
正面突破のプジョー308
さて、このような独自性が際立つ前出3車と比較すると、新しい308の作りは唯一ゴルフと正面からぶつかるものと言えるかもしれない。そのボディは、先代比で全長とホイールベースが大幅に伸びているがパッケージング自体は常識的。室内はゴルフと同等の広さが確保され、フランス生まれらしくラゲッジスペースはそれを凌ぐ容量が確保。一見、奇抜な小径ステアリングをはじめとするインターフェイスも、使い勝手そのものは決して悪くない。
ガソリン、ディーゼル、プラグインHVとパワーユニットの選択肢が多彩な点も魅力的だ。試乗車はディーゼルの1.5Lターボだったが、その走りもゴルフと正面から渡り合える出来映え。組み合わせる8速ATの基本設定が経済性重視なのか、日常的な領域での動力性能は控えめな印象もある。しかし、走行モードを切り替えて積極的に操れば絶対的速さは十二分。音や振動面の遮断も巧妙で、快適性に関してディーゼル特有のネガを意識することもない。
それを受け止めるシャシー回りの完成度も高い。先代と比較すると、単純なしなやかさだけにはとどまらない足回りの堅牢感など、プジョーらしさこそ若干薄まった感がある。しかし、入力に対してサスペンションが正確に動く感触や、インフォメーション性に富んだステアリングは新しさを感じさせるに十分な出来。全体的な洗練度、という点ではゴルフに及ばない部分もあるが、個性的で独自の色気まで感じさせる内外装の仕立まで加味すれば、やはりゴルフの対抗馬としては筆頭格に挙げられる1台と言うことができる。
【Specification】プジョー308GT BlueHDi
■全長×全幅×全高=4420×1850×1475mm
■ホイールベース=2680mm
■車両重量=1420kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16Vディーゼル+ターボ/1498cc
■最高出力=130ps(96kW)/3750rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1750rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:トーションビーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ=225/40R18
■車両本体価格(税込)=3,969,000円
■問い合わせ先=ステランティスジャパン 0120-840-240
フォルクスワーゲン公式サイト
ヒョンデ公式サイト
ミニ公式サイト
マツダ公式サイト
プジョー公式サイト
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